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低コスト投信軸に 米の個人資産運用に学ぶ

2016/10/30

個人金融資産残高が10年前に比べて米国で6割増えたのに対して日本では1割増にとどまる――。投資信託を中心とする運用収益の違いが日米間格差の主因だ。注目すべきは米国の投信市場で加速する3つの変化。(1)年金制度を通じた個人マネーの流入(2)手数料の引き下げ(3)投資家目線の販売改革――だ。

9月下旬。米ペンシルベニア州フィラデルフィア郊外の小さなホテルに全米から200人強の個人投資家が集まった。同州を本拠とする大手投信会社バンガードのファンが毎年開く懇親の集いだ。同社はコストの安い指数(インデックス)連動型投信で人気を集める。マネジング・ディレクターのクリス・マカエザック氏は「我々は大きく成長してきた。今後もみなさんのためになる投信を作る」と語りかけた。

同社が運用するファンドへの資金流入額は、昨年までの5年間に約80兆円(モーニングスター調べ)と市場全体の45%を占める。流入額は、資産規模で米最大のブラックロックの2.2倍にあたり圧倒的な首位。これが米国投信業界の変化を象徴的に表している。

■若い時は株重視

資金流入の受け皿の一つになっているのが、ターゲット・デート・ファンド(TDF)という運用手法の投信だ。リスクを取りやすい若い時期は株式の組み入れ比率を高くし、年齢が上がるにつれて値動きの小さい債券などの比率を高める。バンガードのTDFは低コストを背景に市場シェアが大きい。

こうした投信に、勤務先の確定拠出年金(DC)制度を通じて、個人マネーが流入し続けている。TDFを、運用先の「初期設定(デフォルト)商品」に指定する企業が増えているのが主因だ。資金の全額をTDFに預けている加入者は40%(15年)に達し、10年前の5%から急拡大した。

「加入者の自由選択に任せると元本確保型商品に預ける人が多く、年金資産を増やしづらかった。TDFの普及で状況は大きく変わった」(米フィデリティ・インベストメンツのエグゼクティブ・バイス・プレジデント、ジョン・スウィーニー氏)。ちなみに英国の確定拠出年金でもデフォルト商品はTDFになりつつある。

米投信業界の2つ目の変化が低コスト化の加速だ。「米国の個人投資家は日本に比べてコストに敏感」(朝倉智也モーニングスター社長)。純資産が大きい投信5本平均の信託報酬を見ると年0.28%。日本の5分の1以下の水準だ(表B)。

市場全体の平均信託報酬も10年前より2割低下し、15年で0.64%と日本(1.3%)の半分(純資産加重平均、同社調べ)。バンガードの投信が巨額資金を集めるのもコストが平均0.12%と安いのが大きい。

3つ目の変化は販売側の姿勢変化だ。米国では個人を顧客として資産運用を助言する独立系アドバイザーが投信販売で高いシェアを持つ。かつては金融機関から受け取るコミッション(手数料)を主な収入源とし、手数料の手厚い商品を売りがちだった。

■報酬方式に転換

08年の金融危機後に批判が高まり、最近は顧客の資産残高に応じて一定比率をもらうフィー(報酬)方式の採用が増えている(図C)。大手投資助言事務所の経営者ジョエル・イザクソン氏は「フィー方式なら低コストの投信を勧めやすい。金融機関側ではなく顧客側にたてる」と語る。

英国やオーストラリア、オランダでは法規制によりフィー方式への転換を促す。英国は12年末、信託報酬の一部が販売者に流れ続ける仕組みを原則禁止。低コスト化が進みつつある。

米国と同様の変化は日本でも起きるのか。日本では企業型DC資産の6割は元本確保型。デフォルト商品を定めている企業のうち、9割以上がその対象に預貯金などの元本確保型商品を指定している。

ただし変化もある。5月の確定拠出年金法改正に基づき、2年以内にデフォルト商品をバランス型投信などに誘導する方向で、厚生労働省が政省令の改正を検討している。

先行する企業も出始めた。東芝は昨年DCを導入した際、デフォルト商品をバランス型投信にした。福岡市の塾経営SCホールディングスは今夏、フィデリティ投信のTDFをデフォルト商品に選定。「従業員の老後資金を増やしやすい仕組みだと判断した」(高橋肇常務)という。

日本では今も、信託報酬の約半分は販売した金融機関に入り続ける仕組みで、信託報酬の高い商品を売る誘惑が働く。表Bのように、売れ筋投信5本すべてが信託報酬の厚いアクティブ(積極運用)型だ。

ただ、大手ファイナンシャルプランナー(FP)会社、ガイア(東京・新宿)が8月、数年以内に収入源を原則、フィー方式に転換する方針を打ち出すなど、変化の芽もある。

信託報酬は市場全体では高止まりしているが、個別に見るとここ1~2年、低コスト商品が増えている。21日にはニッセイアセットマネジメントが、低コストのインデックス投信シリーズで、主要資産の信託報酬を業界最低水準である平均0.2%弱に引き下げると発表した。自ら選べば米国にあまり劣らない低コスト投資も可能だ。

(編集委員 田村正之)

[日本経済新聞朝刊2016年10月26日付]

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