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悪いヤツほど出世する

リーダーはなぜこうも失敗するのか? スタンフォード大学ビジネススクール教授 ジェフリー・フェファー(6)

2016/11/8

「世の中を見回すと、やる気を失った社員、不満を抱く部下、悩める中間管理職があまりに多く、その一方で、過ちを犯し、職を失うリーダーも後を絶たない」。スタンフォード大学ビジネススクールの名物教授で、経営学修士(MBA)のコースで組織と権力について教えているジェフリー・フェファー氏はこのように指摘する。同氏の最新刊『悪いヤツほど出世する』から、失敗したリーダーや世の中に出回るリーダー論の「ウソ」を小気味よく指摘する序章を7回に分けて紹介しよう。

数十年にわたり、善き意図から熱心にリーダーシップ開発が行われてきたにもかかわらず、職場には不満が渦巻き、リーダー自身も残念な結果に終わるケースが後を絶たないのはどうしたわけだろうか。何か理由がなければおかしい。本章では、リーダーシップがいっこうに向上しない原因をいくつか挙げる。このほかの原因は、後の章であきらかにしていきたい。

リーダー個人と会社の利害は一致しない

ある思慮深いシニア・エグゼクティブとランチをしたときのことだ。彼は私がリーダーシップ研究をしていることも、リーダーや職場に関する芳しくない調査結果もよく知っていて、「御託はいいから、とにかくいいリーダーになるにはどうしたらいいのか教えてくれよ」と私に迫った。私は答えた。「まず、君の中ではどういうリーダーが『いいリーダー』なのか、基準を教えてくれないと答えられないよ。パフォーマンスだって? じゃあそのパフォーマンスの基準はなんだい? それとも、できるだけ長く地位を維持すること? 望みうる最高の報酬を手にすること? 他社からより高い地位をオファーされること? それとも、部下の意欲を高め離職率を下げることかな?」

要するに、こうだ。リーダー個人の利益と会社の利益が一致しないことはままある。となれば、「いいリーダー」になろうとすれば、まずは両者のトレードオフを理解し、真の優先課題を選別することから始めなければならない。

集団のリーダーと集団自体との利益相反は、社会生物学ではよく取り上げられるテーマである。個体は自らの生存確率を最大化しようと試み、自分が生き延びるために必要なリソースを何としても手に入れようとする。ところが集団の存続は、往々にして個人の犠牲の上に成り立っている。たとえば兵士が身を挺して手榴弾の爆発から仲間を守る、子どもが生き延びられるように親が自分は食べずに我慢する、といった具合に。この分野のある論文は「社会集団が外的条件に適応しながら機能するためには、集団の成員は互いのために尽くさなければならない。だが、こうした集団に役立つ行動の大半は、集団内の個体の相対的な適応度にはほとんど寄与しない」と述べている。

社会心理学の分野でも、集団を効果的に機能させるというリーダーの使命と、リーダー自身にとっての利益すなわち権力の強化拡大との間には、つねに緊張が生じることが認識されている。リーダーには、自己の利益を確保するために他人に強権をふるう誘惑がつきまとう。そしてリーダーはだいたいにおいて、自分のキャリア形成と自己の利益を優先するものだ。

ここで、ディック・コストロの話をしよう。コストロはハイテク起業家で、グーグルからツイッターの最高執行責任者(COO)に転身した人物である。就任前日の彼のツイートは、こうだ。「明日はツイッターのCOOとして初のフル出勤。任務その一―CEOの弱体化と権力の一元化」。これが、2009年9月13日のことである。コストロはジョークのつもりだったのだろうし、大方の人はジョークと受けとめたようである。

だがツイートは予言ではないとしても、何らかの力はあるらしい。わずか13カ月後の2010年10月に、共同設立者であるエヴァン・ウィリアムズに代わってコストロが新CEOに指名された。ウィリアムズはきわめて紳士的な発言をしている。「新しい製品を考えることほど私にとって楽しい仕事はない。創造することは私の情熱だ……だから今日、新CEOを指名した。私は今後プロダクト戦略に100%専念するつもりでいる」。自ら権力を手放す創業者はめったにいない。結局その後ツイッターを出て行ったウィリアムズが、その稀有な例外の一人だったと言えるのかどうかはわからない。

コストロがCEOまでのぼり詰めたのは、ツイッターにとってよいことだったのだろうか。あるいは、もう一人の共同設立者であるジャック・ドーシーが同社を離れたのはよいことだったのだろうか(ちなみに2015年7月にコストロは辞任し、ドーシーが復帰した)。それは、誰にもわかるまい。ツイッターの株価は低迷したが、幹部交代劇の背後にある理由と同じく、業績を左右する要因も単純ではないからだ。

組織の利益とリーダーの利益は一致することがリーダーシップという理念の大前提になっており、多くの人がそう信じている。だがそういうケースはめったにない。もし読者が10年ほど冬眠して目覚めたら、大勢のCEOや取締役会が会社を破滅に追いやりながら、当のCEOは結構な退職金を頂戴して他社に転じ、取締役たちの大半は安泰である(さらには他社の取締役を兼任している)ことにびっくりするだろう。

組織の利益とリーダーの利益のちがいがさまざまな研究であきらかにされる一方で、リーダーシップ神話は相変わらず、組織のパフォーマンスを高め部下の士気を高めるリーダー像を語ることに終始している。そして、実際にはどんな資質や行動や適性がリーダー自身の満足度に寄与しているのか、ということには目を向けようとしない。長い在任期間、高い報酬、そしてそもそも高い地位にのぼり詰めることこそリーダーにとってうれしいはずだが、そうしたものはいっさい語られない。このことが、よきリーダーのためのプログラムや助言が現実の世界でほとんど効き目がない一つの理由ではないだろうか。リーダーシップ教育産業はリーダー自身の利益に関心を示さないが、本人は大いに関心があるのだから。

実態調査が行われていない

リーダーに示される数々の処方箋の2番目の問題点は、リーダーの行動と職場の結果の間には強い因果関係があるとの前提に立っているにもかかわらず、実際にリーダーは教わったことを実行しているのか、ほとんど実態調査が行われていないことだ。したがって、処方通りに実行されていない場合に(実際、実行されていないのだが)、その原因も究明されないし、対策も立てられていない。いくらよい薬でも、服用しなければ役に立たないことは言うまでもない。その端的な例を一つ紹介しよう。

1847年のこと、ハンガリーの医師センメルヴェイス・イグナーツは興味深い事実に気づいた。ウィーンの総合病院で出産した母親の産褥(さんじょく)熱(産道から細菌が入って発症する敗血症)の発生率が、自宅分娩の場合より10倍近く高いのである。状況をつぶさに観察したセンメルヴェイスは、医師が手洗いなど十分な消毒を行わないせいで感染が拡がるのだと結論し、カルキを使用した手洗いを提唱した(当時はまだ病原菌の存在がわかっていなかったことに注意されたい)。おかげで平均10%に達していた産褥熱発生率は1.5%まで下がった。しかし医者仲間からは敵視され、病院から追い払われて不遇のうちに一生を終える。のちに近代細菌学の父ルイ・パスツールが病原菌の存在をあきらかにし、消毒殺菌が重要であることを示したおかげで、手洗いの大切さがようやく広く認識されるようになる。センメルヴェイスも「院内感染予防の父」として再評価され、名誉が回復された。

ここまではいい。だが、細菌学が確立されてから数百年が経ち、科学的な証拠が積み上がっているにもかかわらず、病院や診療所での衛生習慣はいまだに徹底されていない。アメリカ疾病管理センターの報告によると、医療機関で手洗いが励行されているのは40%程度だという。

こんなエピソードもある。あるとき医療機器会社の幹部たちが、心臓専門医として名高いロバート・ハウザー博士の案内でミネアポリス心臓センターを見学した。見学後に博士は、何が印象に残ったかと質問した。答は博士の期待したものではなかった。見学者たちは、最先端の医療機器が作動する様子ではなく、どの部屋にも「手を洗いましょう」と大きな文字で書き出されていたことに感銘を受けたのである!

世界でも最先端の病院でこんな張り紙を出さねばならないという事実は、手洗いが医療の質的向上に効果的だとわかっているにもかかわらず、その知識が十分活かされていないことを如実に物語っている。このありさまはどうしたわけだろうか。まず、衛生習慣と病気の関係をきちんと裏付ける調査が継続的に行われてこなかったことが問題である。すでに知識として確立されているからといって、繰り返し強調し指導しなくてよいということにはならない。また大方の医療機関は、知識が普及しているのだからよい習慣は自然に定着するだろうと考えている節がある。それに、手洗いの習慣が励行されたところで、あまり評価されない。きちんと手を洗う医師を称賛する本や記事にはとんとお目にかからない。

とはいえ、保健政策の担当者や公的機関は、二つの重要なことを行っている。一つは、医療行為が行われる多くの場所で衛生習慣の実施率を測定することだ。これによって実態があきらかになり、指導や立入検査などを通じて改善が図られている。もう一つは、医療の専門家や研究者が事態を重く見て、感染防止戦略の策定に乗り出したことである。

医療現場のこうした状況に比べると、リーダーシップ教育産業は怠慢と言わざるを得ない。大量のプログラムやセミナーを提供して助言をするだけで、実践されたかどうか、事態が改善されたかどうか、改善されていないとすればそれはなぜか、といったことを突き止める努力もしていない。彼らは、リーダーはこうあるべきだとか、ものごとはこうでなければならないといった規範的なことにこだわりすぎており、実態はどうなっていて、それはなぜか、という基本的な問いを発していないのである。リーダーと職場の実態が計測されない限り、またリーダーが自らの行動の改善とその結果に責任を問われない限り、状況は変わらないだろう。

知識も経験も資格もない人が、元気よく教えている

リーダーをめぐる状況が改善されないもう一つの重大な理由は、リーダーシップを教えるのに知識も経験も資格も必要ないことだ。つまりリーダーシップ教育産業には「参入障壁」がまったくない。どんな人でもリーダーシップについて本を書くことができるし、講演をしたり、コンサルタントになったり、さらにはコンサルティング会社を興したりできる。そして実際、そうしている人はいくらでもいる。

アクセンチュアの元シニア・パートナーで、現在はメンロー大学学長のリチャード・モランによると、現在リーダー向けにコンサルティング・サービスを提供している人の多くは、一度もリーダーの地位に就いたことがないか、就いたことがあっても不評または失敗した人間だという。彼らが受け売りするアドバイスが自分自身の行動と一致していないのも、驚くには当たるまい。

ロバート・ガンドシーも同様のことを言っている。ガンドシーは人材コンサルティング会社ヒューイットの経営幹部を務めたのち、人事関係の調査・コンサルティング会社RBLグループを経営している。彼によれば、リーダー向けのコーチング・サービスを提供している人たちの大半は、役員報酬コンサルタント出身者だという。「役員報酬コンサルタントが悪いとは言わないよ。だが、報酬について助言ができるからといって、リーダーシップ開発ができるとは思えないね」

だが実態はもっとひどい。リーダーシップ教育産業に参入する連中の多くは、知識も経験もないうえに、どうも興味もないように見える。付け焼き刃でも本を読むとか勉強をするという気もないらしい。

実際、リーダーシップ・コーチングやコンサルティングで花形になるのに、知識は無用なのである。私自身の経験からほんの一例を挙げると、ある会議でリーダーシップに関する講師を探していた企画担当者は、適任者を見つけたとうれしそうに話してくれた。だがじつは彼が講師を選んだ理由は、なんと「イケメン」だったことらしい。この手の話はいやになるほどよく耳にする。そしてこの実態は、企業内研修やリーダーシップ・セミナーの類いはもちろんのこと、高等教育機関で行われるリーダーシップ教育の様相とも完全に一致する。いまや彼らの目的は、悩めるリーダーや職場の解決策として、目にも耳にも心地よいエンタテインメントを提供することなのである。

そもそも、「リーダーシップ」の概念が曖昧

リーダーシップを教えるのに資格がいらないとか、規範的なことに終始するといったことは、リーダーシップに関して概念や定義が曖昧であることと関係がある。このため、対策や助言も的外れだったり、抽象的すぎてどう実行していいかわからないということになりがちだ。

たとえば、カリスマ的なリーダーシップを考えてみよう。カリスマ性は好ましい特徴のように見える。政治家でいえば、ジョン・F・ケネディやバラク・オバマなどが思い浮かぶ。彼らは、カリスマ性に乏しい対抗馬に比べて断然有利だ。創業間もなく成功を収めて、それを維持しているサウスウエスト航空のハーバート・ケレハー、アップルのスティーブ・ジョブズも同じタイプと言えるだろう。カリスマ的なリーダーシップは、リーダーや組織への帰属意識を強め、愛着や忠誠心を深めるので効果的だとよく言われる。カリスマ・リーダーは部下を変身させ、やる気を出させ、仕事満足度を高めると主張する研究者もいる。

だがその一方で、組織行動の専門家であるダン・ニッペンバーグとシム・シトキンは、カリスマの定義は漠然としており、カリスマ性がもたらすとされる効果の心理的メカニズムも十分解明されていないと指摘する。さらに、カリスマ研究の多くは原因と結果を取り違えている、と手厳しい。カリスマ・リーダーの成果とされていることの多くは裏付けがないという。リーダーシップの概念そのものがこうもいい加減では、有効な処方箋など望むべくもない。ましてそれをリーダーが実行することは不可能と言わざるを得ない。

(村井章子訳)

ジェフリー・フェファー(Jeffrey Pfeffer)
スタンフォード大学ビジネススクール教授。
専門は組織行動学。『「権力」を握る人の法則』『なぜ、わかっていても実行できないのか』など、これまで14冊の著作があり、とくに権力やリーダーシップなどのテーマで高い人気を誇る。経営学の第一人者として知られ、ロンドン・ビジネス・スクール、ハーバード大学ビジネススクール、シンガポール・マネジメント大学、IESEなどでも客員教授として教鞭をとるかたわら、複数のソフトウェア企業や上場企業、非営利組織の社外取締役も務める。

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著者 : ジェフリー・フェファー
出版 : 日本経済新聞出版社
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