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前回記事では二つの要因によって求められるリーダーシップが異なるから、企業によって出世する人の条件も異なるという話をしました。だからこそ、万人が認める優秀な人でなかったとしても、今求められるリーダーシップを発揮することで、出世してゆくことができるのです。

もしこのリーダーシップタイプがアンマッチな状態になってしまうとどうなるのでしょう? それは、アンマッチな状態に関わっている人たちだけでなく、組織全体に不幸をもたらすきっかけにすらなることがあります。

(17)なぜ優秀なあの人がすべてを壊すリーダーになるのか >>

<<(15)どこでも通用するリーダーがいない理由

ベンチャー企業が陥りやすいワナ

典型的なアンマッチはベンチャー企業の初期成長段階でしばしばみられます。

例えばこんな事例があります。

 友人たち3人で立ち上げたアプリ開発の会社。
 当初製品化を考えていたアプリの、ベータ段階での反応が悪かったのでどうしようか迷っていたところ、知人の会社から発注された業務用アプリの汎用化がヒットして急拡大。そこで従業員を雇い始めたけれど、採用しても採用してもどんどん辞めてしまう。

ベンチャー側の3人の経営者たちはこんな不満をもらしていました。

「みんな、何を期待されているのかがわからない、と言って辞めていくんですけれど、僕たちはちゃんとゴールを示しているつもりなんです。たとえば僕たちが弱い管理系について『とりあえず今どれだけお金があって、いつどれだけお金が使えるかわかる状態にしてください』とお願いしたんですけれど、いつまでたってもそうならない。そのことを注意したら『じゃあ自分でやってください』って逆切れされてやめられちゃったり……」

この会社の問題はどこにあったのでしょう?

アンマッチの解消は現実を知ることから始まる

このようなアンマッチは、実は頻繁に起こります。その理由をDAPSフレームに基づいて整理してみましょう。

DAPSフレームに基づくなら、初期サービスで急拡大中のこの会社が置かれた状況は「変化が激しい状況」です。そこでどんどん人を採用していったのですが、実はここで間違いが生じていました。

ベンチャーを立ち上げた3人の経営者たちは、中途採用で入ってくる人たちをみな「自律したメンバー」だと考えていました。そもそも、3人自身がそれぞれ自律した生き方・働き方をしていたので、そうでない人の行動を想像できていなかった、ということもあります。

だから3人の経営者たちは、中途採用した人たちに対して「ゴールを示す」タイプのリーダーシップを発揮していたのです。

しかし転職者の多くは、決して自律している人たちばかりではありません。厚生労働省が実施した転職者実態調査平成27年版ではシビアな結果が出ています。

厚生労働省によるアンケート結果を、「前の会社に不満」「外部的な理由でやむを得ず」「積極的な考えに基づく」「その他」に区分してみると、6割近い人たちが「前の会社が嫌だから」転職していることがわかります。この傾向は年齢で見ても同様で、むしろ40代以上の人たちが会社に不満を持って辞めていることがわかります。

だから転職してくる人たちは決して自律している人ではないのに、自律している人たちに接するようなリーダーシップを発揮してしまった点がアンマッチの原因だと考えられるわけです。

リーダーシップタイプに状況をマッチさせる戦略もある

結果としてこの会社は、採用対象を新卒に大きく変更していきました。

どうやら中途採用の人たちにも丁寧に作業指示をしないといけない、とわかってから1年ほどで、3人の経営者は疲れてしまったからです。彼らはビジネスパーソンとしては決して年を取っている方ではありませんでした。だから中途採用する人たちは同年代か年上が多かったのですが、彼ら、彼女らが持っている価値観をいちいち自社にあわせて調整するために多くの労力を割くことになったからです。そんなことに力をそそぐくらいなら、そもそも自社の価値観を強く示して、そのことに賛同したいという熱意を持つ若い人を集め、彼ら、彼女らを育成した方が効率的ではないか、と気づいたのです。

この事例からもわかるように、環境や一緒に活躍しているメンバーたちの状況にあわせるだけがリーダーシップではありません。

むしろ、自分たちが発揮したいリーダーシップの方向性に向けて環境を選択し、それに適したメンバーを集める方が有効な場合があるのです。ビジョンやミッションに基づき、従業員に期待する行動をバリューとして示す経営スタイルは、このような考え方を実践しているものとして理解することができます。

変化に対応したリーダーシップが出世の鍵

大企業や公的機関であったとしても、発揮すべきリーダーシップのアンマッチはしばしば起こります。いつそれが起きるのかといえば、やはり大きな環境変化が起きた場面です。

私がかかわった件でも、たとえば各種公団の民営化や国立大学の独立行政法人化などの場面で、大きなリーダーシップの変化がありました。民間企業でも、戦略の大きな転換期にはリーダーシップの変革が求められます。

リーダーシップ変革のわかりやすいメッセージは、社長を外部から登用することです。

たとえば私が指揮した某公団の人事改革の場面では、それに先立って、経営者が著名な民間大企業から任用されていました。トップを変え、人事の仕組みを変えることで、組織が置かれた状況を従業員たちに強いメッセージとして知らしめる。そうすることで従業員の行動を変革することができるようになります。

組織は生き物であり、環境は常に変化します。従業員たちの行動や意識も年を経て移り変わります。先進的だった若者たちは20年もすれば保守的な中間層に変わります。そして新たな変革は新しい世代に期待されるようになります。

組織の中で発揮すべきリーダーシップも変化にあわせてうつろいます。時に厳格な指示命令により従業員たちを統制し、また別の局面では一堂に会して難課題に頭を悩ませる。そうしてゴールを目指しながら、自律的に活躍できる次世代リーダーたちを支援していく。

これからの時代で組織を率いるリーダーは、DAPSという4つのリーダーシップを、時と場面によって使い分けることのできる人なのかもしれません。そういう人であれば、長きにわたって組織の中で活躍でき、出世の階段を上ってゆくことになるでしょう。

ただし、戦略に沿ったリーダーシップさえ発揮できれば出世してゆけるのか、というと決してそうではありません。次回は、確かにマッチしている状況でリーダーシップを発揮しているんだけれども、イタい状況になってしまった人の例から、出世とリーダーシップとの関係を読み解いていきましょう。

平康 慶浩(ひらやす・よしひろ)
セレクションアンドバリエーション代表取締役、人事コンサルタント。
1969年大阪生まれ。早稲田大学大学院ファイナンス研究科MBA取得。アクセンチュア、日本総合研究所をへて、2012年よりセレクションアンドバリエーション代表取締役就任。大企業から中小企業まで130社以上の人事評価制度改革に携わる。大阪市特別参与(人事)。

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