住民税の「うっかり」滞納、あなたの身に起こる災い
こんにちは。社会保険労務士 佐佐木由美子です。会社を退職するとき、今まで見過ごされていた住民税の存在が、急にクローズアップされることがあります。住民税の知られざる盲点とは、どこにあるのでしょうか?
「住民税」は前年の所得をもとに計算される
住民税とは、市町村民税と道府県民税からなる地方税で、前年の所得をもとに計算されます。会社員であれば、毎月の給与から天引きされて、会社が自治体に納付してくれるため、支払っているという実感を持てない方も多いのではないでしょうか。
このように、給与天引きされて会社が納付してくれる方法を「特別徴収」といいます。個人事業主のように、天引きされる給与がない場合は、「普通徴収」といって、年4回、納期は原則として6月・8月・10月・翌年1月の4期に分けて納付します。
ですから、今とても高額な給与をもらっている方でも、前年の所得が低ければ、わずかな住民税しか支払っていない、という人もいるわけです。逆に、今「無職」であっても、前年に一定の所得があれば住民税が発生します。
辞めるときの選択がポイント
問題となるのは、会社を退職する場合。住民税の年度は、6月に始まって翌年5月までとなっているため、たとえば10月末に会社を辞める人は、その年度の住民税があと7か月分も残っていることになります。
このような場合(6月から当年12月までに退職するケース)、退職時に3つの支払い方法が選択できます。一つ目は、自分で納付する「普通徴収」に切り替える方法。二つ目は、最後の給与・退職金等から、翌年5月分までを一括して差し引き会社が納付する「一括徴収」。最後は、すでに再就職先が決まっている場合に、転職先で給与天引きを引き継いで納付してもらう「特別徴収継続」という方法。
1:普通徴収
2:一括徴収
3:特別徴収継続
※6月から当年12月までに退職する場合
ただし、1月から5月までに退職する人は、一括徴収の納付方法が原則とされています(特別徴収の継続も可)。住民税の金額も決して安くありませんから、退職するときになって、初めてその負担が大きかったことに気づかされる人もいるでしょう。
「うっかり滞納」に注意して!
会社を辞めたからといって、住民税の支払いが止まるわけではありません。ところが、退職時に住民税の取り扱いについて特段の説明を受けず、こうした仕組みを理解していないと、退職後に自宅へ納付書が届いて慌ててしまうケースもあるようです。
このとき、住民税の支払義務があることを理解して、期限までに納付すればまったく問題ありません。一番怖いのは、納付書が届いても無視してしまうケース。「きっと、何かの誤解だろう」「会社を辞めたから関係ない」などと、自分勝手な解釈で放っておくと、あとで大変な事態になりかねません。税金と名の付くもので、不明な点があれば、必ず確認しておくことが大切です。
納付期限までに支払いを怠っていると、間もなくして「督促状」が届くことになります。この取り扱いは、市町村によっても異なるため、ここからは一般論としてお話します。何度か届くであろう督促状も無視していると、「催告状」が届く場合もあります。これは督促状よりもさらに深刻な書面で、期限までに納付が確認できないときは、強制執行の手続きに入ることも付記されています。
会社との関係がうまくいかなくなる可能性も
最悪のケースは、滞納処分(財産の差し押さえ)です。私がこれまで何度も目にしたのは、市町村から会社宛てに届く、給与等の調査票です。この書面が届くと、会社は「従業員に何か大変なことがあった」と思い、ご相談をくださいます。
滞納処分のために、滞納者の財産を調査する必要があるときは、給与等の支払状況について照会を行うことができることになっているため(国税徴収法第141条)、調査が入る場合があるのです。勤務先としても、従業員の税金滞納は、見過ごせません。
こうした滞納問題が発端となって、会社との関係がうまくいかなくなってしまった方を何人か見てきましたが、どうも税金についての意識が低いようです。住民税は引っ越しても、転居先まで追いかけてきます。結婚して専業主婦になっても、前年に一定の所得があれば課税されます。督促しても反応がなければ、勤務先にも調査が入り、決してプラスにはなりません。
あとから渋々納付したとしても、納付期限までに収めていなければ、延滞金が発生します。支払いが長引けば長引くほど、負担は重くなりますし、過去の住民税に加えて、今の住民税もあれば、さらに支払いが膨らんでしまいます。
このような状況に陥らないためにも、退職するときに、その年度分の支払いが残っていれば、どのくらい残額があるか、どのように支払っていくか、きちんと把握しておくことが大切です。
もし、督促状が届いてしまい、すぐに納付が難しい場合でも、決して放置をしないこと。まず、担当窓口に連絡をして、納付の意思があることを伝え、分割納付などができないか、納付方法について相談をされてみることをおすすめします。
社会保険労務士。米国企業日本法人を退職後、社会保険労務士事務所等に勤務。2005年3月、グレース・パートナーズ社労士事務所を開設し、現在に至る。女性の雇用問題に力を注ぎ、「働く女性のためのグレース・プロジェクト」でサロン(サロン・ド・グレース)を主宰。著書に「採用と雇用するときの労務管理と社会保険の手続きがまるごとわかる本」をはじめ、新聞・雑誌、ラジオ等多方面で活躍。
[nikkei WOMAN Online 2016年10月4日付記事を再構成]
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