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地域貢献の成果を見える化 市民が出資、事業を見守る

2016/11/11

社会的課題の解決に当たる人材を育てるため9月に開かれたソーシャルイノベーションフォーラム(都内)

 福祉や地域活性化などの社会的な課題を、民間の知恵と資金で解決しようとの動きが出てきた。本来ならば行政の仕事といえそうだが、どう違うのだろうか。

 滋賀県東近江市で今夏、市民に対して地域の活性化に役立つコミュニティービジネスへの出資が呼び掛けられた。地元の木材を使ったおもちゃ、食用油からつくる環境に優しいせっけんの製造販売など4事業がその中身だ。

 一口2万円、1事業当たり50万円を目標にしたが、約90人の市民などからスムーズに集まった。事業が一定の成果を出せば市が補助金を出し、お金が出資者に還元される仕組みだったことが大きい。

■成功したら補助金

 通常は行政が事業者に直接、補助金を出す。それに対し、この仕組みにはいくつかの利点がある。

 まず行政支出の効率化だ。同市には以前からコミュニティービジネスへの補助金制度があった。ただ補助金は最初の審査は厳しいが、その後の追跡は不十分で、実際の成果がわからないことがある。今回、採用した仕組みだと、事業が成果を収めたときだけ補助金を出すので無駄がない。

 成果が出なかった場合、出資者は損をするが、事業者は出資者の期待に応えようと努力するため、成果が出やすくなる。木のおもちゃの製造販売を手掛ける井上慎也さん(40)は「ただ補助金をもらうより、地元の人とつながりができることがうれしい。目標も達成できそうだ」と言う。

 出資者には地域に貢献する当事者意識が生まれる。これは「地域の活性化にはとても大切」(市まちづくり協働課)だ。木のおもちゃには地元の森林組合関係者も出資する。このように事業が成功すれば、経済的な波及効果が見込める出資者もいる。

■リターンも期待

 この仕組みを考えたのは、同市の参与を務める公益財団法人京都地域創造基金の深尾昌峰理事長(42)だ。同基金は、寄付を集めて地域社会の課題解決を応援してきた。その蓄積の中で「社会的インパクト投資」という手法に着目し、今回の形を編み出した。

 社会的インパクト投資は、課題の解決と経済的リターンの両方を狙う手法だ。2013年の主要8カ国(G8)首脳会議で、議長国のキャメロン英首相(当時)が普及を呼び掛け、世界的に関心を集め始めた。

 行政はおおむねどの国でも財政難なのに、貧困など解決すべき社会課題は多様化する一方だ。同投資は民間の力を借りて、行政コストを抑えつつ、課題を解決する仕組みとして期待される。寄付と違って、うまくすればお金が戻る上、利息まで期待できるので資金の出し手も応じやすい。

■欧米で先行例

 日本財団によると、欧米を中心に世界10カ国以上で導入している。英国では、受刑者の再犯防止を目的に導入された。元受刑者の再犯率の高さに悩む刑務所がこの手法で資金を集め、民間団体に再犯防止のための教育を委託した。その結果、再犯率は下がった。元受刑者を再収監するコストなどを減らし、浮いた財源で出資者への還元もできるという。

 日本でも規模は小さいながら試験的な取り組みが始まっている。神奈川県横須賀市では昨年度、子どもを特別養子縁組する事業で取り入れた。親が育てられない子どもは児童養護施設に入るが、養子縁組によって家庭で育つ方が子どもにとって望ましく、施設経費も減らせると考えた。

 市は約1900万円の費用を集め、4人の縁組成立を目標に民間団体に事業を委託した。4人分の施設経費は総計約3500万円。目標を達成すれば、1900万円を出資者に返してなお1600万円が浮くので、この一部を使って利払いもできるとの試算だった。実際には3件の縁組が成立し、検証の結果、約500万円分の経費の削減効果があったという。

 横須賀市の事業は、成否にかかわらず、日本財団が資金を拠出する試験的なものだった。市民などから出資を募った本格的な取り組みは、東近江市が日本初となる。

 同投資が定着するには、実際に社会的な課題の解決に当たる事業者側の変革も重要だ。玉石混交といわれるNPOなどは、運営を透明化し、きちんと成果を出す信頼される組織になる必要がある。

 その一環として、今年6月に日本NPOセンターや三菱商事、内閣府など約80団体が、事業の成果測定を推進する「社会的インパクト評価イニシアチブ」という組織を設立した。9月には日本財団が社会課題を解決する人材を育てる「ソーシャルイノベーションフォーラム」という催しを開き、3日間で2000人以上の参加者を集めた。

 10年以上、口座からの出し入れがない休眠預金を社会的インパクト投資に活用しようとの意見もある。国会には、休眠預金を民間の福祉などに利用するための法案が提出されている。英国や韓国でも休眠預金を活用する例がある。新法が成立すれば同投資が一気に広がるかもしれない。

■京都地域創造基金・深尾昌峰氏「社会的インパクト投資と寄付の融合課題」

 民間の知恵とお金で社会問題を解決していこうという取り組みはここ数年、全国で活発になっている。京都地域創造基金は、そのような動きの中心となる団体の一つだ。同基金の深尾昌峰理事長(龍谷大准教授)に、活動の展望を聞いた。

京都地域創造基金の深尾昌峰理事長

 ――滋賀県東近江市で始めた社会的インパクト投資事業の経緯を教えてください。

 「欧米で実施されている同投資手法をそのまま日本に持ってくるのはなかなか大変。そこで、今すでにあるお金の流れを変えて、同投資を導入できないかと考えた。そのとき注目したのが行政の補助金制度だ」

 「補助金を受ける事業者は申請書類を書くことに労力の大半をつぎ込んでおり、事業の成果はあまり気にしていない。これは壮大な無駄遣いになっていないかと思った。こんな制度よりも、その事業を応援したいという人に出資してもらって、事業の成果が出たら補助金を支出し、それで出資者に還元する形の方が優れているのではないだろうか」

 ――課題はありますか。

 「事業の成果が出るのに2~3年かかるものもある。一方、行政の予算は単年度主義だ。今年度の予算で組んだ補助金を2~3年後に支出するには、予算制度上の特別な技術が必要になる。成果を成功か失敗かの2段階で評価するだけでよいのかなど、評価手法についてももっと議論が必要だろう」

 「新しい手法の初年度となる今年度は市民からの出資を割と身近な範囲で、声をかけて集めた。来年度以降は条件を整備して、地域金融機関で公募債として売り出すことも考えている。広く出資を募る手法をさらに考えていきたい」

 ――これまで民間による社会課題を解決していくための財源としては寄付が一般的でした。

 「社会的な課題解決のなかで、事業として成立するものについては社会的インパクト投資を活用し、そうでないものは寄付に頼るという役割分担もあるだろう。寄付と投資の融合も考えたい。例えば、地域住民から保育園が必要との声が出た場合、初期投資は寄付で集めて、そのあとの運営資金については社会的インパクト投資で集めるといったようなことができないだろうか」

 ――民間による社会課題の解決というと、NPOなどがすぐ頭に浮かびますが、企業にも活躍の余地はありますか。

 「ゆくゆくは企業の営利・非営利の壁がなくなっていくのでは、と思っている。地域から全国に打って出て、上場して資金を集めるといった企業もあるだろう。その一方で、地域にとどまり、地域の住民からの出資などで資金を集め、その人たちに支えられながら地域のために活動していく企業も出てくるのではないだろうか。そういう視点で考えると、今は資本主義の曲がり角ともいえるだろう」

(編集委員 山口聡)

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