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ベンチャー魂が復活したソニー 大手メーカーの変革

日経トレンディ

2016/10/31

ソニーのFES Watch U。ソニーのクラウドファンディングFirst Flightで1600万円以上を集めた
日経トレンディ

 既存事業や組織の壁に阻まれ、新事業に踏み出せないジレンマを抱える大企業が多いなか、かつての「ベンチャー魂」をいち早く取り戻したのが、ソニーだ。

■クラウドファンディングがスモールスタートに人気

 象徴的なのは、2014年に始めた「SAP(シード・アクセラレーション・プログラム)」。3カ月に1度社内プレゼンを実施し、既存の事業部に受け皿のない斬新なアイデアを吸い上げる。これまで、電子ペーパーを用いて文字盤とベルトの柄を替えられる腕時計や、さまざまな家電を1台で操作できるリモコンなど、小粒でもエッジの利いた商品を輩出している。

ソニーが新規事業創出プログラムの一環として、昨年7月に始めたクラウドファンディングサイトが、「First Flight」。社内横断的に作られた斬新な商品が提案されている。例えばバンド部にスマホ連係機能を搭載した「wena wrist」が、国内最高額となる1億円以上の支援を集めるなど、消費者からの注目度も高い

 自由なものづくりを促進するソニーに触発され、他の大手メーカーも動き出した。そして、新機軸の商品を世に問う格好の場となっているのが、購入型クラウドファンディングの「マクアケ」だ。

「Makuake」は、購入型クラウドファンディングの大手サイト。東芝が飲みすぎを防ぐアルコールセンサー、JVCケンウッドが周囲の音も聞こえるイヤホンのプロジェクトを実施するなど、大手企業の活用が相次ぐ。9月からは、博報堂も自社開発の商品を提案している

 16年に入って、東芝やJVCケンウッドなどが斬新な商品プロジェクトを実施。運営するサイバーエージェント・クラウドファンディングの中山亮太郎社長は、「大手は斬新なアイデアを形にしたくても事業を小さく始めるノウハウに乏しい。そこに、企画段階で消費者の反応を見られてリスク回避できるマクアケがはまった」と話す。同社は少量生産できる外部パートナーを紹介する仕組みを整え、現在も10社以上の大手と企画を進めている。

■個人やスタートアップとのコラボも進む

 商品開発のアイデア自体を社外で募る。実は、そんな試みも進む。コクヨ、オリンパス、小林製薬などが活用するのが、1万人の個人を組織化して商品開発を手助けする「Wemake」(エイス)だ。

Wemakeはプロダクトデザイナーなど1万人規模の個人会員とメーカーをつなげる新サービス。メーカーは商品化を前提にプロジェクトを提示し、個人会員は実効性のある提案を行う。メーカー担当者も交えて議論を重ね、企画を練れるのが特徴だ。販売収益がアイデア提供者に還元され、賞金が出ることも

 利用する企業は、例えばオリンパスなら「アウトドアでの新しい撮影体験を実現するカメラアクセサリー」といった具合に、商品化を前提としたお題を提示。すると、プロダクトデザイナーやエンジニアなど多彩な背景を持つ個人会員から、3DCGを用いたハイレベルで具体的な企画案が、多いときで200件ほど集まる。

 それだけではない。提出された企画案を基に会員同士がウェブ上で議論を進める。「メーカー担当者からの改善のアドバイスや、会員が一消費者として評価する仕組みもあり、当初の企画が洗練される」(エイスの山田歩社長)のが強みだ。

 好例が、王子グループのお題から生まれた、強化段ボール製什器「D Plus」(税込み8980円から)。コの字形の板パーツを組み合わせて自由自在にレイアウトでき、スニーカーや雑誌などをスタイリッシュに飾れる商品だ。サイズごとに差し込み穴のパターンを変えたり、パーツの抜き差しがしやすいようデザインを一部修正したりと、会員との議論を通じて作り込んだ。

 一方、2000社以上のスタートアップと大企業をマッチングするのが、「creww」。大企業が提供できる顧客基盤や生産設備などを示し、それを使った新事業プランをスタートアップが応募する。「アイデアはあるが、資金もモノもないスタートアップと、大企業の豊富なリソースを掛け合わせれば、イノベーションが加速度的に進む」(運営するクルー)。16年はパナソニックをはじめ、15年の2倍以上の38社が活用する見込みだ。

crewwは2000社以上のスタートアップが登録しており、新事業を創出したい大企業との橋渡しをするサービス。大企業は生産設備などのリソースを提示し、スタートアップは自社のビジネスモデルを掛け合わせた提案を行う。両者の思惑が一致すれば、共同プロジェクトが始まり、出資やM&Aに発展することもある

 社内に閉ざされた商品開発の時代が終わり、知恵を外部に求める。そんな貪欲で新しいものづくりが大手を復活に導く。

■FES Watch U(ソニー)

 文字盤とベルトに電子ペーパーを配し、柄を替えられる腕時計として注目を集めた商品の第2弾。専用アプリで好きな柄を追加したり、手持ちの画像でデザインを自作したりできる。

好みのデザインを追加できる

■Pechat(博報堂)

 博報堂が手がけたボタン型スピーカー。子供のお気に入りのぬいぐるみに本体を付け、専用アプリでセリフを選んだり、文字を入力すると、ぬいぐるみが話しているように演出できる。「モノ発想ではなく、体験(コト)から考えた商品。好きなぬいぐるみが『歯磨きしよう!』と声を掛ければ、子供は喜んでやるはず」と開発者の小野直紀氏は話す。

ボタンを付けると自分のぬいぐるみがしゃべる

■マルチモニターイヤホン(JVCケンウッド)

 Bluetoothで連係したスマホの音楽を再生するのと同時に、内蔵マイクで拾った周囲の音が聞けるユニークなイヤホン。電車通勤で音楽を楽しみながらアナウンスも聞き漏らさずに済むのが便利。7月中旬から募集を始め、支援額は1000万円超に。

外部の音も聞こえる斬新イヤホン

■OLYMPUS AIRアクセサリー

 スマホと連係する円筒形のレンズスタイルカメラ「OLYMPUS AIR」のアクセサリー案を募集。最優秀賞は、カスガメミチオ氏の木の枝やランタンハンガーにつり下げてセットできるアタッチメントで、実際に商品化。

木につり下げて使うマウンター

■D plus

 王子グループの王子産業資材マネジメントが、「新しいダンボール家具」の企画案を募集。プロダクトデザイナーのkawakeke氏が、「D plus 自分でカスタマイズできるダンボール製の靴の収納棚」で最優秀賞を獲得した。コの字形の板パーツを組み合わせることで自由自在にレイアウトできるダンボール製什器の提案で、商品化された。

強化段ボール製のポータブル什器

■パナソニック

 生体電位センサーや音声言語の解析ノウハウなどの技術資産をスタートアップに開放し、新規事業のアイデアを募集した。下写真はパナソニック本社でのプレゼン風景。

■森永製菓

 crewwを通じて知育・教育アプリを得意とするキッズスターとコラボ。親子で楽しめるゲームアプリ「キョロちゃん大冒険」を展開。

(日経トレンディ編集部)

[日経トレンディ2016年11月号の記事を再構成]

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