検索朝刊・夕刊LIVEMyニュース日経会社情報人事ウオッチ
NIKKEI Prime

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

検索朝刊・夕刊LIVEMyニュース日経会社情報人事ウオッチ
NIKKEI Prime

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

検索朝刊・夕刊LIVEMyニュース日経会社情報人事ウオッチ
NIKKEI Prime

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

NIKKEI Primeについて

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

/

偽札は高くつく

立川吉笑

詳しくはこちら

NIKKEI STYLE

立川談笑一門でリレー連載しているまくら投げ。今回のお題は『高かった買い物』。部屋が寒すぎてどうにもならないから、布団にくるまりながらもそもそと原稿を作成している次第です。

これまでで一番『高かった買い物』は何と言っても「偽札」だ。

いや実際には高すぎて買うことができなかったから買ってはいないけど、偽札は高かった。

10年ほど前、ある事情で僕は急きょ12万円を工面しなくてはならなくなった。

当時の僕はフリーターでその日暮らし。借金こそなかったものの貯金もほぼなかった。

親に頼ろうにも、それまでかじり過ぎた親のスネは、それこそもうガリッガリになってしまっていた。周りの友達はみんな自分と同じで、夢こそあれど金はなかった。

さてどうしたものか、と悩んでいたある日、悪魔が僕にささやきかけた。

「こうなったら偽札でいくしかない」

相当追いつめられていたのだろう。まっとうな判断ができなくなってしまっていた僕は、今でこそそんな過ちを犯すことはないけれど、そのときは何の疑問も持たず早速偽札で12万円を工面することにした。

といっても、偽札がどこで売っているのかわからない。

ひとまず僕はネットで「偽札 販売 東京」と検索してみた。

すると出てくる、出てくる。たくさんの偽札販売所があることに驚いた。時間がなかった僕は最寄り駅の販売所に目星をつけて、所持金すべてを持って早速偽札を買いに出かけた。

高円寺駅南口のロータリーに面したテナントビルの3階にその店はあった。

1階は不動産屋さん、2階は進学塾、そして3階に偽札販売所。こんな身近な場所で偽札が手に入ることに驚いた。

外からビルの3階を見上げるとでかでかと「安心、安全! 本物の偽札!」と書かれていた。僕は最寄り駅だからという理由でたくさんある偽札販売所からこの店を選んだけど、ラッキーと思った。何しろ安心で安全な、本物の偽札を手に入れることができるのだから。

緊張しながらエレベーターで3階に上がった。

チーン。エレベーターが開くと、思いのほか明るい店内の風景にびっくりした。銀行のロビーのように、たくさんの窓口があり、待合所のようなイスが並べてあり、奥のカウンターの中ではスーツ姿の男女が何やら書類を持って行ったり来たりしていた。電話はひっきりなしに鳴っているし、そんな喧噪(けんそう)を縫うように

「番号札172番でお待ちのお客様、7番窓口にお越しください」

などと、受け付けアナウンスが聞こえてきた。

偽札という性質上、もっとひっそりとした怪しい空間で売買されていると思ったけれど、実際の偽札販売所はとてもにぎわっていた。客も思いのほかたくさんいた。しかも、明らかにギャンブルで首が回らなくなってしまったおっちゃん以外にも、若い今風の男の子や、子供を連れた30代前半のお母さん、清楚(せいそ)なOLさん、中学生と思しき子供など、それこそ老若男女が偽札を買いにきていた。

ロビーの前に置いてある機械で受け付け番号を発行してもらった。

受け付け番号が209番だった僕は30人くらいの同志を見送った後でようやく窓口にたどり着くことができた。

「本日はどういったご用件でしょうか?」

僕に対応してくれたのは女性の店員さんだった。40代前半くらいだろうか、丁寧で物腰の柔らかい接客に僕は安心した。

「12万円分、偽札が欲しいのですが……」

「承知しました。12万円分、すべて1万円札でご用意してよろしいでしょうか?」

「はい、お願いします」

「少々お待ちください」

カウンターの奥へ消えていく店員さん。僕はこんなにあっさりと偽札が買えることに驚いた。

手元に1万円札が無造作に置かれていた。手に取ってみても、間違いなく本物に見える。透かしも入っているし、色味も質感も普段使っている1万円札と何ら違いがなかった。

しばらくして店員さんが戻って来られた。

「お待たせしました。こちら12万円分の本物の偽札でございます」

ずらっと並ぶお札なんて久しぶりに見た。

「お支払いは現金でよろしかったですか?」

「はい」

「割引クーポンや優待券はお持ちですか?」

「いえ、持っていません」

ポイントカードはお持ちでしょうか?」

「いえ、持ってないです」

「お作りしましょうか?」

「いえ、結構です」

「かしこまりました。では、本物の偽札12万円分で、42万8000円になります」

僕は耳を疑った。

12万円分が42万8000円って……偽札、高っ! 30万円以上も損する仕組みやん!

「えっ、12万円より高くなるのっておかしくないですか?」

「いえ、当店はこちらが正規の値段となっております」

「だって、偽物ですよね。このお札」

「偽物というか、本物の偽物です」

「はっ?」

「適当に作った偽札なら安くもなりますけど、当店では全ての工程を職人の手作業で行っております。また最後の仕上げは一昨年、重要無形文化財の保持者、つまりは人間国宝に認定された創業者が担当しております。もちろん値段は高くなります。そのかわり質に関しては本物のお札以上に本物っぽく仕上がっていると思っております」

本物のお札以上に本物っぽく仕上がっているとはどういうことだろう?

疑問に感じながら、できれば1万5000円くらいで、12万円を買いたいと思っていた僕は店員さんに交渉してみた。

「もう少し安くなりませんか? 困ってるんです!」

「それならば。少し質は下がってしまうのですが……」

と店員さんは話し出した。

いわく、通常の偽札は12万円分が42万8000円だけど、質を下げれば値段も安くなるということ。

例えば描かれているのが福沢諭吉本人じゃなくて、福沢諭吉のそっくりさんでよければ39万円まで安くなるとのこと。

また、福沢諭吉のそっくりさんに似ている人でよければ35万円。

福沢諭吉の髪型がベリーショートでもよければ29万円。

福沢諭吉の代わりに普通のおっさんが描かれているのでよければ20万円。

福沢諭吉の位置が無人でよければ11万円。

白黒印刷でよければ4万円。

白黒・片面・名刺サイズでよければ1万2000円。

目の前に出された名刺サイズの偽札を眺めながらしばらく悩んだけれど、さすがにこれを買ってもどうしようもないと気がついて何も買わず店を出た。

思いのほか偽札は高いのだ。

(次回11月13日は立川談笑師匠の予定です)

立川吉笑(たてかわ・きっしょう) 本名、人羅真樹(ひとら・まさき)。1984年6月27日生まれ、京都市出身。180cm76kg。京都教育大学教育学部数学科教育専攻中退。2010年11月、立川談笑に入門。12年04月、二ツ目に昇進。出囃子は東京節(パイのパイのパイ)。立川談笑一門会やユーロライブ(東京・渋谷)での落語会のほか、『デザインあ』(NHKEテレ)のコーナー「たぬき師匠」でレギュラーを務めたり、水道橋博士のメルマ旬報で「立川吉笑の『現在落語論』」を連載したり、多彩な才能を発揮する。ホームページは、http://tatekawakisshou.com/

春割ですべての記事が読み放題
有料会員が2カ月無料

有料会員限定
キーワード登録であなたの
重要なニュースを
ハイライト
登録したキーワードに該当する記事が紙面ビューアー上で赤い線に囲まれて表示されている画面例
日経電子版 紙面ビューアー
詳しくはこちら

ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。

セレクション

トレンドウオッチ

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
春割で無料体験するログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
春割で無料体験するログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
春割で無料体験するログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
春割で無料体験するログイン

権限不足のため、フォローできません

ニュースレターを登録すると続きが読めます(無料)

ご登録いただいたメールアドレス宛てにニュースレターの配信と日経電子版のキャンペーン情報などをお送りします(登録後の配信解除も可能です)。これらメール配信の目的に限りメールアドレスを利用します。日経IDなどその他のサービスに自動で登録されることはありません。

ご登録ありがとうございました。

入力いただいたメールアドレスにメールを送付しました。メールのリンクをクリックすると記事全文をお読みいただけます。

登録できませんでした。

エラーが発生し、登録できませんでした。

登録できませんでした。

ニュースレターの登録に失敗しました。ご覧頂いている記事は、対象外になっています。

登録済みです。

入力いただきましたメールアドレスは既に登録済みとなっております。ニュースレターの配信をお待ち下さい。

_

_

_