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「トランプ円安」のナゼ 減税などの政策に期待

2016/11/13

 「予想外」とされた米大統領選挙でのドナルド・トランプ氏の勝利。ただ「予想外」はもうひとつあった。同氏が勝った後、外国為替市場で円安が進んだのだ。保護主義的政策を掲げるトランプ氏の勝利は円高要因との見方が多数派だったのに、正反対の動き。何が起きたのか。円下落に持続性はあるのか。個人投資家には気になる「ナゾの円安」の裏側に迫った。

 「共和党候補のトランプ氏が勝つなら、円が節目の1ドル=100円を突破する可能性がある」――。米選挙前日の7日、円が104円程度で推移していたときにある外資系金融機関が顧客に送ったリポートだ。

 トランプ氏といえば円高――。従来それが市場で多く聞かれた声だった。環太平洋経済連携協定(TPP)に反対するなど保護主義的な通商政策を掲げており、ドル安志向の姿勢をとるとの見方があったためだ。

■トランプノミクスの「光の部分」に関心

 実際9日の東京市場でも、当初は選挙での「トランプ氏優位」の情報が円買い材料になった。午前10時ごろまで105円前後で推移していた円相場が、同氏の優位が伝えられるにつれて急上昇したのだ。円高が株価を下げ、株価下落によるリスク回避ムードの広がりで「安全資産」とされる円が買われるという展開にもなり、午後2時ごろに101円19銭の高値を付けた。

 6月下旬に英国の欧州連合(EU)離脱が決まる直前の円急騰と似た展開。「100円突破」が現実味を帯びたことで動いたのが当局だった。

 午後2時すぎに財務省、金融庁、日銀が3者会合を開くと発表。3時半には浅川雅嗣財務官が「(円高には)為替介入に限らず、必要なあらゆる措置を排除しない」とコメントした。

 当局の言動により円は下落に転じたが「最終的に雰囲気を大きく変えたのは(午後5時ごろに伝わった)トランプ氏の勝利宣言」との声が当局内で聞かれた。

 「米国の利益を一番に考えるが、海外諸国と公正な関係を築くことも世界に知らせたい」。こんな調子で保護主義的な発言を封印。「世界最強の経済を構築する」と強調した。市場参加者の関心はトランプノミクス(トランプ氏の経済政策)の「光の部分」へと一気に移った。法人税率の引き下げなどの減税やインフラ投資、規制緩和といった政策だ。

 日本時間夜の米市場の取引時間帯に入るとムードは完全に変わった。米議会の上下両院でも共和党が過半数を確保。景気刺激的な政策が推進されるとの見方から米長期金利が急上昇し、日米の金利差が拡大した(グラフ)。金利面でのドル買い・円売り圧力が強まり、円は105円台後半まで下落した。米株価の上昇によるリスク選好ムードも「安全通貨」の円を手放す動きに拍車をかけた。

 その他、企業が海外に持つ資金を米国に移す際の税率軽減をトランプ氏が計画している点も、ドル買い材料となり、10日に円は106円台まで下落した。

 「トランプ円安」に持続性はあるのか。「次期政権のもとでドル高が中長期的なトレンドになるかは不透明」(野村証券の池田雄之輔氏)といった見方も根強い。足元の市場ではトランプノミクスの「光の部分」に関心が集まっているものの、保護主義的な政策という「影の部分」が無くなったわけではない。「市場の関心が保護主義的な政策へとシフトすれば再びドルが売られる可能性がある」(JPモルガン・チェース銀行の棚瀬順哉氏)

■市場には持続性に疑問も

 「光の部分」の減税やインフラ投資についても、しっかりとした財源の手当てがなければ財政赤字が膨らむ。インフレ懸念が強まれば、むしろドル売り材料になり得る。

 仮に経済対策を円滑に実施に移せても「その効果が出るのは2018年以降」(ドイツ証券の田中泰輔氏)との見方もある。「4年後の次の大統領選挙での再選を目指すためには、19~20年の景気が上向くように工夫すると考えられる」からだ。それ以前の17年までの時期は米景気減速を反映してむしろドルが下落。100円を上回る円高になる可能性もあると予想する。

 足元のドル強気ムードはしばらく続く可能性もあり、「短期的にはさらに上昇する可能性も排除はできない」(棚瀬氏)。

 とはいえ中長期的なドル相場の動きには不透明感が強い。「選挙が終わったばかりの現段階で次期政権の政策について明確な見通しを語るのは非常に危険」。米金融情報コンサル会社、オブザーバトリー・グループも、ヘッジファンドなどの顧客向けリポートにそう記した。

(編集委員 清水功哉)

[日本経済新聞朝刊2016年11月12日付]

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