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立川談笑、らくご「虎の穴」

目指せ、ゲーム機でわらしべ長者 立川笑二

2016/10/30

PIXTA

師匠と兄弟子の吉笑とともに連載しているまくら投げ企画、13周目。今回の師匠からのお題は「高い買い物」。

私は落語家になる前、高校を卒業してからの1年間は大阪のよしもとクリエイティブ・エージェンシーの養成所、New Star Creation(略してNSC)に通っていた。

NSCには夏休みもあったのだが、この夏休み中に、ある講師の方から自由研究の宿題が出された。

「なんでもいいから面白い研究をしてきて、夏休み明けの授業で発表しろ」

というものだ。

私は夏休み明けの直前まで何をしてよいのか決められないでいたが、同期の友達に聞いてみると、ほとんどの人たちは何をやるか決めていた。

お百度参りを済ませてきて、授業で発表するときにその場でスクラッチの宝くじを削るという者(結果、10枚すべてはずれ)。

大阪で有名なナンパスポットである戎橋(通称ひっかけ橋)で100人の女性に対し、唐突に土下座して「“お付き合い”してください」と頼んでみたら何人が受け入れてくれるのか調べた者(結果、3人!)。

授業で発表するときに、ウンコ味のカレーとカレー味のウンコをその場で実際に作り、食べてみるという強者までいた(結果、パンツをおろした時点で教室から強制退場)。

私はギリギリまで悩みに悩んだ挙げ句、ふとした思い付きから、わらしべ長者を実際にやってみることにした。

わらしべ長者とは、貧しい暮らしをしている男がわらしべから物々交換をしていき最終的には大金持ちになるというおとぎ話だ。

これを現代でガチンコでやってみたら面白いのではないかと思ったのだ。

ただ、これを思い付いたのは発表する授業の前日。たった1日しか時間がないなかで、わらしべから物々交換を始めたところで大した物にはならないだろうし、そもそも「わらしべ」がなんなのかわからない。

そこで私は、当時人気だったプレイステーション3の新品を購入し、そこから物々交換を始めることにした。プレステ3から始めれば1日で軽自動車ぐらいになるんじゃないかと本気で思っていた。

高座に上がる立川笑二さん(東京都武蔵野市) 

当時のプレステ3は新品で買うと4万円ぐらいしたと思う。アルバイトでなんとか食いつないでいた7年前の私にとって4万円という金額は、今の私からすると5万円ぐらいの価値がある。わかりにくいだろうけど。

今回はそんな「プレステ3長者」の話。13投目! えいっ!

まず難波にあるビックカメラへ開店時間に行き、プレステ3を購入した。

その後、戎橋で物々交換を開始。

の予定だったが、ここで私は大変な現実を思い出した。

そういえば俺、人見知りだったんだ!!!

すっかり忘れていた。声を掛けられないのだ。プレステ3の入った箱を抱え、行きかう人々を眺めながら口をパクパクさせるだけで、あっという間に時刻は18時になっていた。

このままだと、ただ、プレステ3を購入しただけだ。なんの研究発表もできない。

このままではダメだと、ようやく自ら声を掛ける決心をし、

「あの、わらしべ長者をしているのですが、プレステ3と何か交換してくれませんか?」

と待ち合わせしている様子の人たちに声をかけ始めてみた。しかし、ここで私は再び大変なことに気が付いてしまった。

いきなり「プレステ3と何かを交換してくれ」という人は怪し過ぎる!!!

よくよく考えたら私自身もそんなやつと関わりたくない。どれだけ丁寧にわらしべ長者の途中だと説明されようが、その日に購入したという証拠のレシートや保証の紙を見せられようが願い下げだ。いくら気さくだといわれている大阪の人達でもそう思ったのだろう。

私は無視をされたり苦笑いで断られたりを何度も何度も繰り返していた。

そのうちにやけくそになり、空き缶をお金に替えることで生計を立てていると思われる、「リアルわらしべ長者」の方にも声を掛けてみたが、聞き取れないぐらい早口の関西弁で怒鳴られてしまった。

気付けば時刻は21時。

とにかく1回だけでも交換を成立させなければならない。私は涙目になりながら「プレステ3と何かを物々交換してください」と声をかけ続けた。

すると20代前半ぐらいの少し酔っ払っていると思われるお兄さんが、私の声に立ち止まり、初めてまともに話を聞いてくれた。

そのお兄さんは笑いながら「なんでそんなことをしているのか」ということを関西弁で聞いてくれた。私が必死になってNSCの自由研究というものの説明から今に至るまでのことを詳しく説明すると

「2年ぐらい使ってるこのiPodでよいなら交換してもええで」

とのこと。

「ありがとうございます! ぜひとも交換してください!」

念願の物々交換、初成立! 私は小踊りしたくなるほど舞い上がった。

交換が成立するだけでこんなにもうれしいものなのか!

この1回目の交換成立で私に自信がついたのか、酔っ払いが増えてくる時間になったからなのか、そこから先の物々交換はとんとん拍子に進んでいった。

iPodがGショックの腕時計に換わり、腕時計がゲームボーイアドバンスに換わり、ゲームボーイアドバンスがドラムスティックに換わり、ドラムスティックがペプシコーラの空き缶で出来たキャップに換わり……。

思い返すと後半は、わらしべ長者の説明をせずに「なんでもいいので、この品物と何かを交換してください」と言っていた気がする。

私はいつの間にか、物々交換を成立させることだけを目的にしていたのだ。

そんなことを言って品物の価値が上がっていくわけがない。

最終的には11回の物々交換を経て、新品のプレステ3はUFOキャッチャーの景品だったというミッキーマウスのストラップになっていた。

4万円でミッキーマウスのストラップを買ったも同然なのだ。これだけ高い買い物はこれから先もないだろう。

翌日の授業では、物々交換をしてくれた人たちの写真と併せてフリップで発表した。

可もなく不可もなくぐらいの評価だった。

ちなみに、以前、この連載で一緒に江の島まで自転車で遊びに行ったエピソードに出てきた同期の大嶋くんは、この自由研究について頭がおかしくなるほど考え抜いたそうだ。しまいには何が面白いことなのかわからなくなったらしい。

なんのひねりもない朝顔の観察記を、誰よりも堂々とした態度で発表していた。

私より評価が高かった……。

(次回11月6日は立川吉笑さんの予定です)

立川笑二(たてかわしょうじ)。1990年11月26日生まれ。沖縄県読谷村出身。2011年6月に立川談笑に入門。前座時代から観客を爆笑させ評判に。14年6月、二つ目に昇進。出囃子は「てぃんさぐぬ花」。立川談笑一門会(11月25日、12月25日)のほかにも、立川吉笑、立川笑坊ら一門、立川流の若手といっしょに頻繁に落語会を開いて研さんを積んでいる。ホームページは、http://tatekawashouji.com/

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