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ユーロはレンジ化、豪ドルは上昇基調の見通し SMBC信託銀行 投資調査部 シニアFXマーケットアナリスト 二宮圭子

2016/10/27

PIXTA

 前回の「米ドル相場の先行きは」では、相場をリードするメーン・ドライバー(通貨)の把握が重要だと説明しました。外貨投資といえばまずは基軸通貨のドルですが、今回は個人投資家の関心が高く、私たちのお客様からも多くご質問を受けるユーロ、豪ドルの為替見通しをお伝えします(併せて米ドルも)。

 最初に今後の注目イベントを整理しましょう。米国の大統領選挙を11月8日に控え、足元はドルがメーン・ドライバーであることは一目瞭然です。しかし10月31日、11月1日には日銀金融政策決定会合があり、11月1~2日には米連邦公開市場委員会(FOMC)が開かれます(政策発表は日本時間3日午前3時予定)ので、一時的に円が相場をけん引する展開も想定されます。また、3日に行われるイングランド銀行(英中銀)金融政策委員会の決定内容によって、ポンドが一時的に相場を支配するような動きもあり得るかもしれません。ポンドは10月7日早朝に急落して対ドルで31年ぶりの安値を付けた後だけに、リスク要因として注視しておきたいところです。

■ユーロは域内の政局が波乱要因に

 米連邦準備理事会(FRB)のイエレン議長をはじめ中核メンバーが年内利上げに前向きな姿勢を示し、ドル高の基調が強まっています。一方、欧州中央銀行(ECB)も量的緩和の縮小(テーパリング)を検討しているとの臆測が広がりましたが、10月20日の理事会では現行政策の据え置きを決定しました。ただしドラギ総裁は会合後の記者会見で、次回会合(12月8日)での政策変更の可能性を示唆しており、資産買い入れプログラムを6カ月間延長する公算は大きいでしょう。

 一方、月間の買い入れ額については現在の800億ユーロを減額するか否か、ECBスタッフ間の意見調整が必要なため、判断は年明け以降になりそうです。テーパリングが現実的となればユーロ高になる可能性もありますが、気掛かりなのは域内主要国の政局です。イタリアでは憲法改正の是非を問う国民投票(12月4日)があり、否決されればレンツィ首相は辞任すると発言。オランダでも欧州連合(EU)離脱の声が高まっており、2017年3月の総選挙が注目されます。さらに、フランスは17年4~5月に大統領選挙、メルケル首相の支持率低下が進むドイツは17年8~10月に総選挙を控えています。

出所:Bloomberg

 独米の名目金利差(図表1)に加えて政局の不透明感が長期化すれば、ユーロにとってはマイナス要因です。これらの結果ユーロ/ドルは節目の1.10ドルを割り込み、1.05ドルを下値メド、1.15ドルを上値メドにレンジの下方を探る展開が予想され、ユーロ/円は115~118円で上値の重い動きが続きそうです。

■豪ドルの上伸を阻む要因は

 では豪ドルはどうでしょう。オーストラリアは鉄鉱石や石炭を産出する世界有数の資源大国として知られています。7月以降、鉄鉱石価格はおおむね1トン60米ドルを超える水準で堅調に推移しており、交易条件(輸出物価÷輸入物価)の改善は豪ドルの上昇要因となります。また4~6月期の実質国内総生産(GDP)成長率は3.3%と4年ぶりの高成長を記録(図表2)、景気先行指標とされる企業と家計のマインドも改善傾向を続けて、豪ドル高を後押ししています。

出所:豪州統計局

 一方、豪ドルの上伸を阻んでいるのは、豪州準備銀行(RBA)の金融政策と中国の景気減速です。RBAは10月4日の理事会で政策金利を過去最低の1.5%に据え置きました。声明文では、「5月と8月の利下げを受けて、緩和姿勢の維持が経済成長とインフレ目標の達成と整合的である」としましたが、今後の政策運営については言及を避けました。

 RBAのロウ総裁は10月18日の講演でインフレ率のさらなる低下リスクに警戒姿勢を示しましたが、同時に追加利下げのハードルが高いことも暗示しました。ただし、消費者物価指数(CPI)上昇率は前年比1.0%、政策判断の手掛かりとされる基調インフレ率は同1.5%と、いずれもRBAのインフレターゲットの下限(2.0%)を下回る状況が続いています。RBAが11月1日の理事会でも政策金利を据え置く可能性はありますが、賃金の伸びも鈍化していますので(図表3)、労働・住宅市場に配慮して当面は緩和姿勢を継続する公算が大きいでしょう。

 今後の政策運営を読むうえで11月4日に公表される四半期金融政策報告は注目されます。RBAの基調インフレ率見通しが8月時点(16年末:1.5%、17年末:1.5~2.5%)と比べて上方・下方のいずれかに修正されると、市場の政策期待に働きかけて豪ドル高・豪ドル安に振れる展開も想定されます。

出所:豪州統計局

 こうなると豪ドル高に拍車は掛かりづらいものの、チャート上では豪ドル/米ドルが0.77米ドルを明確に上抜ければ、4月以降続いた0.71~0.78米ドルの持ち合い相場が解消し、豪ドル高・米ドル安のトレンドがより鮮明になるとみています。一方、豪ドル/円は77円台半ばを上抜けて上昇トレンドへ転換したと判断されます。米ドル/円が100~102円で底堅さを示せば、豪ドル/円は80~82円のレンジ相場へ移行し、上値を追う可能性もあるでしょう。総じて、豪ドルは時間を掛けながら下値と上値を切り上げていく展開を想定しています。

■足元のドル高が長期的な動きにつながるか

 米国では雇用改善が続くなか、原油先物価格(WTI)が1バレル50ドル台を回復し、長期金利(名目金利)の上昇が加速しています。インフレ指標にも伸び率が高まる兆しが表れており、日米の名目金利差は再び拡大、ドル/円は一時1ドル=104円台後半まで上昇し節目の105円をうかがう展開となっています。FRBのイエレン議長や主要メンバーの見解を踏まえると、遅くとも12月のFOMCで利上げが決定されるでしょう。ただ、米国の実質金利はマイナス圏にとどまっているため、足元のドル高が長期的なトレンドとなるかどうかは見極めていく必要があります。

 こうしたなか、10月31日、11月1日の日銀金融政策決定会合では追加緩和が打ち出される公算が小さく、円安地合いには向かいにくいとみています。1~2日にはFOMCが開催されますが、大統領選挙を8日に控えFRBも現行政策を据え置く可能性が高く、ドル/円相場の波乱要因にはならないでしょう。

 11月4日に発表される10月の米雇用統計は、FRBの今後の政策運営を占ううえで重要な指標です。今の焦点は民主党のクリントン候補、共和党のトランプ候補のどちらが次期大統領に選ばれるのかであり、英国が大方の予想を裏切ってEU離脱を決めたことを考えれば、結果が判明するまで油断はできません。また、石油輸出国機構(OPEC)が11月30日の定例総会で正式に減産合意を決定するかどうかは、豪ドルなど資源国通貨の動向を左右します。11月の為替相場は不確定要素が多く、ドル安・円高のリスクは残されていると判断されます。

■新興国通貨にも動き、「木と森」の両方を見よ

 私は、外国為替市場を調査・分析する仕事柄、大半の時間を米ドルやユーロ、ポンド、円、オセアニア通貨など主要通貨に割いています。しかし、「木を見て森を見ず」という格言にあるように、将来を予測するうえでは物事の一部分や細部だけでなく、全体を捉えることが重要です。そのため、主要国・資源国・新興国を問わず相場の潮目が変わりそうだと感じる通貨がないかも、常に意識しています。

 今であれば、年初来高値圏で推移するブラジルレアルや、反発地合いを強めているメキシコペソの動向に注目しています。同じ新興国通貨では人民元の急落が目に留まりますが、主要通貨に対するドル高が進行していると思いきや、これらの中南米通貨は騰勢を強めていますので、今後もドル高が継続するのかどうか疑問を投げかけてくれます。

 米ドル以外の通貨も交えて世界の全体を見る。そんな形で情報を収集していくと、皆さんの運用も幅広いものになっていくと思います。

二宮 圭子(にのみや・けいこ) SMBC信託銀行 投資調査部 シニアFXマーケットアナリスト。シティバンク銀行入行後、法人金融部門・外国為替部にてインターバンク・ディーラー業務に従事。現在はSMBC信託銀行のシニアFXマーケットアナリストとして、為替市場の調査・分析および個人投資家向け情報提供を担当。主にテクニカル分析を得意とする。日経CNBCなどで為替情報を発信中。

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