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配当狙いで着実リターン 株主還元力が高い銘柄は

2016/11/20

 株式市場で、円高や新興国景気の減速などで企業業績への警戒感が根強いなか、増配や自社株買いといった株主還元への関心が一段と高まっている。増配する企業に投資できれば、確実にインカムゲイン(配当収入)を増やせる。自社株買いも一般に株価のプラス材料になりやすい。株主還元の余力の大きい企業をどうやって見分ければいいか。経験豊富な個人投資家などの声を参考に探ってみた。

 「企業の業績が低迷するなか、株価が上がらなくても着実にリターンを得られる資産配分が重要になる」と話すのは兵庫県在住の30代の個人投資家たっちゃん(ペンネーム)。配当狙いの投資を基本にしており、投資元本に対してリターンは年率3.5%以上だ。4月以降、日経平均株価が伸び悩むなかでも、すでに300万円近い配当を受け取った。昨今、人気の高い指数連動型のインデックス投資では得られないリターンを手にしたわけだ。

 株主還元を強化する企業は多い。コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)の導入を機に企業が手元資金の有効活用に動き出したことが背景にある。A図で示すように、野村証券によるとリーマン・ショック後の2009年度を底に、配当と自社株買いをあわせた株主還元額は右肩上がりで増えている。

 同証券の西山賢吾シニアストラテジストは、16年度の株主還元額は前年度比6%増の16兆8000億円になると予測する。「株主還元策の拡充を求める投資家は多く、積極的に還元する企業は今後も増える」(西山氏)とみる。

■IR資料を参考に

 増配や自社株買いをしそうな銘柄をどうやって見極めるか。企業が四半期ごとに開示する決算短信や、中期経営計画などが載った投資家向け広報(IR)資料が参考になる。最近は毎年の利益のうち、どれだけ配当に回すかを示す「配当性向」や、株主還元額を純利益で割って算出する「総還元性向」の目安を公表する企業が増えている。比率の増減を確認すると、今後の傾向を予測しやすい。

 株主還元の原資は原則として事業で稼いだ利益を回す例が多い。日本企業は欧米企業のように借り入れまでして株主還元を増やす企業は少ないので、まずは企業の財務体質をみて還元余力を探るのが有効だろう。

 具体的には、現預金など手元資金を多く持つキャッシュリッチ企業は還元余力が高い銘柄群といえる。総資産に占める有利子負債の比率が低く、資金を負債の返済に回す必要の少ない企業は有望だ。自己資本利益率(ROE)が低い企業であれば、資本効率を高めようと自社株買いに踏み切る可能性もありそうだ。

 これらの要素で銘柄を抽出したのがBの表だ。こうした銘柄のなかには実際に増配など株主還元を強化したところもある。例えば、信越化学工業は16年4~9月期の決算発表とあわせて、中間と期末の配当をそれぞれ5円増やし、年間配当を前期比10円増の120円とした。しまむらも年間配当を前期比1円増の196円に積み増した。

 もっとも、「財務分析通りに企業が動くわけではない。配当を出さない会社はずっと出さない場合もある」(楽天証券経済研究所の窪田真之チーフ・ストラテジスト)との声もある。では、株主還元に照準を合わせて成果を上げている個人投資家はどうやって銘柄を選別しているのか。

 冒頭のたっちゃんが銘柄選びでまず重視するのが過去のデータだ。過去5年分のデータで株主還元の状況を調べる。「連続で増配していればベストだが、増配でなくても減配をしていないかが重要」という。

■利益剰余金に着目

 加えて、本業のもうけを示す営業利益が極端に増減しておらず、着実に利益を稼ぐ基盤があるかどうかについて、過去のデータを念入りに確認する。景気に事業が左右されにくく、業績が安定しているほど、配当も増えやすいとみるからだ。例えば、配当も営業利益も比較的安定しているNTTドコモは一時期、投資先の中核だったという。過去の実績を分析するという投資家は案外多いようだ。

 かといって過去のデータに頼りすぎてもダメだ。将来の減配リスクなどに備えるには別の要素をみる必要がある。投資歴30年の男性は「配当性向を高めた企業にやみくもに投資するのではなく、(利益の蓄積である)利益剰余金が現在の年間配当総額の10年分あるかどうかをみるのも一つの手だ」と助言する。収益の伸びが鈍っても、利益剰余金が多ければ、直ちに減配に動くことは考えにくいというのがその根拠だ。

 「投資キャッシュフローをみて、設備投資などをちゃんとしているかどうかを確認している」というのは東京都在住の60代の男性投資家だ。「相場全体が上昇基調に転じた時に配当にこだわり過ぎれば、リターンで大きく見劣りする可能性もある。長期投資の場合は高い配当利回りだけでなく、手元資金を将来の成長に振り向けているかを見極める必要がある」と話す。

 株主還元銘柄狙いの投資とはいえ、成長期待を全く持てなくなってしまった銘柄は避けた方が無難ということだろう。データで銘柄を抽出しつつ、過去からの継続性や将来の成長性など幅広い視野でバランスよく選ぶのが重要といえそうだ。(岸田幸子)

[日本経済新聞朝刊2016年11月9日付]

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