
行政が発信する文書を読んで感動を覚えたことは、おそらく人生で初めてだろう。10月21日に金融庁のサイトに掲載された、今後の重点施策を示す「金融行政方針」をダウンロードして移動中の機内で読んだ。正直、わくわくした。
まず私の目を引いたのが金融行政方針のトップ項目であった。「金融当局・金融行政運営の変革」。つまり、金融庁が自己変革の宣言をしている。
そこに「形式から実質へ」という方針が示してあった。
「規制の形式的な遵守(ミニマム・スタンダード)のチェックより、実質的に良質な金融サービスの提供(ベスト・プラクティス)に重点を置いたモニタリングが重要ではないか」
お役所の文書で今まで見たことがないような踏み込んだコミットメントにも驚きを感じた。
「金融庁職員一人ひとりが、省益ではなく真の国益を絶えず追求し、困難な課題にも主体的(プロアクティブ)に取り組んでいくことが必要である」
そのため、「人事評価において、『国益』のためにチャレンジし改革する職員が適切に評価されるよう、職員の評価基準を変更する」と公言している。
「そんなこと言われなくても、前から国益のために仕事している」という内部の幹部職員からの反発もあるだろう。しかしながら、一国民として「縦割り行政」の弊害を感じたことが今まではしばしばある。
以前、個人的にお付き合いがある国家公務員にやや意地悪な質問をしました。「これほど優秀な方々が集まっているのに、そこから出てくる政策がパッとしない理由はなぜでしょう」
その方はストレートに答えてくれた。「それは役所の人間の動機付けは、次のポストだからです」
このような状況の中、組織を改革して新しい風を吹き込むことは相当な勇気と行動力が必要だ。しかし、行政方針として公言されている以上、役所の改革派の追い風になると期待したい。
また、金融庁の行政運営の自己変革とともにトップ項目として挙げられていたのが、「活力ある資本市場と安定的な資産形成」を実現するための「家計に対する取組み」であることが意義深い。
家計の金融資産総額の半数以上が現金の状態で眠る現状は、日本人が「心のデフレ」にとらわれている象徴だ。次世代に持続性ある日本社会を残すためには、心のスイッチをオンにして「デフレ」状態から脱却しなければならない。
「少額からの長期・積み立て・分散投資の促進」「投資初心者を主な対象とした実践的な投資教育の促進と情報提供」――。
長期投資、積み立て投資は弊社コモンズ投信の設立理念そのものである。積み立ては「時間軸の分散」する投資である。そして、世界で活躍する優良企業に厳選投資することは、日本国内に限定される成長から「世界へ分散」する投資でもある。
今まで投資と縁がなかった家計が圧倒的に多い中、「長期」「積み立て」「分散」投資の優位性について、しっかりと啓蒙する活動は極めて重要だ。
特に、今まで退職金を目当てに高齢者向けに販売攻勢していた金融機関は考えを改め、日本の現役世代向けに長期投資の機会を提供すべきだ。現役世代は自分の子どもの未来のため、また、自分自身の将来の老後生活のため、さらには投資を通じて優良企業の成長や持続可能な社会の実現に貢献できる。
10月28日を「ジュ・ニ・アの日」としてとらえている弊社は、10月末の週末に「生きるチカラを育む教育」という子ども向けのセミナーを開催した。子どもの教育とこつこつと積み立てる長期投資はある意味、親和性がある。
教育には費用がかかる。しかしながら、多くの親御さんたちは子どもたちに教育費を使うことを惜しまない。子どもの未来のために、必要な出費だと考えているからであろう。
教育とは短期的に成果が出るものではない。こつこつと積み上げていくものだ。それでも、教育には最終的に「成果」が上がるかどうか不確実性が残るが、これを「リスク」があると考える親は少ないであろう。
一方、投資という言葉を聞くと「リスク」とすぐ連想する人々が多いが、実はこつこつと積み上げていく投資には、その過程で色々な気づきや学びもある。教育費を惜しまないように、投資のためにお金を使うことも惜しんではいけないと思うが、いかがであろう。
金融庁の意識変革が家計の行動に変化をもたらし、投資教育が普及するきっかけになればと願っている。