通話安い「だれでもカケホ」 格安SIMの定番になるか
格安SIM最前線
「格安SIMに興味があるけれど、移行に踏み切れない」という人があげる理由の一つが「通話」だ。音声通話が多い場合、せっかく格安SIMにしても大手キャリアより金額が高くなる可能性もある。通話も格安にする「音声通話オプション」も増えているが、格安SIMによって利用できるサービスが異なるなどのハードルがあった。しかし、プラスワン・マーケティングが近日開始予定の「だれでもカケホ」は、他社の格安SIMでも利用できる注目のサービス。音声通話オプションのおさらいをしながら、その内容を確認してみよう。
最大10分間まで無料の「だれでもカケホ」が登場
2016年10月、「FREETEL SIM」で知られるプラスワン・マーケティングは、「だれでもカケホ」という格安SIM向けのサービスを発表した。開始時期は同社によれば「近日中に開始予定」(11月29日時点)。このサービスを利用した場合、月額322円(税込み、以下同)を払えば音声通話の最初の1分間が、月額907円なら5分間が、月額1618円で10分間が、それぞれ無料になる。
無料の時間を超えた場合の通話料は30秒当たり10.8円。これは一般的な格安SIMの通話料(30秒当たり21.6円)の半額だ。
「だれでもカケホ」の最大の特徴は、他社の格安SIMでも利用できることだ(他社の格安SIMを使っている場合は、FREETELのホームページでユーザー登録をして、専用アプリを使って通話する)。同様のサービスを提供する会社はいくつかあるが、他社の格安SIMでも使えるのは、「だれでもカケホ」が初となる。
従量制の通話料が格安SIMの弱み
そもそも格安SIMが「格安」と呼ばれるのは、NTTドコモ、KDDI(au)、ソフトバンクの大手キャリアに比べ、同じデータ容量なら、より安い料金で使えるからだ。例えば、ドコモのスマホで毎月2ギガバイトの通信をする場合の月額料金は7020円。格安SIMなら、その4分の1以下の月額料金で3ギガバイトが使える。
しかし、通話料金を含めると、必ずしも安いとは限らない。大手キャリアでは通話定額プランが一般的だが、格安SIMの通話料は、使えば使うだけ課金される従量制だからだ。
毎月3ギガバイトを1728円で使える一般的な格安SIMの場合、1日4分以上電話をかけると、上述したドコモの月額料金を上回ってしまう。
この格安SIMの弱点を補うため、各社は通話料を安くする「音声通話オプション」を用意している。2016年に入り、新たな通話オプションを導入する格安SIMが増えている。
専用アプリ経由でかければ割引になる「通話料割引」サービス
音声通話オプションは、その内容に応じて、「通話料割引」と「無料通話」に大きく分けられる。
「通話料割引」タイプは、専用アプリを使って電話をかけることで、通常よりも安い通話料で電話をかけられる音声通話オプションだ。通話料は30秒当たり10.8円が一般的で、月額料金はかからない。
このタイプは、サービスを提供する会社の格安SIMでしか使えないものと、ユーザー登録をして専用アプリから発信すれば他社の格安SIMでも使えるものに分けられる。
たとえば楽天コミュニケーションズが提供する「楽天でんわ」は、専用アプリから発信することで、他社の格安SIMからでも30秒当たり10.8円で電話をかけられる。割引後の通話料は、楽天コミュニケーションズから請求される。
一方、IIJの格安SIM「IIJmioモバイルサービス」が提供する「みおふぉんダイアル」も、通話料は30秒当たり10.8円だが、同社の格安SIMでしか利用できない。割引後の通話料は格安SIMの月額料金と一緒に請求される。
一定の通話時間が無料になる「無料通話」タイプは2種類
もう一つの「無料通話」タイプは、毎月決められた料金を払うことで、一定時間の通話が無料になるサービスだ。このサービスも2つに分けられる。「通話ごとに一定時間が無料になる」タイプと「月単位で一定時間が無料になる」タイプだ。
たとえば「楽天モバイル」が楽天でんわユーザー向けに提供する「5分かけ放題オプション」は、前者の「通話ごとに一定時間が無料になる」タイプ。月額918円を払えば、通話の最初の5分間が無料になる。つまり、5分以内に電話を切れば、通話料は発生しない(5分を超えると、楽天でんわと同じ30秒当たり10.8円)。IIJmioモバイルサービスにも、月額896円で5分以内(家族間は30分以内)、月額648円で3分以内(家族間は10分以内)が無料になるサービスがある。
BIGLOBE SIMが提供する「通話パック60」は、後者の「月単位で一定時間が無料になる」タイプ。同社の無料音声通話オプション「BIGLOBEでんわ」(通話料は30秒当たり10円)に追加でき、月額650円を払えば60分の無料通話(1200円分)がついてくる。ケイ・オプティコムの「mineo」にも、月額907円で30分、月額1814円で60分の無料通話分が付くオプションがある(ただし、mineoは通話料割引タイプのオプションを提供していないため、無料通話分を使い切ったあとの通話料は30秒当たり21.6円)。
「通話料割引」 専用アプリを使って電話をかけることで、通常よりも安い通話料で電話をかけられる | サービスを提供する会社の格安SIMでしか使えない | IIJmioモバイルサービス、BIGLOBE SIMなど | |
ユーザー登録をすれば他社の格安SIMでも使える | 楽天でんわなど | ||
「無料通話」 毎月決められた料金を払うことで、一定時間の通話料が無料になる | 「通話ごとに一定時間が無料になる」タイプ | サービスを提供する会社の格安SIMでしか使えない | 楽天モバイル、IIJmioモバイルサービスなど |
ユーザー登録をすれば他社の格安SIMでも使える | 「だれでもカケホ」 | ||
「月単位で一定時間が無料になる」タイプ | サービスを提供する会社の格安SIMでしか使えない | BIGLOBE SIM、mineoなど |
通信会社の垣根を越えた「だれでもカケホ」
これらの音声通話オプションの中で、多くの人にとって使いやすいのは「無料通話」の「通話ごとに一定時間が無料になる」タイプだろう。1回の通話を無料時間内に収めれば月額料金以外の通話料がかからない。
しかし、これまで「通話ごとに一定時間が無料になる」タイプは、オプションを提供する格安SIMでしか使えなかった。同じ楽天コミュニケーションズが提供するサービスでも、「楽天でんわ」は他社の格安SIMでも使えるが、「5分かけ放題オプション」は他社のユーザーは契約できないのだ。
この垣根を取り払ったのが、プラスワン・マーケティングの「だれでもカケホ」だ。
今までは、通話定額タイプの音声通話オプションのために、場合によっては格安SIMごと乗り換える必要さえあったが、「だれでもカケホ」なら、どの格安SIMでも利用できる。通話定額の対象になる時間も1分、5分、10分から選べるので自由度が高い。今後、音声通話オプションの定番になり得る新サービスだ。
MMD研究所が2016年9月に実施した利用動向調査によれば、格安SIMの半数以上を音声通話対応SIMが占めている。格安SIMをメーンに使うユーザーにとって、音声通話オプションの存在はもはや欠かせない。今後、「だれでもカケホ」に追随する格安SIMが出てくるか、またこれまでとは違った新たなサービスが登場するのか。これから格安SIMへの移行を考えている人だけでなく、すでに格安SIMを使っている人も、各社の動向に注目してほしい。
(ライター 松村武宏)
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