人手不足でも求人倍率低い事務職 生き残りのカギは?
"人手不足"が過熱している。総務省は2016年8月、完全失業率が21年ぶりの低水準である3.0%となったことを発表。「日本の労働市場は完全雇用に近い状態になっている」(2016年8月30日付日本経済新聞夕刊)という声も上がる一方、働く女性の多くが「今の仕事をずっと続けられるか」という不安を抱く。このギャップはなぜなのか。
「"人手不足"は、女性が多い事務職については、当てはまらないからです」。こう話すのは、女性の活躍推進や職務格差について詳しい聖心女子大学教授の大槻奈巳さん。
仕事を探す1人の希望者に対し、何件の求人があるかを示す有効求人倍率(16年7月分)を職業別に見てみよう。介護サービスと情報処理・通信技術者は共に2.43倍。一般事務は0.25倍だ。その差は年々開いている(下の図参考)。
「08年のリーマン・ショック以降、多くの企業から事務職正社員が消えています」。厳しい経済環境のなか、生き残りをかけ、製造業の多くが生産拠点を海外に移転。それに伴い、工場の管理部門も国内から流出した。製造業以外でも、事務職を派遣社員に切り替える企業が増えたという。「一度、派遣社員で仕事をまかなった企業が元のように正社員で雇用するとは考えにくいです」
では、事務職として働き続けるにはどうすればいいのか? 大槻さんは2つのアドバイスをしてくれた。1つは現在、正社員なら気軽に転職しないこと。一般事務の有効求人倍率0.25とは、4人の希望者に対して、求人が1件あるという買い手市場だ。「女性は職場に不満があるとすべてをリセットしたいと考えて転職しがち。しかし、一度正社員でなくなると、再び正社員として働くのは難しい時代。まずは社内の別の部署への異動の可能性を探るなどして、状況を改善していく手を考えてほしいです」
例えば、「毎日同じメンバーで女子ランチをしているなら、週2日は上司や他の課の人に声をかけてみては」と大槻さん。最近の社会学で、"新しい仕事に就くきっかけは「弱い紐帯(ちゅうたい)」からもたらされる"という研究結果が出ている。「自ら動いていろいろな人に自分を覚えてもらい、『弱い人脈』を作って」
第二に、スキルの見える化。「会社で自分が何をできるかを分かりやすく説明できるよう、特に非正規雇用で正社員を目指している人は心がけて」。例えば厚生労働省の「ジョブ・カード」を活用するのもひとつ。職歴や職業能力を客観的に整理するツールとして利用できる。「自分のスキルを客観的に把握し、目標を立て、戦略を持ってキャリアを築くことが重要な時代になってきたのです」
大槻さんが語る、事務職として生き残るためのポイント
→ 正社員なら気軽に転職しない
→ "毎日の女子ランチ"をやめる
「別の人を誘いにくいなら、場所を変えたり、1人で食べたりするだけでも何かが変わりますよ」
→ 自分のスキルを見える化する
資格取得はもちろん、ジョブ・カードのなかのモデル評価シートを使うのもおすすめ。
例えば、厚生労働省のモデル評価シート(経理)では…
・財務諸表の種類・内容など、財務諸表の作成に必要な基本的事項を理解している
・期間比較、企業間比較など簡単な財務分析を行っている
・国際会計基準の内容など業務に必要な基本的事項を理解している
など約80項目を3段階でチェック。
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000127397.html
で、さまざまな職種別のシートをダウンロードできる。
聖心女子大学 人間関係学科教授。2001年3月上智大学大学院文学研究科社会学専攻博士後期課程修了、博士(社会学)。02年7月から05年3月まで、独立行政法人国立女性教育会館 研究国際室で研究員を務める。05年4月聖心女子大学文学部人間関係専攻助教授に就任。13年から現職。
(日経ウーマン 岡本藍)
[日経ウーマン 2016年11月号の記事を再構成]
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