「結婚・子育て資金贈与」 ホントに使える制度?
結婚したり、子どもができたりした途端、やっぱり気になるのがお金のこと。そんな若い夫婦を見て、父母が資金援助してくれることも。でもまとまった金額をもらうと贈与税がかかってしまう? 今回は、2015年の税制改正で創設された「結婚・子育て資金」の一括贈与に関する非課税制度について、FPの前野彩さんに解説してもらいました。
「結婚・子育て資金」の贈与が上限1000万円まで非課税に
「あ~あ、もうちょっとお金があったらなぁ」というような思いは、多かれ少なかれ、誰もが一度は感じたことがあるのではないでしょうか。
特に、子育てでは思いもよらない支出が発生したりして、何かと大変なことと思います。
そんな子育てママ・パパのお金の不安を少しでもラクにしようと生まれたのが「結婚・子育て資金贈与の特例」です。
この特例は、祖父母や父母が20歳以上50歳未満の子どもや孫に、結婚・子育てに関するまとまったお金をあげた(贈与)場合、そのお金を受け取った人、1人当たり1000万円(結婚関係は、そのうち300万円)までは税金がかからない制度です。
正しくは「結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置」といいますが、ここでは、分かりやすく「結婚・子育て資金贈与の特例」と呼ぶことにします。
2019年3月31日までにスタートする必要がある期限付きの特例で、金融機関を通じて利用します。終了するのは、お金をもらった子どもや孫が50歳になったときやもらったお金を使い切ったとき、使い終わる前にお金をくれた贈与者が死亡したときです。50歳になるまでに使い残したお金があると贈与税が課税されるので、使う金額を想定しながら計画的に利用したいものです。
なお、この制度は相続税対策には不向きと言われています。その理由は、贈与したお金を使い切っていない状態で贈与者である祖父母が亡くなったときは、使い切らなかったお金は、その相続財産に逆戻りするからです。
・結婚・子育てで、親や祖父母からお金をもらうときに使える制度
・総額1000万円までなら非課税(結婚関係は、そのうち300万円まで)
・金融機関を通じて利用する
Q&A方式で制度の具体的な内容を見ていきましょう。
専用口座を開設、使った費用の領収書を提出する必要
結婚費用は300万円を限度に、以下のような内容が対象となります。
(1)挙式費用、衣装代、結婚披露宴費用(入籍日1年前以降にかかったものが対象)
(2)家賃、敷金等の新居費用、転居費用(結婚から前後1年に契約し、その契約から3年以内に支払われる家賃や敷金などが対象)
(3)結婚を機に移り住む住居先に引っ越しするための費用(入籍前後1年にかかった費用が対象)
入籍前後1年以内の引越しなら複数回でも使えます。ただし、家賃や引っ越し費用には使えても、駐車場代や引っ越しの際の不用品の処分料には使えませんので、細かいところに注意しましょう。
子育て費用は最大1000万円まで利用でき、その対象は、妊娠、出産および育児にかかる費用です。
(1)不妊治療費用、妊婦健診費用
(2)分娩費用、産後ケア費用(出産から1年以内にかかった費用)
(3)小学校に入学までの子どもの医療費
(4)幼稚園、保育所等の保育料、ベビーシッター代など
不妊治療については、男女や保険適用の有無、公的助成を受けているかどうかは関係なく、人工授精や体外受精、顕微授精などで病院に支払った金額が対象になります。不妊治療にかかる医薬品等も対象ですが、不妊治療のための交通費や、処方箋がない医薬品は除外されます。
また、子どもの育児にかかる費用については、入園の検定料から入園料、施設設備費、在園証明の手数料、子どもの園行事の参加費、園に支払った食事代など、幅広く対象になるのはありがたいですね。
まずは、銀行や信託銀行などで、「結婚・子育て資金贈与の特例」用の口座をつくり、贈与のお金が入金されたらスタートです。
ただし、この特例を使う場合には、毎年1月1日から12月31日を区切りとして、この間に、結婚・子育て資金として支払った領収書やその他の必要書類の原本を、翌年の3月15日までに金融機関に提出しなければなりません(※払出方法によっては、支払日から1年を経過する日という期限もあり)。
具体的には領収書のほか、使った内容に応じて、戸籍謄本や住民票の写し、賃貸借契約書の写し、母子手帳の写しなどの提出が必要となるので、贈与税がかからずにお金をもらえる代償として、「申請の手間」がかかることを忘れないようにしましょう。
・利用するときは、毎年、領収書等の提出が必要
・領収書管理ができる性格かどうかも要検討
その都度、子育て費用に使うお金は、実は非課税
あれば助かる特例ということは間違いありません。ただし、忙しい共働き世帯にとっては、「もらえるのはうれしいけれど、手続きが面倒くさい」というのが本音ではないでしょうか。
結婚・子育て資金贈与の特例は、結婚や子どものことなど、まだ将来が確定していない世代を支援するためにできた制度で、「具体的に何につかうかわからない段階でまとまったお金もらっても、将来、そのお金を結婚や子育てなど、認められたものに使った時には、贈与税をかけません」というルールです。
でも、この新しい特例制度ができる前から、その都度、直接、必要な分だけ、扶養に関するお金を親や祖父母が、子や孫にあげるのなら、贈与税はかかりませんでした(扶養に関するお金とは、具体的には、結婚式や引っ越し費用、不妊治療に出産、子育て、保育園や幼稚園費用、ベビーシッター費用、医療費などが該当します)。
そのため、あなたの親御さんがまだまだ元気でいらっしゃるのなら、「まとまったお金がもらえるけれど、手間がかかる特例」よりも、その都度もらったほうが、忙しい読者にとっては助かるのではないでしょうか。
特例を利用する際は、「お金をもらっても税金がかからない」というメリットだけでなく、領収書などを1年分ちゃんと管理しつつ、毎年提出し続けられる性格かどうかも考慮して検討してくださいね。
なお、上記以外でまとまったお金をもらったときは、「1年間にもらったお金等が110万円までなら贈与税はかからない」という贈与税の基礎控除を使いましょう。
Cras代表取締役。FPオフィス will代表。大阪在住のファイナンシャル・プランナー。保健室の先生を経て、結婚、退職、住宅購入、加入保険会社の破たんを機にFPに転身。自らの住宅ローンで800万円、生命保険で1000万円の見直しを行った実績を持つ。講演やテレビでも活躍中。近著に『本気で家計を変えたいあなたへ ~書き込むお金のワークブック』(日本経済新聞出版社)、「『家計のプロ直伝!ふるさと納税新活用術』(マキノ出版)。
[日経DUAL 2016年11月1日付記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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