2016/11/8

大人を磨くホテル術

琉球瓦と三線

星のや竹富島には琉球畳を敷き詰めた客室があり、のんびりした休日を満喫できる(写真提供:星野リゾート)

一方、竹富島に立つ、星のや竹富島。星のやブランドの宿泊施設は、ホテルと旅館の中間ぐらいに位置しますが、ここではあえてホテルの1つとしてご紹介します。

私が同ブランドでこれまでに宿泊したのは、軽井沢、京都、そして竹富島の3つ。いずれもその土地ならではの文化や名産を取り入れ、唯一無二の空間を創り上げるのが、星のやの優れたところですよね。私も星野リゾートの星野佳路代表とは何度か、テレビの報道番組でご一緒しました。当時は、彼が「何とか竹富島に開業したい」と積年の思いから、何度も竹富に通っていた時期。沖縄には琉球王国時代からの誇り高き文化や風土があり、進出に理解を得るまで本当に苦労したそうですが、その甲斐あって、全48室(軒)が琉球古来の石垣や赤い琉球瓦、伝統文化を活かした、懐かしくも美しい空間に仕上がっています。ただ、星のやブランドの最大の強みは、ハード(施設)よりソフト、すなわち特徴あるアクティビティや、「夜」も含めた館内での過ごし方です。星のや竹富島では、夜もラウンジで地元のかたが三線を演奏してくれました。24時間開放されたリゾートタイプのプール(温水)もあって、夜半、月の光を浴びながら屋外で悠々と泳いだ時間は、何物にも代え難い、極上のひとときだった……。

私のみならずアウトドア好きな主人も、このとき、月の光があんなに明るいことを生まれて初めて知ったといいます。同時に、人工的なものに一切邪魔されず「大自然と一体となる」ことの価値を、しみじみ実感したのです。

星のや竹富島には24時間開放されたリゾートタイプのプールがある(同)

突き抜けるような蒼(あお)

そして最後に、百名伽藍。沖縄本島の南東寄り、南城市に位置する極上リゾートで、世界のラグジュアリーホテルが参加する「ワールド・ラグジュアリーホテル・アワード」の「海辺の高級ホテル部門」でも複数回、賞を受賞しています。近くに控えるのは、広いサトウキビ畑や、琉球王朝時代に祭事が行われた「斎場御嶽(せーふぁうたき)」。

外から見ると一見、素朴な白造りの建物ですが、奥へと進むと突如目に飛び込んでくるのは、突き抜けるように果てしなく広がる蒼い蒼い海……。あまりの驚きと美しさに息を呑み、涙が出るかと思ったほどです。

客室数はわずか17室。なかでも海に抜けるように開けた「伽藍スイート(白隠の間)」は、専用テラス付きで115平米(屋内のみ)もあります。ただし料金は、二人で泊まって1泊2食付きで、一人約7万5000円。ホテルフリークの私も、この価格となると、まだ足を踏み込む勇気がありません。

それでも2回、海沿いのテラス席(ダイニングレストラン「甘露」)でのランチを愉しみ、「ちょっとお部屋を見せていただけますか?」と図々しくお願いしてみました。

時々刻々と表情を変える蒼い海の、ザザーンと寄せては返す波音や輝き。その風景を眺めながらのランチも素晴らしいのですが、それ以上に、先の伽藍スイートのお部屋や最上階にある6つの「貸切個室」(方丈庵)は、まさに「感動」のひと言に尽きました。後者はそれぞれに露天風呂があり、「朝は朝日を見に」「夜は星空を眺めに」と、時間帯でお部屋を替え、お風呂に入り分けるお客さまもいらっしゃるそうです。

何にも邪魔されない、海や星空と一体となった露天風呂を、時間帯によって入り分けてゆったり愉しむ。あぁ、なんという大人の贅沢でしょう。

(おわり)

牛窪恵(うしくぼ・めぐみ) マーケティングライター、インフィニティ代表取締役。世代・トレンド評論家。「おひとりさま(マーケット)」「草食系」は、新語・流行語大賞に最終ノミネート。

[日経プレミアシリーズ「大人を磨くホテル術」(日本経済新聞出版社)から抜粋]

大人を磨くホテル術 (日経プレミアシリーズ)

著者 : 高野 登, 牛窪 恵
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 918円 (税込み)