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日本一10年で9回 九州の剣道はなぜ強い? 全国の道場2割が密集 剣道「甲子園」は福岡

2016/11/3

昨年の全日本実業団で優勝した西日本シティ銀行剣道部。土曜の早朝から稽古に熱がこもる

毎年11月3日に日本一の剣士を決める全日本剣道選手権大会は、過去3大会連続で九州出身剣士が頂点を極めている。10年遡っても優勝者延べ9人を九州から輩出している。九州の剣道、強さの秘訣はどこにあるのか。

「メーーンッ!!」。竹刀の交わる音が響き、踏み込みで震える床。4台の大型送風機がフル稼働する道場は、10月にも関わらず熱気に満ちる。

ここは博多駅前にそびえる西日本シティ銀行本店。平日は多くの利用客が訪れる銀行内部に、土曜日は別世界が広がる。同行剣道部は昨年の実業団大会で全国の頂点に立った。平日も銀行員は朝が早いとはいえ、普段はスーツ姿の行員が、土曜の早朝から道着・はかまをまとい、最高潮のテンションで気合をかける。

来年2月完成の「ココロ館」には3試合が同時に行える新剣道場ができる予定。部長を務める高田聖大副頭取は「域外に進学した優秀な人が地元に戻るための受け皿となって剣道部が地域に貢献している」と話す。筆者はこの日、竹刀と防具(とカメラ)を持参して稽古に参加させてもらった。稽古を終えて達成感に浸る筆者を尻目に、部員はこの後、地元の強豪、福岡大学付属大濠高校に稽古に出向いた。

実業団では昨年まで3年連続で、西日本シティ銀と九電工の九州勢が決勝に進出。10月の大学日本一決定戦でも、決勝を戦った大阪体育大学と中央大学の14人のうち、半数が九州の高校出身だった。

九州剣士の力を育む1つの要因が、幼い頃の環境にありそうだ。全日本剣道道場連盟によると、全国の道場数は約2200。その約5分の1が九州にある。九州は「(全国の)1割経済」と言われることを考えれば、剣道場の水準感はその2倍だ。全国の道場数で5位が佐賀県(82)、6位が福岡県(81)。宮崎県のうどん店でも、複数の道場が競って部員募集のポスターを掲げている。

如水館の稽古後、黙想で背筋を伸ばす子どもたち

創立から40年、有力剣士を多数育ててきた福岡如水館では、週に4回、小学生65人、中学生30人が汗を流す。道場の隅では保護者たちも真剣なまなざしで見守る。池田健二館長は「小さい子供は試合になるとぴりっとするもんですよ」とほほ笑む。如水館では年間を通じて月に3回程度、10月は6回も大会に参加。ライバルを見つけ、競う環境が幼い頃から整う。

時代を遡っても九州の剣のルーツをたどることができる。武闘派の武将として熊本藩を治めたのが加藤清正。宮本武蔵も晩年は熊本の霊巌洞にこもって、「五輪書」を著したとされる。一方、五輪書と並ぶ名著「兵法家伝書」を残した柳生宗矩の直門の弟子が佐賀藩鍋島家をはじめ、柳川藩立花家や久留米藩にもいたという。

さらに幕末の歴史を動かした薩摩藩では示現流の剣術が独自に受け継がれた。今も鹿児島の観光名所の仙巌園では立木打ちなど示現流の体験ができる。各流派・藩で、それぞれの剣が発展し、地域の統治や生き方にも影響しながら、後に剣道として1つの道になった。

昨年開かれた世界剣道選手権大会では、日本代表のほぼ半数が九州出身で、見事に男女とも世界一に輝いた。大会で表紙・ポスターを手掛けたのは井上雄彦氏。高校バスケが題材の漫画「スラムダンク」が累計1億部を超えて有名だが、井上氏も鹿児島県出身で剣道の経験者。宮本武蔵が主人公の「バガボンド」も描く。ここにも九州剣道の影響力の強さを感じる。

インターハイの結果を見ても、男子団体の剣道競技は過去10年で九州勢が7回優勝。サッカーの2回、夏の甲子園の1回と比べても突出している。

高校野球では甲子園が決戦の舞台の代名詞。夏の甲子園の歴代優勝回数は大阪府が1位、3位に兵庫県・和歌山県と、憧れの地のお膝元の近畿勢の層が厚いが、剣道でもそれと同じ現象が起きている。剣道に打ち込む高校剣士にとっての甲子園といえるのが、毎年福岡県で開かれる玉竜旗大会だ。

剣道の甲子園とも言われる「玉竜旗」。男女合わせて900校以上が福岡に集結する

当初は福岡県内の大会として始まったが、今や全国から参加できる高校剣士の晴れ舞台となり、今年で100周年を迎えた。47都道府県から予選なしで男女合わせて900校以上が参加し、6日かけてそれぞれの頂点を決める。参加校のトーナメント表が壁1面に張り出される光景は圧巻で、全国の警察や大学のスカウトも目を光らせる。

熊本は4月に大地震に見舞われた。九州学院高校(熊本市)も地震からしばらくは稽古ができない時間が続いた。それでも苦難を乗り越えて、高校剣道界の三大タイトルである3月の全国選抜大会、7月の玉竜旗、8月のインターハイを全て制する「3冠」を3年連続で達成し、高校剣道に新たな歴史を刻んだ。

高校剣道三大大会の優勝校(男子団体)
選抜玉竜旗インターハイ
2016年九州学院九州学院九州学院
15年九州学院九州学院九州学院
14年九州学院九州学院九州学院
13年九州学院福岡大大濠九州学院
12年本庄第一島原(長崎)桐蔭学園
11年――福岡大大濠福岡大大濠
10年安房福岡大大濠安房
09年西陵(長崎)明徳義塾水戸葵陵
08年帝京第五福岡第一日田(大分)
07年九州学院龍谷(佐賀)龍谷

(注)網掛けは九州。11年の選抜は東日本大震災で中止

今年の全日本選手権では同校出身で熊本県警の西村英久選手が連覇に挑む。西村選手は前震の直後に益城に駆けつけ、生き埋めの人の救助に当たった。それから2カ月近くは稽古もできず、剣道に打ち込むべきか迷った時期もあったという。それでも「全国から支援してくれた人への恩返しと、熊本の人を元気づけるために結果を残したい」と決意を新たにする。

プロスポーツと違い、第一線の選手が地域に根ざし、子どもたちも胸を借りられる。そんな豊かな土壌で九州の剣士が育っていく。

(平本信敬)

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