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不動産の相続、登記忘れで生じる様々な問題

2016/11/6

相続に伴い、不動産の所有名義を親から子どもなどへ変更する手続きが「相続登記」。相続関連の手続きの中で後回しにされがちだが、放置しておくとさまざまなトラブルの元になりかねない。遺族間での遺産分割協議が進まなかったり、不動産を売りたくても売れないといったケースだ。所有者不明の空き家が増える原因ともなっている。

「相続登記にからむ相談がここ数年目立って増えている」。司法書士の船橋幹男氏はいう。相続登記とは例えば親が亡くなって自宅の土地や建物を引き継いだ場合、法務局に申請して、不動産登記簿上の名義を書き換えておくことをいう。

■法的義務はなし

法的な義務はなく、相続税の申告と違って申請期限もない。すぐに名義を変えないからといって直ちに遺族に不都合が生じるわけではない。手続きの煩雑さもあり、故人の名義のまま放置する例は少なくない。

では名義を変えておかないと将来どんな問題が起きうるのか。司法書士らによると、相続登記を済ませていなかった場合、次のようなケースでもめ事につながりやすい。を参照しながら見ていこう。

50代のAさんは6年前、父を亡くし、遺産をどうするかを家族(法定相続人)みんなで話し合った。高齢の母の面倒をAさんがみる代わり、自宅はAさんが所有して住むこととし、弟や妹も快く応じてくれた。

家族の仲は良く、特に書面にすることはなかった。自宅の持ち主が亡父からAさんに移転したことを形にする相続登記もしなかった。問題が起きたのは弟が最近、妻と子どもを残して急死したのがきっかけだ。

妻は生活の先行きに不安になり、Aさんが住んでいる家の財産価値に興味を抱いた。そして「一部を自分と子どもに分けてほしい」とAさんに要求してきたのだ。

法律上は彼女らの言い分は正しい。夫の死亡に伴い妻子は、Aさんの父の遺産を相続できる立場になったからだ。生前、弟は兄による相続に賛成していたため問題は無かった。亡くなった今はその妻子に法定相続割合に応じて不動産を受け取る権利がある。

Aさんは、弟らの快諾を得たうえで自分が家を相続した事実を妻子に伝え、分けるつもりはないと説得したが後の祭り。弟の妻は権利を取り下げず、これからAさんは自宅の分割について彼女らと協議しなければならなくなっている。

このケースでAさんが仮に相続登記を済ませ、自宅を自分の名義に変えていたら問題は起きなかった。所有権が移転済みであることを登記簿によって証明できたからだ。相続登記を怠ると、「いざというとき所有権が移転したということを他者に主張することができない」(船橋氏)。それほど相続登記は大切になる。

相続登記は申請する際に登録免許税がかかる()。司法書士に依頼すると報酬も必要となる。不動産を購入した場合、その所有権を主張するために必要な移転登記などと違い、重大性を認識しないまま忘れてしまう人は多いようだ。

他にも、親から受け継いだ不動産の名義書き換えを怠ることによって引き起こされる問題は様々だ。

■「相続人が2桁に」

まず、何らかの理由で家を手放す必要が生じたときだ。名義が故人のままだと当然、売却したくても、契約書を作ることさえできない。自宅を担保に融資を受けたいときも同様だ。故人名義で金融機関が金を貸してくれるわけがない。

名義を書き換える手続きでは、遺産分割協議書の添付が必要になる。これは、すべての法定相続人が話し合い、遺産の分け方を決めて形にした文書。全員が署名し、実印を押す必要があり、大変な手間だ。

年月がたてばたつほど親族の範囲が広がり法定相続人の数が増えることはよくある。「相続人が2桁になるのは決して珍しくない」(弁護士の上柳敏郎氏)

そうなれば、面識や交流がない相続人だらけ、という複雑な状況になり、遺産分割協議書を作るのはますます難しい。相続登記の放置は、自分の世代はまだしも、「子や孫の世代に迷惑をかけることを認識すべきだろう」(船橋氏)。

隣近所に迷惑をかけることもある。お隣が土地の境界確定を求めてきたときに、登記名義が故人のままでは直ちに応じられない。

相続登記を巡っては最近、社会問題の原因にもなっている。「親からもらったはずの不動産の名義書き換えを、意図的にしない人が増えている」(司法書士の大貫正男氏)。「古くて資産価値がなくなった家を抱え込みたくない」からだ。

地方や遠方の不動産は「固定資産税や建物管理の負担を避けるため相続を敬遠する例が目立つ」(船橋氏)。何世代にもわたって相続登記が先送りされ、いまでは所有者不明という空き家は数多い。

法務省によると、不動産の相続などに伴う登記件数は年間約100万件。統計上はっきり現れてはいないが、「毎年無視できない数の未了が発生している」(法務省)。政府は憂慮して相続登記の促進に乗り出す方針だが実態の解明は遅れている。

「まず不動産登記簿を洗い出して、相続登記未了と思われる不動産を抽出し、所有名義人の戸籍謄本を調べる」(法務省)など手間のかかる作業が必要だからだ。政府の対策は必要だが、個人も忘れずに相続登記は早めに済ませたい。

(M&I編集長 後藤直久)

[日本経済新聞朝刊2016年11月2日付]

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