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国内で1日に刊行される新刊書籍は約300冊にのぼる。書籍の洪水の中で、「読む価値がある本」は何か。書籍づくりの第一線に立つ日本経済新聞出版社の若手編集者が、同世代の20代リーダーに今読んでほしい自社刊行本の「イチオシ」を紹介するコラム「若手リーダーに贈る教科書」。今回お薦めするのは、電通のコピーライターで、カンヌ広告賞など国内外で30以上の賞を受賞した梅田悟司さんの「言葉にできるは武器になる。」。伝わる言葉を生み出すための技術を、トップコピーライターが伝授する。

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梅田悟司氏

梅田悟司氏

著者は1979年東京生まれ。2004年上智大学大学院理工学研究科修了。インディーズのCD制作やアーティストマネジメントを手がける会社を起業した後、電通に入社。マーケティングプランナーを経て、コピーライターになります。

梅田氏は「ジョージア」などのコピーを手がける

梅田氏は「ジョージア」などのコピーを手がける

最近の作品には、コカ・コーラグループの缶コーヒー「ジョージア」の『世界は誰かの仕事でできている。』、リクルートジョブズ(東京・中央)の求人メディア「タウンワーク」の『バイトするなら、タウンワーク。』などがあります。CM総合研究所(東京・港)が選ぶコピーライターランキングのトップ10にも2014年、15年と連続で選ばれました。

素材が悪いものは、相手には届かない

「ユーチューブ」などの動画共有サイトや、「フェイスブック」などの交流サイト(SNS)を通じて、胸に響くプレゼンテーションや言葉を目にする機会が多くなりました。また、そうした中で自分の活動や近況を報告することも増えてきたのではないでしょうか。こうしたときに困るのが言葉の選び方です。「相手に伝わる言葉を生みだしたい」というのは、多くの人がコミュニケーションの理想形として考えているはずです。しかし、「伝わる言葉」を生み出すためにはテクニックに頼るのではなく、まずは自分自身の「内なる言葉」に耳を澄ますべきだ、と著者は指摘します。

 「私は料理人としての最高のスキルとテクニックを持っている。そのため、どんなに素材が悪かろうが、顧客が満足して帰る料理を提供することができる。プロの料理人としては、当然のことだ。」
 この言葉を聞いて、いい気分になる人は少ないだろう。「どんなものを食べさせられているか分かったもんじゃない」と思ってしまうのではないだろうか。
 この素材と料理の関係は「内なる言葉」と「外に向かう言葉」の関係に近い。
(第3章 プロが行う「言葉にするプロセス」146ページ)

料理の「素材」は「内なる言葉」であり、「完成した料理」は「外に向かう言葉」に置き換えることができます。良い素材がそろっていなければ、いい料理が生まれることがないように、思いや気持ちがなければいい言葉は生まれません。

人々が、相手の言葉に対して「重い、軽い」「深い、浅い」と感じる印象は、自らの思考と直結していると著者は説きます。自分の思考をどれだけ広げ、掘り下げることができたかによるからです。どんなに言葉巧みになったとしても、言葉の重さや深さを得ることはできません。

自分の考えを深めることは、他者に伝える第一歩

 人は、物事に真剣に向き合っている人の意見は信用しようと思うし、自ら協力しようとも思う。その一方で、口だけであったり、利己的であったり、「どうにか協力させようとしているな」と感じた時には、聞き手は言葉の端々から見え隠れする本心に敏感に反応し、一気に心を閉ざしてしまう。
 他者に思いを伝えるのであれば、それだけ本気で考え、信じていなければならないし、何かを手伝って欲しいと思っているのであれば、成し遂げたいことや理由が明確でなければならない。
(第1章 「内なる言葉」と向き合う 51ページ)

自分の考えに確固たる自信を持つためには、考えを深めることが必要不可欠です。私たちは、「言葉を書く」「話す」などの具体的な行動をとっていないにせよ、頭の中で常に言葉を使っています。多くの人は、こうした「内なる言葉」には注意を払わず、「外に向かう言葉」しか意識できていません。この「内なる言葉」に意識を向け、語彙力を増やし、思考の幅を広げることが、結果的には他者と志を共有するような言葉を紡ぐことにつながることを、本書では示しています。この、「考えを深めるためのステップ」を、著者は7つのプロセスに分けて説明します。

週に数回「自分との会議時間」をつくる

 自分が持っている常識とは、多くの場合、自分の世界における常識に過ぎず、他人の常識とはズレが生じている。ノーベル賞受賞者であるアルベルト・アインシュタインは、この真実を「常識とは十八歳までに身につけた偏見のコレクションのことをいう」という言葉で端的に示している。
(第2章 正しく考えを深める「思考サイクル」 122ページ)

まずは紙へのアウトプットをはじめとし、自分の考えとは正反対のことを考えたり、違う人の視点から考えたり……。こうした作業は自分という思考の壁を乗り越えることにもつながります。とはいえ、日々の忙しい生活の中で時間を確保することは至難の業でしょう。「重要なのは、きちんと時間を確保して、自分と、自分の内なる言葉と向き合うことである」と著者は語ります。あらかじめ、スケジュールに組み込むことで、「時間があったらやる」という考えから抜け出すことができます。著者自身も、「自分との会議時間」と定義し、1週間に数回は確保するようにしているそううです。

「伝えるための言葉」を編み出す能力は、特定の職種に限らず、広く求められるようになりました。しかしながら、こうしたスキルは「アイデア」といった言葉でまとめられ、教わることがほとんどないのが現実ではないでしょうか。プロは、もちろんアイデアだけではなく、適切な思考法の中で、心に届く言葉を生み出しています。本書は、思考方法から実際の表現の技術に至るまで、丁寧に解説してあります。デスクに常に置いておきたい一冊です。

◆担当編集者からひとこと 網野一憲
 トップコピーライターとして活躍中の著者にも、うまく思いを言葉にできず苦しんだ時期がありました。そしてたどり着いた独自の方法論をやさしく開示したのが本書です。どういう本にするか議論を重ね、「誰でもできる」、しかし「表面的なスキル本ではない」、そして「100年経っても読まれる」を目指すことに。
 原稿執筆と並行して、著者がコミュニケーションディレクターを務めた人気アイドルグループ「嵐」の松本潤さん主演の弁護士ドラマ「99.9」が始まり、広告戦略を手がけた人気グループ「EXILE(エグザイル)」の15周年アルバムの仕事も進んでいました。
 その合間を縫っての打ち合わせ。著者の思いが読者に伝わるか何度も話し合い、5回の書き直しと3回の体裁変更をしています。こだわりの詰まった一冊です。

(雨宮百子)

「若手リーダーに贈る教科書」は原則隔週土曜日に掲載します。

「言葉にできる」は武器になる。

著者 : 梅田 悟司
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 1,620円 (税込み)

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