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現代の「三婆」誕生 老の問題つき、新たな魅力

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NIKKEI STYLE

これぞ昭和のエンターテインメントといえる傑作喜劇「三婆(さんばば)」がよみがえった。いずれも初役の大竹しのぶ、渡辺えり、キムラ緑子が生き生き、元気いっぱい。この「婆」たちはきっと見通し不透明な演劇界を力強く先導してくれるだろう。切符入手難となった好舞台の魅力を探ってみよう。

金融業者の社長が妾宅(しょうたく)で急死したところから物語は始まる。お相手の芸者、駒代(キムラ緑子)があたふたしているところへ本妻の松子(大竹しのぶ)、社長の妹タキ(渡辺えり)が駆けつける。行き場のない駒代とタキが本宅に居候を決め込んでのてんやわんやが何ともおかしい。

有吉佐和子の原作を舞台化した小幡欣治脚本は今風にいえばシチュエーション・コメディーで、まさに職人技。今、この領域では三谷幸喜ひとりが気を吐いているが、高度成長時代から昭和後半までの商業演劇黄金時代、喜劇は質量ともに圧倒的だったのだ。初演は1973年。40代半ば、脂の乗った劇作家のセリフが今回も女優の生地を引き出している。斎藤雅文補綴(ほてつ)・演出。

まずは大竹しのぶが珍しい和装で、これまでにない境地をみせる。急展開に振り回され、珍客の追い出しに懸命になるあたり、現代感覚のコミカルな芝居。動きに破調を含ませながらもシンを保つところがさすがで、いざ追い出しに成功したあと訪れる孤独のしじまを深々と刻んだ。三婆の奇妙な「共同体」は続く。老け役になっても孤影に沈み込まないところがこの女優の美質で、ポジティブ志向へ転じる明るい呼吸がうれしい。

キムラ緑子は劇団M.O.Pの主演女優として関西圏で評判をとっていたころから見ているが、喜劇性に節度があるのがいい。カーンとはじけるおかしさはサビがあってこそ生きる。和装もしっくり、あっけらかんとした陽性の芸者がくっきり浮きでた。言葉を滑らせて、家に上がりこむ厚かましさが自然な流れになって、うまい。

少女趣味の不思議な衣装で出てくるだけで面白い渡辺えりは、劇作家でもある。演技派ではむろんない。主宰していた劇団300時代から、ぶっきらぼうなセリフが不思議に異彩を放っていた。大竹、キムラといった巧者と組めば、この怪物性が効いてくる。ガラス越しに威圧する姿、大仰な嘆息の個性が「電気くらげ」とあだ名される役柄にはまる。やがてこの役は結婚しないまま老後を迎えるさびしさを宿すようになる。脱線しそうでいて、ぎりぎりで踏みとどまるのが渡辺ならでは。老いていく女の孤独を見すえる劇作家のまなざしが演技を支えていたか。

かつて商業演劇の主流は女優劇であった。「三婆」はその代表であり、松子役だけとっても大竹以前に市川翠扇、赤木春恵、正司歌江、池内淳子、波乃久里子、水谷八重子が演じている。中では池内淳子が決定版とされた。これらに対し、世代が若返った今回、どこが新しくなったのだろう。

子供夫婦や孫に囲まれる穏やかな老後を送れる人は今日多くはない。昭和まで残存していた家族制度が崩壊し、砂粒のような個が老いる「孤老」の時代に入っている。長寿リスクという言葉がささやかれ、孤独死が日常の隣にある。そうした社会を背景にして「女の老後」の切迫感がいっそう強く舞台に吹き込まれたかにみえるのだ。一見にぎやかな駒代、タキの心にくすぶる絶望、それを受けとめる松子の愛。子供世代のかげがない疑似家族の喜劇には、この時代を撃つ鋭さがある。

劇中の登場人物は60代前半でおばあさん、おじいさん。今なら10歳足して考えるべきか。一方で60を過ぎたら老人という物語は人を神妙な気持ちにさせるのも確かだ。忍びよる老いのさびしさが、劇中の年齢より若くみえる女優たちによって増幅されるのである。まさに、ひとごとではない。3女優の身体の中で眠っていた古風な何かがこういう芝居で呼び覚まされた面があるだろう。おじいさん役、段田安則の受けの演技が作品のおさえになって、見事。シス・カンパニーの現代演劇公演と見まがう配役がよく息をそろえていた。

おめかけさんと本妻の同居という設定にしろ、高度成長時代の「老」のありかたにしろ、もはや時代劇といえるもの。にもかかわらず、現実の社会はあの時代から進歩しているとはいえない。三婆をひんぱんに訪ねる見守りの行政職員、訪ねてくる八百屋夫婦が象徴する地域のつながり、それらは果たして今健全だろうか。舞台で揶揄(やゆ)される人のお節介、厚かましさが、今や失われた懐かしい感情と化していないか。この作品がはらんだ新しい苦みだろう。リメイクを重ねながら、アップデートし続けてほしい舞台だ。

松井るみ美術、前田文子衣装。11月27日まで、新橋演舞場。

(編集委員 内田洋一)

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