預貯金や投資信託などで運用して老後資金をつくる個人型確定拠出年金(DC、愛称iDeCo=イデコ)。掛け金を出すと税金が還付されるなど強力な税制優遇がある。法改正で来年1月からは対象者が現役世代全体に大きく拡大するため、急速に関心が高まっている。梅田蔦屋書店(大阪市)がイデコ関連の著作を刊行した著者5人を招いて24日、大阪市内でライブセミナーを開催、記者(田村正之)もパネリストの一人として参加した。
会場は同店のラウンジ。30~40代を中心とした男女で80席が満員状態だった。モデレーターは経済コラムニストの大江英樹氏、パネリストは社会保険労務士の井戸美枝氏、ファイナンシャルジャーナリストの竹川美奈子氏、田村正之、経済評論家の山崎元氏(五十音順)の4人。主な内容を抜粋して紹介する。
制度変更の意義「自助年金の時代の柱に」
大江:「今回の制度変更の意義をどう考え、どのように使っていくべきか」
井戸:「公的年金は財政難で実質的に減っていく。それを自助努力で補完する太い柱をつくっておくということだ。もう一つはライフスタイルの多様化に対応したこと。今は主婦や企業年金のある会社員、公務員はイデコの対象外だ。イデコをいったん始めても、これらの立場に変われば加入者からはずれざるを得なかった。来年からは現役世代の全員が原則対象になるので、女性が主婦になっても、あるいはその後、再び働き始めて企業年金のある会社員や公務員になっても、ずっとイデコを続けられるようになる」
竹川:「まずは自分がどんな公的年金、企業年金に入っているのか意外に知らない人が多いので、しっかり確認したい。それによりイデコの毎月の加入対象額も変わってくる。例えば企業年金のない会社員なら月2万3000円だが、確定給付型の企業年金だけがある会社員なら月1万2000円という具合だ。それだけでなく、受給時に退職所得控除などの税制優遇枠のうちどれくらいをイデコ分として使えるかも、自分の属している年金の仕組みで変わってくる」
山崎:「今回の法改正にはイデコだけでなく、対象商品の見直しなど企業型DCの改善も盛り込まれている。企業型DCでは、財務部門が金融機関に取り込まれ、資産形成に不利な商品がたくさん並んでいるケースも多い。自社の企業型DCの運用商品が適正かどうかも、この機会に考えるべきだ」
運用のポイント「資産全体で考え、期待リターンの高い株式をイデコで運用」
大江:「イデコで運用するポイントは」
竹川:「月1万~2万円掛け金を出すイデコの中だけで資産配分を考えても意味がない。少額投資非課税制度(NISA)や課税口座を含めて全体を考えた上で、イデコにはどの資産を使うかを考えるべきだ。税制優遇の大きいイデコやNISAには期待リターンの大きい株で運用する投信を優先的に割り当てる方が、税制優遇を大きく受けられるので合理的だ」
山崎:「リスク資産について、例えば外国株6対日本株4という比率が考えられる。日本株でコストが最も低いのは上場投資信託(ETF)だが、イデコはETFは対象外なので、日本株のETFはNISAを使う。するとイデコは外国株の低コストのインデックス(指数)連動型投信という割り当てになる。このように全体を設計してどこに最適なものを割り振るかと考えると、イデコの中に入ってくる資産はおのずと決まってくる。投資経験や年齢で運用内容を変えるべきという人もいるが、間違いであり、論理的に考えることが大事だ。ちなみにDCの枠の外で運用すべき無リスク資産に関しては、個人向け国債変動金利型10年の商品力が圧倒的に強い。最低利回りは0.05%で預貯金より高いし、今後金利が上がれば利回りも上昇していく」
大江:「私はイデコは(外国株の中でも期待リターンが大きいとされる)新興国株の投信を100%にしている。金融機関によっては、若い時期はリスクをとりやすいということで株式の比率が高く、年齢が上がるにつれて債券を自動的に増やすターゲット・デート・ファンド(TDF)という商品を用意しているところがある。しかしどれだけリスクをとれるかは年齢だけでは決まらない。あれは大きなお世話だ(笑)」
金融機関選びと金融商品は「低コストの指数連動型主体で」
大江:「金融機関選びのポイントは」
井戸:「まず商品、次に口座管理費用、サービスの順番で慎重に選ぶべきだ。商品についていうと、ラインアップされている投信の保有コスト(信託報酬)は大きく違うし口座管理費用も何倍もの差がある」
田村:「商品選びについては、長期運用になるので低コストのインデックス型投信が主要資産の中にきちんと用意されているかが重要。その意味で法改正前の金融機関は玉石混交で、しかも割高な投信しかない“石”が大半だった。しかし法改正後、割安な信託報酬の商品に切り替える大手金融機関が予想外に多く出てきた。イデコが注目され始め、投資家に不利な商品ばかりのままだとイメージが悪いので直したのかもしれない。法改正に伴う関心の高まりが“日光消毒”のような役割を果たしつつあるのではないか(笑)。金融機関選びに関しては確定拠出年金教育協会のサイト『iDeCoナビ』が比較するのに便利だ」
山崎:「そうはいってもかなり割高なアクティブ投信など、まだ地雷のような商品も多く残っている(笑)。注意して選ばないと」
大江:「昔からやっている金融機関ほど、昔ながらの高い信託報酬の商品、つまり地雷が残っていることがある。商品の除外ルールが厳しくなかなか除外できないことも一因だ」
受給方法の注意点「意外に税金がかかる場合も」
竹川:「イデコは受給時にも一時金なら退職所得控除、年金なら公的年金等控除という非課税枠がある。しかしその枠は企業の退職金や公的年金などと基本的には共通。退職金や公的年金が多いと、イデコの受給額については非課税枠をはみ出し、税金がかかることがあることは十分知られていない」
井戸:「例えば公務員は退職金や年金がそこそこ高いので、イデコの受給時にある程度課税される可能性がある。どんなもらい方をすれば税制上有利なのか、総合的に考えないといけない」
田村:「逆に言えば、退職金や年金が少ないことが多い中小企業の従業員や自営業者は、退職所得控除や公的年金等控除の枠がかなり余り、イデコは最後まで非課税になりやすい。イデコはそういう人たちに特に有効だし、必要性も高い。老後資金格差を埋める手段として積極的に活用すべきだ」
<終わりに>
ライブセミナーは計2時間。今回の5人はお互いに旧知で普段から親しいこともあり、終始笑いが絶えないなごやかな雰囲気で進行した。時間ぎりぎりまで会場からの質問が途切れず、イデコに対する関心が非常に高まっていることを強く感じた。
■大江英樹(経済コラムニスト)
野村証券時代に確定拠出年金部長もつとめたDC制度のプロ。著書は「はじめての確定拠出年金投資」(東洋経済新報社)
■井戸美枝(社会保険労務士)
厚生労働省社会保障審議会企業年金部会でDC法改正にもかかわった。著書は「ズボラな人のための確定拠出年金入門」(プレジデント社)
■竹川美奈子(ファイナンシャルジャーナリスト)
投資信託に特に詳しい。早い時期から個人型DCの重要性について積極的に発言。著書は「一番やさしい! 一番くわしい! 個人型確定拠出年金iDeCo(イデコ)活用入門」(ダイヤモンド社)
■田村正之(日本経済新聞社編集委員)
著書は「はじめての確定拠出年金」(日本経済新聞出版社)
■山崎元(経済評論家)
資産運用のプロとして個人に正しい運用法の啓蒙を続ける。金融機関への辛口コメントでも有名。著書は「確定拠出年金の教科書」(日本実業出版社)