眠るときだけのコンタクト 朝起きたらメガネ要らずに

日経トレンディ

オルソケラトロジー療法とは、特殊なカーブを持つレンズを就寝時に装着し、角膜の形状を矯正。レンズを外しても一定時間ピントが合った状態になる
オルソケラトロジー療法とは、特殊なカーブを持つレンズを就寝時に装着し、角膜の形状を矯正。レンズを外しても一定時間ピントが合った状態になる
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日経トレンディがスタートアップ商品大賞に選んだ製品の中から健康&食部門の大賞となったオルソケラトロジーレンズを紹介する。

眼鏡やコンタクトレンズの煩わしさから解放され、裸眼で過ごしたい──。

視力が弱い人のそんな切実な願いをかなえるには、たとえ安全性に不安があってもレーザーで角膜を削るレーシック手術に頼るしかなかった。この状況を大きく変えそうなのが、ユニバーサルビューが全国250以上の眼科医院を通じて展開する「オルソケラトロジーレンズ」(商品名はブレスオーコレクト)だ。

夜に装着して寝るだけで、日中はレンズを外してスポーツを楽しむなど、「夢の裸眼生活」を送れる。ハードレンズの内側に4つの特殊なカーブがあり、角膜上皮を僅か0.05mmの範囲で平らに矯正することで、近視でズレていたピントを正常化する。就寝中に寝グセのように角膜に型が付き、翌朝レンズを外しても維持されるというわけだ。装用をやめると数日で視力は元に戻るが、同社の臨床試験では、視力0.06から0.4の患者のうち、実に9割が視力1.0程度に改善しているという。


実は、この仕組み自体は米国で1960年代から研究されている。それが米国で商品化され始めた2000年頃、いち早く目を付けたのが、眼科医院の臨床技師だった見川素脩氏(現ユニバーサルビューCTO)だ。同氏は01年に同社を創業。日本人は欧米人に比べてフラットな角膜形状であることに注目し、03年から日本人向けレンズの開発に着手した。夜に長時間着けるため、酸素透過性が高く、折り曲げても割れない安全性を兼ね備える東レの素材を採用。臨床試験を重ね、医療機器として厚生労働省の承認を12年に受けた。

東レのレンズ素材を活用。折り曲げても割れず、一般のハードコンタクトレンズの1.5倍という高い酸素透過性を誇るのが特徴
鈴木太郎社長。三菱商事出身で01年に退職後、医療機器の輸入販売会社を設立。06年に見川素脩CTOに出会い、同社の経営に参画し、資金調達などに奔走してきた

ブレスオーコレクトは現在、「販売数が前年比150%以上の伸び」(同社の鈴木太郎社長)と急成長中。なかでも、使用者の約7割を占めるのが、レーシック手術を受けられない18歳以下の若年層だ。スマートフォンなどの普及で目を酷使することが多くなり、未成年の視力は低下傾向。16年の調査では視力1.0未満の小学生が初めて30%を超え、中高生に至っては半数以上が該当する状況で、ニーズは増すばかりだ。

もともと、角膜が柔らかい子供とオルソケラトロジーレンズとの相性は良い。さらに近年は、子供の近視が進むのを遅らせる効果が多数報告されている。「年内にも、日本眼科学会で近視抑制効果のガイドラインが策定される見込み」(鈴木氏)で、処方する眼科医が急増することは確実だ。ブレスオーコレクトは自由診療のため、費用は15万~20万円(耐用年数は3年)かかるが、年間6万円程度の1日使い捨てコンタクトレンズと同レベル。メガネっ子だった我が子の日常生活を、劇的に快適化する切り札になりそうだ。

さらに次に同社が狙うのは、周囲の目を気にしながらも老眼鏡に頼るしかなかった40代以上の需要。近視、遠視、乱視に加え老眼にも対応する、世界初の「ピンホールコンタクトレンズ」の開発が進行中だ。これは、度数が入っていないソフトレンズに瞳孔と同等の大きさの黒円を配置し、中央に小さな穴をデザインした独特なレンズ。目に取り込む光を細くすることで焦点深度を深くし、近くから遠くまで見えやすくなる「ピンホール効果」を狙ったものだ。

目に入る光束を細くすることでピントが合う範囲が広くなるのが、ピンホール効果。度数がないレンズでも近くから遠くまで見えやすくなる
1日使い捨てタイプを想定したピンホールコンタクトレンズの試作品。小さな穴がある独特なデザインで、1サイズ展開の予定

単純に中央に小さな穴を設けるだけでは視界が暗くなってしまうが、同社は中央の穴の周囲にさらに細かな穴を入れることで裸眼並みの明るさを確保。臨床試験はこれからだが、「視力0.1の人が1.0になる水準を目指して開発している」(鈴木氏)という。18年の発売を予定しており、老眼に悩む中高年に加え、1サイズで誰でも使えるので災害時の備蓄ニーズも捉えるだろう。度数なしで、1つのデザインを使って多くの人に対応できるため、生産効率が高い。画期的な商品ながら、通常の使い捨てコンタクトレンズと同等か、少し高い程度の価格で発売されそうだ。

(日経トレンディ編集部)

[日経トレンディ2016年11月号の記事を再構成]