損得論にサヨナラ 年金は「終身給付」に真価公的年金をマネーハック(2)

PIXTA
PIXTA

今月のマネーハック、テーマは「年金」です。年金は損するというイメージや不公平感について、マネーハック的視点からとらえ直すとどうなるか考えていきます。

今週、踏み込んでみたいのは「損得論」という論議の不毛さと、それよりも考えるべきは「年金が得である」ということです。

いつまでも消えない「年金損得論」の不思議さ

私たちは社会人になると強制的にいろんな負担を求められます。所得税、住民税、消費税といった税金はもちろんですし、厚生年金保険、健康保険、労災保険に介護保険(40歳以降払う)などの社会保険料も大きな負担です。

このうちなぜか、「年金制度」だけ損得論が議論されていることを疑問に思ったことはないでしょうか。同じ負担なのに、健康保険料を払った分得をする方法とか、所得税や住民税は損か得かという議論はあまり聞きません。

いずれも負担した以上はその負担に見合うサービスが存在するはずです。直接的にサービス還元されるものもあれば(例:市区町村のゴミ回収サービスや健康保険制度の医療給付)、社会インフラ維持に必要な形で間接的に還元されるものもあります(例:道路の維持整備、市役所や県庁などの組織の維持)。

しかし、年金以外の制度は1人当たりいくらの負担は計算できても「1人当たりいくらのサービスを受益できているか」という計算は難しいため、わかりやすい損得論があまり成立しないのです(また、健康保険制度のように病気の人ほど「得」という仕組みも損得論がうまく成り立ちません)。

その点、年金制度は「払った分ともらえる分」という計算がしやすいため、格好の批判対象となってきました。しかし、年金制度はそもそも社会保障制度であって損得を前提に設計されていません。年金損得論はそもそもかみ合わない議論なのです。

年金で得する人もいるが、それは「幸せ」か

先週、「個人的」に年金額を増やしたいなら、会社員として厚生年金に加入し、高い賃金(=高い保険料)で働き、長く働くほど年金額はアップすると解説しましたが、「高い賃金で働けない人は老後も貧困になるではないか」という批判を受けました。それについて、実は私も同感で、厚生年金制度は報酬比例の色彩を弱めて社会的再配分の機能を強めてもいいと思っています。

しかし、そうすると「損得」は拡大します。現役時代に低所得であった人は相対的に得になり、現役時代に高所得であった人は損が大きくなることでしょう。

「損得」の話にこだわると、皮肉なことに年金制度が老後の貧困を解消する機能は弱くなってしまうのです。

また、年金で明らかに得をする立場としては、若くして障害年金を受けることになった人、高校卒業前の子どもがいて、若くして亡くなった人などがあげられます。それぞれ障害年金と遺族年金を受けられますが、これは今までの負担額を超えて支給されることがあります。

障害が残ったとき、あるいは残された遺族に対する所得保障を行うことは国の社会保障制度の大事な役割ですが、これをもって年金が「得」と考えるのは誰でも疑問に感じるはずです。

また、「平均的な損得」をいくら論じても、若くして亡くなった人は必ず年金で「損」をします。昭和20年代の生まれでも10年代の生まれであっても関係ありません。70歳で亡くなればどんな世代であっても個人的な損得はマイナスで終わります。

独身である人が60歳で亡くなったとすれば、遺族年金もありませんので、年金をまったくもらうこともなく解約返戻金もありません。現役時代に払い続けてきた保険料のすべては消えてしまいます。文字通り「損」です。

しかし、「払い損」になった人の保険料はなんとなく消えてしまうわけではありません。遺族年金や障害年金の給付、あるいは人よりも長生きをした人の年金給付原資となることで、年金保険料は今の料率で抑えられているのです。それは単なる「損得」とは違う「社会保障」のしくみなのです。

給付水準が下がっても、公的年金には価値がある

損得論を忠実に議論すれば、逆に「得」をする人を許さないようにする仕組みが必要となります。年金制度にとって確実に得をするのは「長生き」する人です。これは世代は関係ありません。

国の年金制度は終身給付を約束しています。これはどんなに長生きしても生きている限りずっと年金を支払い続けるということです。保険料の負担額を給付額が上回ろうとあなたが元気に生存している限り、年金給付は止まることはありません。

もし、「あなたの保険料に見合う年金は払ったので、来月から国の年金給付はゼロになります。あしからずご了承ください」というハガキを89歳でもらったとしたらどうでしょうか。損得論としては公平ですが、社会保障としては間違っているし、個人の生活にとっては大問題になります。

マネーハック的にいえば、「公的年金は日常生活費の最低限度の費用を、死ぬまで無制限で払い続けてくれるのだからアリ」と考えるほうが適切な理解です。

先ほど、若くして亡くなった場合の保険料と給付の損得の例をあげましたが、私たちは長生きをすることで、支払い額を大幅に上回る給付を受ける可能性を誰でも持っています。

たとえば、男女で比較すれば女性は社会保障の損得論はあまり気にせずとも大丈夫です。なぜなら一般に男性より長生きするのに保険料負担は、男女の差はなく同水準だからです(民間の年金保険だったら、女性は男性より保険料負担が高くなるでしょう)。

よく社会保障負担と給付のバランスで1000万円も損をする、などと報道されていますがこれは男性の話で、同年代の女性はほとんど収支トントンだったりします。男女の平均寿命の差は6.26年ですが、その6年程度の長生きで社会保障の収支は逆転してしまうくらい、私たちは微妙なところで年金の損得といった議論に巻き込まれているのです。そろそろ年金の損得論から抜け出してみてはどうでしょうか。

長生きすれば年金損得論は気にしなくて済む

先週も指摘しましたが、制度全体としての損得論というのは、個人の感覚ではほとんど無意味です。

どんなに有利な世代であろうと若くして夭逝(ようせい)すれば負担を給付が上回ることはありませんし、どんなに不公平といわれる世代であっても長生きすれば負担と給付の関係など心配無用になります。

となると、年金制度で心配よりも大事なことは、自分自身の健康管理ということになります。年金制度で得をしたいと思うなら、まずは長生きすることが第一です。

もちろん個人の寿命についてはまさに「神のみぞ知る」ということですが、健康管理を怠る人が長生きをする可能性はあまり高くないでしょう。アラフォー世代以降は、健康のことも意識してみるべきです。

私はメタボな人が年金損得論を述べている様子をみるたび、「まずはダイエットをされてはいかがか」と内心思っています。なかにはダイエットに成功された人もいますが、たぶん自分の長生きが自分の損得を左右するということに気がついたのではないでしょうか。

あなたもぜひ「年金の損得はあまり考えない」というステージに入り、それでも「得する側になるため、健康管理し長生きする」ことを考えてみてください。

さて、もう一つの損得論は今週は述べませんでした。「世代間の損得」です。これについては来週改めて年金制度をマネーハックしてみます。お楽しみに。

マネーハックとは ハックは「術」の意味で、「マネー」と「ライフハック」を合わせた造語。ライフハックはITスキルを使って仕事を効率よくこなすちょっとしたコツを指し、2004年に米国のテクニカルライターが考案した言葉とされる。マネーハックはライフハックの手法を、マネーの世界に応用して人生を豊かにしようというノウハウや知恵のこと。
山崎俊輔(やまさき・しゅんすけ) 1972年生まれ。中央大学法学部法律学科卒。AFP、消費生活アドバイザー。企業年金研究所、FP総研を経て独立。退職金・企業年金制度と投資教育が専門。所属は日本年金学会、東京スリバチ学会。近著に『お金が「貯まる人」と「なくなる人」の習慣』(明日香出版社)『誰でもできる 確定拠出年金投資術』(ポプラ新書)などがある。趣味はマンガ読みとまちあるき(看板建築マニアでもある)。Twitterアカウントは@yam_syun。ホームページはhttp://financialwisdom.jp

20代から読んでおきたい「お金のトリセツ」! (日経ムック)

著者:山崎俊輔
出版:日本経済新聞出版社
価格:1,000円(税込み)


近づくキャッシュレス社会
ビジネスパーソンの住まいと暮らし