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確固たる企業理念こそ有望銘柄の条件(藤野英人) レオス・キャピタルワークス社長兼最高投資責任者

2016/11/1

「投資先の企業を選ぶときに一番大切にしている視点のひとつは『企業理念』だ。トップが理念を語り、社員に浸透しているかどうかが問われる」

私たちのようにお客様のお金をお預かりして投資を行うファンドマネジャーが、投資先の企業を選ぶときに一番大切にしている視点のひとつがその企業のビジョンやミッションといった「企業理念」です。

今期の業績や四半期業績だけを考えるのであれば、それほど重要なことではないかもしれません。しかし、3年、5年、10年という長い目で見ると、しっかりとした経営理念を持っているかどうか、そしてそれを社員全体で共有しているかどうかということが、業績にかなり大きく影響します。そこで私たちは長期投資の対象となる有望銘柄を選ぶ際にはまず、経営陣の言葉や態度をチェックしています。

以前、ワコールの社長と面談したときの話です。1時間半の面談の中で社長の口から何度も出てきた言葉があります。それは「女性を美しくする」という言葉です。何度も出てくるので途中から数え始めたのですが、1時間半のミーティングで20回ぐらい出ていました。

ワコールには「女性を美しくする」というミッションがあり、そのために女性の下着を扱っているのです。社長は海外進出の話をする際にも、「これから私たちは世界に出ていきます。なぜなら世界には市場があるからです」とはいいません。「私たちは日本の女性を美しくするだけではなく、世界の女性を美しくしたい」と話していました。

それは「きれいごとだ」といわれるかもしれません。でも社長がそのきれいごとを捨ててしまうと、会社はどんどんダメになってしまうでしょう。自分たちが何をしたいか、何をすべきかをトップ自身が語っていく。その点でワコールはとてもまじめな会社だと思いました。

また、企業理念の重要性を語るときにいつも思い出す企業が、衣料品通販サイト「ZOZOTOWN(ゾゾタウン)」を運営するスタートトゥデイです。業績好調の背景には、確固たる企業理念の存在があります。

同社の受付には、変わったものが飾られています。Tシャツが5枚、並べられているのです。そして、その背中には「N」「O」「W」「A」「R」の文字が描かれています。これには経営理念と深いつながりがあるのです。

社長の前沢友作氏は、もともとはアーティストでした。平和主義者でもあった彼は、株式上場のセレモニーの際に、いきなり缶のスプレーを出して、白いTシャツを着た社員の背中をキャンバスに見立てて、絵のように「NO WAR」と描いたのです。

スタートトゥデイの企業理念は「世界中をカッコよく、世界中を笑顔に」です。「世界中の人がファッションを通じてカッコよくなる手伝いをすることで、世界中が幸せで平和になれることを目指す」という意味です。世界平和という壮大なビジョンを「できるはずない」と思わず、「まじめに実践していこう」という表明がこのTシャツのパフォーマンスだったのです。

その企業理念は、社員にもしっかりと浸透していました。私がそれを感じたのは、来訪時の「あいさつ」です。スタートトゥデイを訪問すると、社員の方々はみな気持ちよく声をかけてくださいます。それはまったく「言わされている感」がありません。背景にあるのが企業理念でした。つまり、社員の行動もすべて「カッコいいかどうか」が基準になっているのだそうです。

例えば、あなたが遅刻したとします。一般的な会社だったら「就業規則は守らないといけない」と叱られるでしょう。しかし、スタートトゥデイの場合は、「遅刻はあなたにとってカッコいいことですか?」と聞かれるのです。規則を守らないことを叱られるよりも、よっぽど若い人の心に響くような気がしませんか。あいさつも「元気にあいさつしたほうがカッコいい」と各自が考えているための行動でしょう。

「カッコいいかどうか」はシンプルですが、非常に本質的な問いといえます。あいさつや遅刻といったことでなく、社員はビジネス全般において常に「カッコいいか」を考えながら働いています。そうすると、「自分たちだけがもうかりさえすればいい」という仕事の仕方はカッコ悪いわけです。スタートトゥデイは、自社だけでなくお客さまや取引先、周りの幸せについて目を向けながら働いてきた結果、事業も圧倒的なポジションを確立することができたのではないかと考えています。

企業理念をトップが熱く語ることに加え、それが社員にもちゃんと浸透しているかどうかはとても大事なポイントです。

ちなみに、冒頭で述べたワコールは、実は私の母が長年勤めていた会社です。40年以上販売員をしていて、営業成績では常にトップクラス、何度も表彰されていました。

母は毎日ブラジャーを売ることに全力投球していました。家でもブラジャーの話ばかりしていたので思春期だったころの私はそれがちょっと嫌だったこともあるのですが、今振り返ってみると、彼女は自分自身の仕事に誇りを持っていました。「女性を美しくしたい」という企業理念のもと、自分自身のスキルを徹底的に磨いていたように思うのです。その姿は、とても楽しそうでした。販売が上手だということで、還暦を過ぎてもしばらく嘱託で働いていました。日本で最もブラジャーを売った女性のひとりだといえるかもしれません。

企業理念はその会社のホームページ、有価証券報告書、会社案内を見るとたいてい書いています。その理念をどれだけトップが自分の言葉で語っているか、そして社員にどのくらい浸透して、どのように実行されているのか。個人投資家の皆さんも、ぜひ注目してみてください。

プロのポートフォリオは運用に精通したプロが独自の視点で個人投資家に語りかけるコラムです。原則火曜日掲載で、レオス・キャピタルワークス社長兼最高投資責任者(CIO)の藤野英人氏と楽天証券経済研究所所長兼チーフ・ストラテジストの窪田真之氏が交代で執筆します。
藤野 英人(ふじの・ひでと) レオス・キャピタルワークス社長兼最高投資責任者(CIO)。1966年生まれ。早稲田大学法学部卒。90年野村投資顧問(現野村アセットマネジメント)に入社。96年ジャーディンフレミング投資顧問(現JPモルガン・アセット・マネジメント)に入社。「JF中小型オープン」は1年間の上昇率219%を記録。驚異的なパフォーマンスを上げ、「カリスマファンドマネジャー」と呼ばれた。2000年ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントに入社。03年レオス・キャピタルワークス創業。CIOに就任。09年取締役、15年10月社長就任。明治大学非常勤講師なども務める。著書に「投資家が『お金』よりも大切にしていること」(星海社)など多数。

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