ハードなミリタリーを小粋に ジェンダーレスが新鮮
宮田理江のファッションラボ
トレンチコートやボマージャケットに代表される、ミリタリー感を帯びた装いの人気が続いています。ハードで男っぽく見えがちなミリタリー系アウターですが、性別をぼかすような「ジェンダーレス」の着こなしを取り入れると、着姿が穏やかに落ち着きます。英国の老舗ラグジュアリーブランド「BURBERRY(バーバリー)」が9月にロンドンで発表した最新の「セプテンバー・コレクション」でも、ジェンダーレスのスタイリングが巧みに生かされていました。
今回のショーではメンズとウィメンズを同じランウェイで同時に発表し、全体としてジェンダーレスのムードを漂わせています。ショー終了の直後から、今見たばかりの商品が購入できるという、いわゆる「see now buy now」の試みも初めて導入。動画配信やSNS(交流サイト)発信などでこれまでも先進的な取り組みを示してきたバーバリーが、さらに新時代をひらく姿勢を打ち出していました。
ブランドの代名詞的なトレンチコートですが、オーバーサイズ気味のシルエットがマニッシュ感や力みを程よくやわらげています。袖口からストライプ柄シャツをたっぷりめにのぞかせる工夫のおかげで、過剰にかしこまって見えません。シャツの首元は中世の貴婦人を思わせるような手の込んだ起伏のディテールが施されていて、中性的なムードに。コートの内側に着込んだヴィンテージ風のシャツもかたさをオフ。大ぶりチェーンが目を引くバッグにも女性的な主張が宿っています。
秋冬ならではのレイヤード(重ね着)ルックに組み込めば、マニッシュなウエアもやわらかく着こなせます。女らしさを印象づけるには、やはり柄物が重宝します。ミリタリーカラーのブルゾンも、異なるモチーフを重ね合わせた「柄on柄」のコーディネートに自然となじんでいます。ロング丈の羽織物の上からブルゾンを重ねる着方は縦長感を引き出してくれるので、覚えて使いこなしたいもの。シャツの正面に配したフリルが女性らしさをささやく仕掛け。今回のテーマになっていた「家」の気分を印象づけるパジャマ風のパンツも気張らない雰囲気に一役買っています。
ムードの異なるアイテム同士を大胆に引き合わせることによって、着姿が自分らしさを語り始めます。メタリックな飾りが目を引くミリタリー調アウターに、あえてレディー感の高いボウタイブラウスをマッチング。貴族的な風情のラッフルを袖先にもふんだんに配して、優雅なたたずまいに整えています。ヴィンテージの壁紙に着想を得たというパンツ柄は全体に風格をもたらしているかのよう。シルク、レースなどの上品な生地やディテールは大人っぽいイメージを引き立てるので、雰囲気の異なるデニムやスエットなどとのミックスが試せます。
服本来の居場所からわざと「引っ越し」させる「シーンフリー」のアレンジは新しいムードを呼び込みます。たとえば、寝室が定位置のパジャマを街に連れ出して、いかにも防寒性の高そうなレザー仕立てのボマージャケット風アウターと交わらせれば、こちらのような意外感の高い着映えに。てろんとした風合いのトップスとパンツに、質感の全く異なるボリューム感あるアウターと、めりはりが利いています。キュートなミニバッグがグラマラスな気分をオン。ウエストより高い位置で巻いたベルトもつやめきを添えています。
1856年の創業で、160年の歴史を持つ「バーバリー」は英国を代表するラグジュアリーブランドとして日本でも有名です。でも伝統に安住せず、デザインでもビジネスでも先進的な取り組みを進めていることでも知られています。世界で最も影響力を持つデザイナーの1人とされるチーフ・クリエーティブ・オフィサーのChristopher Bailey(クリストファー・ベイリー)氏はブランドヒストリーや英国服飾文化を大切にしながらも、クリエーションの挑戦を重ねていて、現在はCEO(最高経営責任者)も兼ねています。
今回のコレクションでもジェンダーレスに加え、時空をまたぐタイムレス、季節にとらわれないシーズンレスなどのアレンジを取り入れ、その革新は加速するばかり。刺繍(ししゅう)やレースなどの職人技、手仕事美も注ぎ込んで、気品と新鮮さを兼ね備えた、趣深い着姿に仕上げました。
おしゃれの「ルール」がダイナミックに書き換えられつつある今、着こなしをさびつかせないためには少しの「勇気」が求められています。「ミリタリー×ロマンチック」といった、全体をワントーンでまとめてしまわないミックスコーディネートを試すには、重ね着を生かせる秋冬がベストシーズンになるはずです。
[画像協力]
BURBERRY https://jp.burberry.com/
ファッションジャーナリスト、ファッションディレクター。多彩なメディアでランウェイリポートやトレンド情報、リアルトレンドを落とし込んだ着こなし解説などを発信。バイヤー、プレスなど業界での豊富な経験を生かした、「買う側・着る側の気持ち」に目配りした消費者目線での解説が好評。自らのTV通版ブランドもプロデュース。セミナーやイベント出演も多い。著書に『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(学研パブリッシング)がある。
公式サイト:http://riemiyata.com/
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