映画『ぼくのおじさん』 松田龍平が新境地開く
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兄夫婦の家に居候し、おいやめいの面倒を見るわけでもなく、へりくつを並べるのが得意な"おじさん"。大学に臨時講師として勤める哲学者を自称しているけれど、いつもゴロゴロしてばかりのこのおじさんに突然舞い降りた恋物語をユーモラスに描いた映画「ぼくのおじさん」。
芥川賞作家、北杜夫さんの同名小説を映画化した本作で、おじさん役を好演している松田龍平さんは、これまでとは違った魅力を披露しています。そんな松田さんと、おじさんの恋のライバル役を演じている戸次重幸さんに、映画について語っていただきました。お二人の楽しい対談をお楽しみください。
1983年5月9日生まれ、東京都出身。1999年、映画「御法度」でデビュー。同作で日本アカデミー賞、ブルーリボン賞をはじめとする新人賞を受賞。2013年の「舟を編む」で日本アカデミー賞最優秀主演男優賞ほか報知映画賞、日刊スポーツ映画大賞、キネマ旬報ベスト・テンを受賞。主な出演作に、映画「青い春」「まほろ駅前多田便利軒」シリーズ「北のカナリアたち」「探偵はBARにいる」シリーズ「ザ・レイド -GOKUDO-」「ジヌよさらば ~かむろば村へ~」「モヒカン、故郷に帰る」「殿、利息でござる!」、TVドラマ「あまちゃん」「営業部長 吉良奈津子」などがある。
1973年11月7日生まれ、北海道出身。大学での演劇研究会で大泉洋、安田顕らと出会い、北海道を中心に全国で幅広く活動を続けている演劇ユニット「TEAM NACS」を結成。TVドラマ・舞台・映画・バラエティーと多方面で活躍中。2014年の一人舞台「ONE」は即日完売し、「ONE」を題した初小説+戯曲も発売5日で重版となり話題を呼ぶ。主な出演作に、映画「チームバチスタFINAL ケルベロスの肖像」「エイプリルフールズ」「ホコリと幻想」「永い言い訳」、TVドラマ「33分探偵」「昼のセント酒」「メディカルチーム レディ・ダ・ヴィンチの診断」などがある。
――映画「ぼくのおじさん」の設定は現代ですが、1972年に発刊された北杜夫さんの小説の言い回しがそのままセリフになっているようで、とても楽しめました。松田さんは、おじさんやおいの雪男君の昔っぽい話し方をどう思いましたか?
松田 「独特な言い回しですよね(笑)。クセのある話し方が面白いと思いました。おじさんは、とにかくインテリぶったへりくつばっかり言っていますが、雪男の心の声によって広がりを見せるキャラクターなんですよね。雪男がちゃんとおじさんを見抜いてくれているから、深みが出てくるし、彼らの関係性も見えてくると思いました」
――おじさんがよく「ワオ」と言うのが面白かったです(笑)。
松田 「あれは原作にはないですよね。山下(敦弘)監督とプロデューサーの須藤泰司さん("春山ユキオ"というペンネームで脚本も担当)さんが『ワオ』を台本に入れてくれました」
――戸次さんが演じている青木さんは有名和菓子店の若社長ですが、おじさんと違って昔っぽい話し方ではないですし、どちらかと言うと現代的な男性ですよね。戸次さんは、どんな人物だととらえて演じられましたか?
戸次 「クランクインの前に監督と人物像について話し合ったところ、『青木は"いいヤツ"ってことでいいですね』と(笑)。腹に一物もなく、竹を割ったようないいヤツ。下手に色気を出したら、青木という人物が伝わらなくなるから、ストレートにやらせていただきました」
――おじさんと青木さんは、真木よう子さんが演じるエリーさんをめぐって恋敵になりますが、撮影現場でのお二人の関係はどのような感じでしたか?
戸次 「僕は松田さんと目を合わせないようにしていました」
松田 「そうだったんだ……」
戸次 「ウソですよ(笑)」
松田 「ウソか(笑)。日本での撮影は1日しかご一緒しないまま、ハワイのロケに行ったんですよね」
戸次 「ほぼストーリーに合わせた順撮りだったので、おじさんと青木の関係は演じやすかったです」
松田 「おじさんはエリーにほれられていると思っているけど、僕自身は『おじさん空回りしちゃって大丈夫か?』と胸が痛い思いだったので、戸次さんが演じる爽やかな青木が現れて、とどめを刺された気分でした(笑)。どうにかいい勝負ができるところまで持っていきたい、おじさんの本気度を見せたいと思ったことを覚えています」
――戸次さんは、近くにおじさんのような人がいたら仲良くなれると思いますか?
戸次 「いや、自分のテリトリーに入ってこないように、絶対に距離を取ります(笑)。みなさん、そうしますよね?」
――確かに(笑)。いろいろ困ったところのあるおじさんですが、私は松田さんが演じるおじさんが大好きなので、ぜひシリーズ化してほしいです!
松田 「原作ファンにどのように受け入れられるか不安でしたが、気に入っていただけて良かったです(笑)」
2016年11月3日公開 (C) 1972 北杜夫/新潮社 (C) 2016「ぼくのおじさん」製作委員会
配給:東映 公式サイト:http://www.bokuno-ojisan.jp/
「もらとりあむタマ子」「味園ユニバース」の山下敦弘監督による、困った大人だけどどこか憎めない"おじさん"(松田龍平)と、しっかり者のおい・雪男(大西利空)の凸凹コンビが織りなすハートフルな冒険物語。
雪男は「自分のまわりにいる大人について」というテーマの作文の宿題で、公務員の父(宮藤官九郎)や専業主婦の母(寺島しのぶ)では面白いものが書けそうになく、居候しているおじさんについて書くことに。
ある日、ハワイの日系4世で絶世の美女エリー(真木よう子)とお見合いをしたおじさんは、彼女に一目ぼれします。ところが、エリーは祖母が経営するコーヒー農園を継ぐためにハワイへ帰ってしまいます。その後、ある幸運なきっかけから雪男とハワイへ行けることになったおじさん。エリーと再会するも、和菓子屋の御曹司・青木(戸次重幸)が彼女の前に現れて……。
果たして、おじさんの恋の行方は? 失敗ばかりのおじさんと、彼を見守る小学生の雪男のコンビがとてもキュート。松田さんが新境地を開いた本作は、見るときっと幸せな気分になれます。
(ライター 清水久美子)
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