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「セクハラCM」炎上中 価値観の多様化見逃す

2016/10/30

 女性へのセクハラと捉えられ、インターネットで「炎上」するCMや動画が相次いでいる。発信元は大企業や自治体だ。なぜこうしたことが繰り返されるのだろうか。

 「誕生日おめでとう!」「今日からあんたは女の子じゃない!」「もうチヤホヤされないし、ほめてもくれない」。25歳の誕生日を迎えた女性が女友達2人から、ケーキを前にこうたたみかけられる。資生堂が9月下旬に公開した化粧品ブランド「インテグレート」のテレビCMは、こんな内容だった。

 放送後、ネットで「25歳で未婚だと売れ残ったクリスマスケーキと言われた時代のよう」などの批判が起きた。続編も炎上し、資生堂は10月7日に放送を中止した。「大人の女性になる試行錯誤を応援するという意図が伝わらなかった」(同社)と説明する。

■数日で動画削除

 その少し前の9月21日。鹿児島県志布志市は、ふるさと納税のPR動画をネットで公開した。スクール水着の女性が「養って」と訴える。水着でフラフープを回すシーンなどを挟みながら、最後は少女がウナギだったと明かされる。特産品の養殖ウナギと少女を重ね合わせ「ウナギを大切に育てていることを伝えたかった」(市の担当者)という。しかし「女性蔑視」などの批判が殺到し、市は9月26日に動画を削除した。

 女性に関する表現を巡り、ネットで批判が殺到する「炎上」現象が増えている。動画だけではない。2014~15年には、地方自治体などが胸を強調した女性キャラクターを起用して相次ぎ炎上した。厚生労働省が公開した漫画は、年金を維持するため「子どもを産もう」と受けとれる内容に批判が集まった。

 一連の内容には2つの要因があると、東京大学の瀬地山角教授(ジェンダー論)は分析する。1つは容姿や年齢など「性」の極端な強調だ。「ウナギ動画は明らかに男性の性的な欲望を映している。女性がどう感じるか考慮されていない」とみる。もう一つは性別分業の意識だという。

 何をセクハラと感じるかは人によって異なる。ただ、男女共同参画社会基本法には「性別による固定的な役割分担にとらわれない」との理念がある。国や自治体が「女性は養われ、子を産む存在」というような性別分業を想像させる表現をするのは「完全にアウト」(瀬地山教授)だ。

■奇抜さ偏重

 資生堂のような女性向け商品を扱う企業でもCMが炎上した背景には、マーケティングの落とし穴が垣間見える。資生堂は事前の調査で「新商品の対象となる25歳前後の女性から共感を得られた」(同社)という。しかしテレビで幅広い年齢層が見たときの社会の受け止め方とはズレがあった。価値観の多様化を捉えきれていない構図が浮かぶ。

 広告媒体の変化も影響する。CM総合研究所の関根心太郎社長は「近年増えているネット広告は、きわどい表現になりやすい」と話す。

 「情報はあふれている。少しでも訴求力がある内容にしないと、と大手広告会社から提案された」。ネット動画が炎上した企業の担当者はこう明かす。社内では制作段階から表現に反対意見があったが広告会社から「インパクトがなくなる」と言われ、抜本的な修正をしないまま配信したところ炎上した。「その後の影響を考えると、つまらないといわれても止めればよかった」と担当者は肩を落とす。

 早稲田大学の谷口真美教授(経営学)は「日本の企業は、奇抜な広告で目を引くことを重視しすぎる。欧米の大企業はもっと長期的なイメージ向上を重視している」と指摘する。海外では、性別や年齢、人種、障害などを考慮した「インクルージョン・マーケティング」が浸透し、広告を見て様々な立場の人がどう感じるかを調べるのに多額の費用をかけるという。

■「市民が表現規制」

 ネット社会は鋭敏さを増している。炎上について研究する国際大学の山口真一講師(計量経済学)は「スマートフォンやツイッターの普及で11年以降、炎上が急増している」と分析する。不快に思えば誰でもすぐ意見を発信でき、共感を呼べば一気に企業などへの社会的な制裁につながる。「表現の規制を市民が担うようになった」と山口講師は話す。

 炎上が必ずしも「社会的正義」とは限らない。表現の自由もある。ただ、セクハラについては同じ構図の炎上を繰り返している。15年にはルミネがネット配信した、女性を「単なる仕事仲間」と「職場の華」に分ける内容の動画が炎上した。同社は制作意図などは「一切答えられない」という。山口講師は「炎上するとコンテンツを取り下げて終わりになってしまう。何が問題なのか社会的な理解が深まっていない」とみる。

 今や、コンテンツはネットを通じて世界に発信される。たとえ日本で受け入れられても、世界はセクハラに厳しい目を注いでいる。日本にまず必要なのは、女性が見たらどう感じるか考えること。それはそれほど難しいことではないはずだ。

■山口真一国際大講師に聞く

 インターネットの「炎上」について詳しい国際大学の山口真一講師に話を聞いた。

国際大学の山口真一講師

 ――セクハラを巡る一連の炎上をどう捉えていますか。

 「私は基本的に炎上に否定的な立場だが、大企業や自治体は発信する内容について重い責任を求められていることを認識すべきだ。女性の美しさの表現を巡っては、不快に思う人は昔からいたと思うが、それが今はツイッターやスマートフォンの普及で届くようになった」

 ――炎上には良い側面と悪い側面があるように思えます。

 「良い側面は、弱者の声が社会に届きやすくなること。最近でいえば『PCデポ事件』がある。これはパソコン専門店が、サポートサービスで高額な解約料を設定していたことにネットで批判が広がった。結果として料金体系が見直された。これまで泣き寝入りしていた消費者が企業に制裁を加えられるようになったし、企業も『こういうことをしてはけない』と考えるようになる」

 「悪い側面は、ミクロとマクロの視点がある。ミクロの視点の問題は、個人攻撃になった場合、その人の人生に多大な影響を与えてしまうことだ。マクロの視点の問題は、炎上を恐れるあまり、ネット上の情報発信や議論が萎縮してしまうことだ。例えば集団的自衛権など重要なテーマであればあるほどネット上で議論ができなくなってしまう」

 ――表現の自由が脅かされるということですか。

 「大衆による表現の規制は厳しい。インターネットでは少数派の過激な意見がものすごいパワーを持ってしまう。とがった表現をすると、必ず不快に思う人はいる。それをすべて規制すると、多様性が失われ長期的には企業や個人が競争力を失っていく。経済にも負の効果を与えることになる。ただし、明らかな性差別やセクハラについては話が違う。過去の事例から学び、社会が変わっていく必要がある」

 ――炎上を避けるため企業ができることはありますか。

 「まず炎上しやすい話題を知っておくこと。性別、宗教、政治、格差などの話題は炎上しやすい。SNS(交流サイト)を使う上でのルールや、ユーザーの特性も知っておいた方がいい。また企業がSNSを活用する場合には、複数人でチェックできる体制が必要だ。1人で情報発信を担うと、ふとした瞬間に暴走してしまうことがある。ガイドラインの作成や、非正規社員を含めた幅広い教育も重要だ」

 ――炎上したときの企業の対処方法は。

 「すぐ反応したり、反論したりする必要はない。ツイッターでどれだけつぶやかれても企業には何の影響もない。事実関係を社内で確認しておくくらいでよいだろう。しかし、ツイッターの話題がネットの『まとめサイト』に掲載されると炎上になる。さらにそこからマスメディアが取り上げると大炎上になる。そうなると発信した情報を削除するなどの対処が必要だ。たとえ会社側に過失が無かったとしても、消費者を攻撃することは避けた方がいい。事実関係をきちんと伝えることが大切だ」

(福山絵里子)

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