配偶者控除見直し効果薄 「130万円未満」意識強まるみずほ総合研究所 大嶋寧子主任研究員に聞く

2016/11/7
みずほ総合研究所 大嶋寧子・主任研究員
みずほ総合研究所 大嶋寧子・主任研究員
主婦の働く意欲をそぐといわれる配偶者控除。政府は秋口に廃止も検討していたが、方針を転換し、制度存続の公算が大きくなった。廃止はしないものの、税優遇を受けられる年収要件を引き上げて、主婦らの就労を促すという。政府の思惑通りに主婦らは動くのか。みずほ総合研究所の大嶋寧子主任研究員に聞いた。

――9月に始まった政府の税制調査会は当初配偶者控除の廃止案を示していた。ただここに来て配偶者控除の存続に方向転換したようですね。

「配偶者控除は、妻の年収が103万円以下の場合にサラリーマンの夫の税負担を軽くする仕組みだ。この条件を満たすように妻が一定以上働かないようにするケースがあり、見直しの必要性が指摘されてきた。配偶者控除の年収要件を引き上げて存続する場合、女性の就業に中立的でない制度の問題が残る」

――税金や社会保険料の負担を避けるために年収で働き方を抑制する「103万円の壁」「130万円の壁」はそんなに厚いのですか。

「2002~15年に女性雇用者は300万人以上増加した。だがその4割は年収100万~149万円の非正社員が占めている。夫の収入低迷で仕事に就く妻が増えたものの、パートの賃金は低く、正社員の仕事は家事・育児との両立が困難で『壁』を越えることは難しい。その結果、女性雇用の拡大が年収100万円台前半に集中した」

「『103万円の壁』を特に意識するのは、夫の勤務先が配偶者手当を支給しているケースだ。企業の約7割は配偶者手当制度を持っており、その大半は配偶者控除に基準を合わせて妻の年収103万円以下を支給要件にしている。人事院の調査によれば配偶者手当は平均年額16万7千円に上る。妻の年収が103万円を超えると配偶者手当の分だけ夫の収入が減る。これが妻が働く時間を調整する誘因の一つになっている」

――配偶者控除の条件を150万円などに引き上げる案が浮上している。年収の上限が高くなれば主婦は今より働くのでしょうか。

「検討案が実現しても女性の就業に中立的な仕組みとはならない。『130万円の壁』がより強く意識されると予想され、効果は薄い」

「企業の平均的な配偶者手当制度(年収103万以下に年額16万7千円)や社会保険料を加味し、配偶者控除の条件を150万円以下に引き上げた場合について、妻の年収と夫婦の手取り額を試算してみた(夫の年収が500万円、妻の勤務先が従業員500人以下)。妻の年収が130万円以上になると妻の社会保険料負担が発生し、夫婦の手取り額は減少する。妻の年収が160万円程度までは手取り額は元の水準に戻らない」

「夫婦の手取り額の増加をはっきり認識できるのは妻の年収が200万円台になってからだ。今のパートの時給水準では年収200万円は容易ではない。今年10月に社会保険制度が変わり『106万円の壁』も生じているが、その対象は狭い。『130万円の壁』の範囲に収まるように働く女性が増えるとみている」

「妻がパートで働くのは家事・子育て負担が重く、働く日や時間が制約されることが大きい。育児期の女性が希望に沿った働き方を実現できるようにするためには正社員の働き方を見直すべきだ。長時間労働が是正され、夫が週2~3日定時退社し家事・子育てを分担するようになれば、妻の働き方は選択肢が広がる。子育て中の女性が働く時間を延ばしたり正社員を目指しやすくなったりするだろう」

◇   ◇

半世紀前の主婦 家事に9時間

配偶者控除は1961年にサラリーマンの夫を支える「内助の功」に報いるためにできた。60年版国民生活白書によると、当時東京都のサラリーマン世帯の主婦は1日約9時間を家事に要していた。電気釜や電気冷蔵庫、電気掃除機といった家事家電の普及率は低かった。

制度が議論された50年代後半は、かまどでご飯を炊き、衣類は洗濯板でゴシゴシ洗い、生鮮食料品を近所の商店に毎日買い物に出掛ける――そんな暮らしが都市部でも残っていた時期だ。一方で高度経済成長は加速し、会社での仕事は増えていた。家庭内の稼ぎ手と家事の担い手を夫婦で役割分担する暮らしは、その是非はともかくとして経済合理性があった。

NHK「国民生活時間調査」によると2015年の主婦の平均家事時間は平日6時間35分。調査主体・方法が異なり、先の数字と単純比較はできないが家事家電などの普及は主婦の暮らしを大きく変えた。家事時間が減った分、PTA活動やボランティア活動など活躍の場も広がっている。「内助の功」に代わり主婦に今後どんな活躍を期待するのか。配偶者控除のあり方も変化を迫られている。

(編集委員 石塚由紀夫)

[日本経済新聞夕刊2016年11月7日付]