なぜ103万円? 配偶者控除の基本早分かり

政府が配偶者控除の見直しを議論するなど控除という節税につながる仕組みに関心が高まっています。そこで筧ゼミでは様々な控除の内容や使い方を考えます。初回は自身もパート主婦の岡根知恵さんが配偶者控除を取り上げます。

筧花子(かけい・はなこ、50=上)経済大学院教授。家計の経済行動や資産形成、金融リテラシーが専門。 岡根知恵(おかね・ちえ、38=中)パート主婦。将来の家計に不安を覚え、金融知識を身に付けようと大学院に。 屋久仁達夫(やくに・たつお、54)大手製造業の技術職。定年を控え年金・介護など老後資金に関心。

 このテーマを選んだ理由から説明をお願いします。

岡根 私もそうですが、パート先では年間の給与収入が103万円を超えないようにして働く人が目立ちます。103万円以下なら夫が所得税で年38万円の配偶者控除を受けられ、税金が節約できますから。ただ最近は政府が控除の見直しを議論しているので、勉強したいと思いました。

屋久仁 そもそも控除と税金はどんな関係ですか。

岡根 まず知っておきたいのは、税金は収入にまるごとかかるわけではないということです。会社員は年収に応じて経費とみなす額が決まっていて、給与所得控除といいます。これを差し引いた後、配偶者、基礎、扶養など様々な所得控除を引いて課税所得を計算し、所得に応じた税率をかけると算出税額が出ます。さらにそこから税額控除を引いた額が実際に払う所得税というわけです。

屋久仁 所得控除と税額控除の違いは何ですか。

岡根 所得控除は税率をかける前に引くので、所得控除の額は同じでも税率が高い人ほど税金が減ります。こうした仕組み自体が富裕層の優遇だと指摘する声があります。

屋久仁 税額控除はそうではないのですね。

岡根 住宅ローン控除など税額控除は、算出税額を出した後で差し引くので税率による差はつきません。税理士の服部誠さんは「政策上、幅広く一律に負担軽減効果をもたらしたい場合は所得控除でなく税額控除が使われる傾向がある」と話しています。

屋久仁 全体像は分かったので、次は配偶者控除について教えてください。配偶者控除があると、税金はいくら下がりますか。

岡根 夫の税率次第です。38万円分の所得を引いてくれるので、例えば所得税率が10%の人なら、3万8000円、20%の人なら7万6000円の所得税が減ります。

屋久仁 なるほど。では配偶者控除の年103万円という基準はどうやって出しているのですか。

岡根 配偶者控除の対象は、配偶者の合計所得(給与所得控除を引いた時点での所得)が38万円以下と決まっています。一方、給与収入には最低でも65万円の給与所得控除があり、収入がこれ以下なら所得が発生しません。所得が38万円になるのは収入が65万円を38万円上回る103万円というわけです。

屋久仁 103万円を超えると、夫の税金が急に上がるのですね。

岡根 そうではありません。103万円を超えると配偶者特別控除という制度が適用されるからです。特別控除は最初は38万円で、その後少しずつ階段状に減り、141万円でゼロになります。ただし服部さんは「配偶者特別控除は夫の合計所得が1000万円以下の場合だけが対象」と注意を促しています。

屋久仁 私の合計所得も1000万円以下ですが、妻は103万円を超えないようにしています。

岡根 特別控除の存在を知らない人も多くいます。他にも勤務先からの配偶者手当の問題があります。人事院の2015年調査では対象企業の4割が103万円を基準に配偶者手当を支給し、平均支給額は年約16.7万円です。税金上は配偶者特別控除があっても、勤務先の配偶者手当が打ち切りになる場合の影響が無視できないわけです。

 配偶者控除と特別控除については金額の不公平も指摘されていますね。

岡根 はい。夫婦とも給与収入の世帯のタイプ別に受けられる控除を一覧表にしました。年収が65万円以下の専業主婦世帯や共働き世帯の場合、基礎控除・配偶者控除・配偶者特別控除のうち、受けられる控除は夫婦合わせて2つで計76万円です。基礎控除は誰でも所得から38万円を引く仕組みですが、所得のない専業主婦は恩恵がありません。

 一方、パートの主婦は先ほどの65万円超なら基礎控除があるから、収入が103万円で最大38万円になるわけですね。

岡根 その場合、夫の基礎控除、配偶者控除と合わせて控除は夫婦で3つ、最大で114万円です。やや細かな点ですが、制度見直し論の背景の一つです。

屋久仁 今年は安倍政権が女性の就労を後押しするため、政府税制調査会に見直しを指示しましたね。

岡根 一時有力視されたのが配偶者控除をなくして夫婦共通に使える夫婦控除というのを作る案です。しかし早々と消え、配偶者控除の金額を150万円あるいは200万円に引き上げる案が浮上しています。

屋久仁 単に枠が広がるだけでは根本的な解決にならないのでは……。

岡根 他にも問題があります。現在、女性は年収が130万円(一部大企業では10月から約106万円)以上だと社会保険上の扶養を外れ、健康保険料や年金保険料などで一挙に年18万円前後の負担が発生しがちです。夫婦控除でも、配偶者控除の金額引き上げでも、130万円の壁(一部の人は106万円の壁)は残るわけです。女性の働き方の壁をなくすには何段階もの努力が必要です。

■2つの新たな効果期待
大和総研研究員 是枝俊悟さん
政府の配偶者控除見直しは、枠を拡大する一方で税収に影響を与えないように所得制限をする案を軸に議論しているようです。例えば対象になる年収を現在の103万円から200万円まで拡大し、納税者(夫婦のうち所得が高い方)の年収で1220万円以下という所得制限を設ける場合を試算すると、ほぼ税収に中立になります。負担増の世帯は限られます。
この場合は2つの新たな効果を期待でき、配偶者控除の意味合いが変わります。一つは一時的な収入減のカバー。平均的な所得の人でも、産休・育休や病気などで一時的に年収が減ったときに対象になる可能性が高まります。2つ目は若い世代の結婚の後押し効果。30歳未満では年収200万円未満の人も多くいます。配偶者控除の対象年収が200万円になれば、結婚で税負担が減ります。(聞き手は編集委員 田村正之)

[日本経済新聞朝刊2016年11月5日付]

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