20~30代の不妊、脳腫瘍の疑いも 特効薬でほぼ完治
プロラクチンは、脳の下垂体から分泌される乳汁分泌ホルモン。これが妊娠中や授乳中でもないのに血液中に異常に増えるのが、「高プロラクチン血症」だ。女性の場合、排卵が抑えられ、月経不順や無月経、不妊を招く。乳汁が漏れ出ることもある。
胃薬や抗うつ薬、エストロゲン製剤(ピル)などの副作用で起こることもあるが、注意したいのは脳の下垂体にできる良性腫瘍のプロラクチノーマだ。20~30代の女性に多く、不妊原因としても無視できない。
「手術をしなくても、薬で治せる時代になった。妊娠し、腫瘍が消えて完治する患者さんも多い」と東京クリニック内分泌代謝内科の三木伸泰主任部長。特効薬ともいえるのが、「カベルゴリン(商品名カバサール)」だ。もともとパーキンソン病の薬として使われていたが、プロラクチンの分泌を抑制する働きもある。
「旧世代の『ブロモクリプチン(商品名パーロデル)』よりも強力で、ごく少量でもプロラクチンの分泌を抑える。これまで1000人以上を治療してきた経験から、通常量では効かない人が約4割いるが、個々の体質に合わせて薬を適切に増量すると、99%以上に効果が出る。副作用はほとんどない」(三木主任部長)
服用は週に1、2回。個人差はあるが、2~6カ月のみ続けると月経が回復し、数年で腫瘍が消えるという。三木主任部長らの治療で妊娠した人は265人を超え、妊娠率は94%。20年ぶりに月経が回復し、46歳で妊娠した人も。「40歳未満で治療を始めた人は、ほぼ全員妊娠できた。この治療成績は米国内分泌学会が定めた高プロラクチン血症の最新ガイドラインにも引用され、カベルゴリンが治療の主役に認定された」と同科の小野昌美・間脳下垂体疾患部門部長は話す。
一方、無月経の治療でピルを服用し、プロラクチノーマが悪化するという落とし穴も。「エストロゲンはこの腫瘍を増大させる。月経は再開したが、腫瘍が大きくなって頭痛や視力低下が起こる例も。無月経や不妊の人は必ずプロラクチン値を調べて」と小野部長は注意する。
血中濃度は変動しやすいので、血液検査は2、3回受けたい。持続的に高値なら、MRI検査で腫瘍の有無を調べる。内分泌の専門家に診てもらうのが理想的だ。
この人たちに聞きました
東京クリニック(東京都千代田区)内分泌代謝内科主任部長。東京女子医科大学第2内科准教授を経て現職。東京脳神経センター病院でも診療
東京クリニック内分泌代謝内科間脳下垂体疾患部門部長。東京女子医科大学第2内科講師を経て現職
(ライター 佐田節子)
[日経ヘルス2016年12月号の記事を再構成]
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