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90秒にかけた男

無言の「間」こそが雄弁にメッセージを伝える ジャパネットたかた前社長 高田明氏(8)

2016/11/2

話の展開で伝わるものも伝わらなくなる

通信販売大手ジャパネットたかた。前社長の高田明氏はテレビ通販王国を一代で築き、自らもお茶の間の人気者となりました。朝から晩までテレビカメラの前に立ち続け、「伝える」ということを追究してきた高田氏。「しゃべり方」の神髄は、室町時代に能を大成させた世阿弥の「序破急」に通じると説きます。

◇   ◇   ◇

今日は伝え方の問題です。

どんな手法を取れば一番効果的に相手に自分の思いや感動を伝えられるか。伝える技術の問題も例えば声だったら高く、低く、弱く、強くといった抑揚のほか、語句を繰り返したり、間(ま)を取ったり、たくさんあります。もう一つ、伝えるうえで大事なことは、言葉以外の非言語的要素を使うことです。テレビは言葉だけではなく、非言語の魅力が大事になってくる。「目は口ほどにモノを言う」という諺(ことわざ)がありますが、非言語というのは体のランゲージ(言語)です。非言語の力というのがとても大きいのです。手がしゃべり、指がしゃべる、目がしゃべる。その辺が普通でいう「伝える技術」です。

■キング牧師とジョブズ氏に学ぶ「繰り返し」の効用

ノーベル平和賞を受賞した故キング牧師は “I have a dream” を3回繰り返した演説で有名ですが、微妙に抑揚を変えてメッセージの効果を高めています。ジャパネットの番組でもフレーズの繰り返しが多いのにお気づきでしょうか。何回も手を変え、品を変えて同じメッセージを繰り返す間に説得力が増し、視聴者に理解してもらうよう工夫しているのです。繰り返すというのは、伝え手が何を重視しているかを理解してもらうためです。間違った語句を繰り返しても伝わりません。

この手法は米アップルの創業者、故スティーブ・ジョブズさんもよく使っていました。ジョブズさんは最初に何を話したいのだということをシンプルに宣言し、最後に冒頭で語った内容を再確認するようなプレゼンをよくされました。私もこの方法の効果に強く同感します。しっかり最後に「これこれこうですよ」と伝えて、相手の納得感をもらって初めてモノが伝わったことになるのではないかと思います。

ジャパネットたかた前社長 高田明氏

このタイミングをとる妙を、世阿弥は「一調二機三声」(いっちょうにきさんせい)という用語で説明しています。能役者は面を被っているから周囲があまり見えない。そこで周囲の環境を把握してタイミングを見計らって、声を一気にぱっ、と出す必要があります。最初にこれから発する声の高さや張りや緩急を、心と体のなかで整え、次にそのような声を出す「機」や「間」をタイミングよくつかまえて、そして声を出しなさい――。このような過程を経て初めて、声が出るというわけです。世阿弥が650年前にこう指南しているのです。

私は番組で「2万9800円!」とか、いつも声を張り上げていたわけではないのです。「2万9800円ですよ」と言って、3秒、間(ま)をおいてから次の展開に移る。ジョブズさんは6秒の間(ま)をおけと言っています。その間(ま)の間に「おっ、次何が来るかな?」と視聴者はとっさに考える。その間(ま)は長くてもいけないし、短くてもいけない。この辺りは本当に伝える言葉の出し方の大事なところです。

米国の政治家は演説がうまいじゃないですか? 米大統領がなぜあれほど演説が達者なのかというと、予備選から始まる長丁場の大統領選があるからではないでしょうか。予備選挙の中で鍛えられるからこそ、大統領に就任した後に、演説や外交交渉で失敗することなく、大統領職を全うできるのだと思います。日本はしゃべり方を勉強しないままに総理大臣になってしまう。その差は非常にあると思います。だから聴衆に向かってとか、テレビを通じてお客さんに語る時には、どこで感じてもらうとか、考えてもらう「間(ま)」を作り出すことが大事であり、これは修行するしかありません。

■まくし立てても伝わらない

「2万9800円!」と言って、3秒おいて「安いでしょう?」というと、視聴者は「ああ、安いのかな」と思ってくれる。それが「2万9800円! 金利負担なしですよ。フリーダイヤルでどうぞ」と立て続けにいうと、とたんに伝わらない。「2万9800円ですよ …(間)… 安いでしょ? …(間)… しかもねぇ」と、分割金利の説明を切り出せば腑(ふ)に落ちるじゃないですか。これが相手に伝わるということなのだと思うのです。

こういう芸当はすぐにはできないと思うかもしれませんが、誰でも成ろうと思えばできるようになるのです。私は「高田さんは伝え方がうまいですね」「直観がいいね」といわれることがありますが、それは誰でも成れると思います。大事なのは、そこまで自分ができるようになるには、商品に向き合って、成ろうと思う自分がいるかどうかが大事です。成ろうと思う気持ちがない人に成れるわけがない。それはジャパネットの社員にも言ってきました。

「伝える」ためには、考えてもらう「間(ま)」を作り出すことが大事

話のテクニックにはまだあります。世阿弥の言葉を借りれば「序破急」(じょはきゅう)という技術です。序破急三段とか、序破急五段というバリエーションがありますが、「序」というのは伝えるときの導入部分です。どこから導入するか。全体のプレゼン時間が5分だとしたら、最初の10秒か20秒かもしれない。その間にその商品の説明を聞こう、見ようと引き付けるための導入部がまず要ります。これが下手な人は、いきなり結論を言ったり、問題の展開から入ったりしてしまうから、下手な人の説明をお客さんは聞こうとしなくなります。1分も聞いてると「これは面白くないな」と思ってチャンネルを切り替えてしまいます。

■テレビ通販で実践してきた「序破急」

例えば、「ロボット掃除機ルンバって知っています?」。「皆さん、70歳代の方は自分が掃除を全然しなくてもロボットが勝手に掃除するんです。汚れたところを何回も、何回も繰り返し。充電が少なくなればロボットが勝手に充電器に戻ってるんですよ。だからそれを1つ部屋に置いておくだけで、掃除をしなくていいんです。さあ、これから説明いきますよ!」っていったら、「あっ、聞いてみようかな」という気になるでしょう!? しかし「ロボットが人工知能(AI)を搭載して動くんですよ~」とか話しだしたら、最初から頭がこんがらがって聞く人は分からない。

だから必ず、序破急というのは導入部があって、展開の破(は)がある。序破急三段、五段というのは、この破を仕分けして3段階あるか5段階あるかの意味です。急(きゅう)というのは結論です。「だからこの商品は皆さんを幸せにします。楽にしますよ。値段はいくらです」と、すとんと腑(ふ)に落ちるような締め方です。これは能の世界で世阿弥が言ったことですが、私がMC(司会)として実践してきたことです。破は伸縮自在で、1段でもいい。商品の内容によります。ただ10段にもなったら、人間は聞かないでしょうね。

例えば序破急3段は次のような展開です。

「ルンバっていうのは丸い形で直径が30センチメートルです。下の方にダストボックスがあってそしてゴミをかき出すブラシがついているから充電して電源スイッチを入れたら、あとはベッドの下でも、どこでもすうっと入っていきます。部屋の角も掃除できます」とまず機能を説明します。

それから「でもルンバはね、賢いんですよ。汚れがひどい時って、普通のクリーナーは何回も何回も皆さん、お掃除しますよね。ルンバも汚れがひどい時は1回ではないんです。1回、2回、3回と人工知能で汚れがなくなったかを判断するんです。2階でお掃除するときも、ルンバは自分で階段があるって判断して落ちないのです」と、今度は機能ではない別の話をする。

そして第3段階は「洗濯もお掃除もしなくてはいけないお母さん方。20歳代、30歳代の若い方は子育て大変ですよね。70、80歳代のシニアの皆さんはお掃除はロボットに任せていいんじゃないですか」と、生活実感の話にして提案するのです。

このように内容を仕分けして3段にするか、5段にするか考えていけばいい。私はそれを世阿弥の本を読んで自分の通販の説明と連動するものを感じたのです。それを今、語っているだけです。

■言いたいことだけを一方的にしゃべっても伝わらない

序破急をもっとわかりやすく言えば、文章の起承転結と一緒ですね。起承転結は「結」が最初でも構わない。順番は導入部からでない場合もありえます。「今日はロボット掃除機のルンバを取り上げますが、皆さんご存じですよね。これを説明しますが、ルンバは高いでしょう? でも今日は3万円を切りますから。それでは聞いてください」と結論の3万円から先に言って引きつけているのです。それを序に代替させるのです。

一番まずいのは機能やソフトをごちゃ混ぜにして説明する話し方です。聞いている人は頭の中で情報を整理できなくなります。しゃべる人でもそういう人に出会ったことがあるでしょう。20分間も話して何も頭に残らない。その人は素晴らしいことを話しているのだけれど、相手に考える間(ま)を与えずに、「我見」で自分の言いたいことだけを一方的にしゃべってしまうから伝わらない。しゃべりがうまくなるには、そういうところも気をつけなければならない。

これは話す中で、頭の中で順番を入れ替えて話せるように誰でもなります。僕はいつごろ、それを身につけたのか覚えていませんが、いつも取り組む時には集中していましたね。その時期が30歳か、60歳かは人によって違いますが、取り組み続けることで必ず身につきます。結果的に努力したことは絶対無駄にならない。どこかでその努力って報われることがあるから、人生って努力する価値があるのだと思います。僕ももっと勉強したいと思っています。

話のテクニックとして次回は、もう1つ、しゃべりに「遊び」を入れる「マイクロスリップ」スキルについてお話しします。

高田明(たかた・あきら)
1971年大阪経済大経卒。機械メーカーを経て、74年実家が経営するカメラ店に入社。86年にジャパネットたかたの前身の「たかた」を設立し社長。99年現社名に変更。2015年1月社長退任。16年1月テレビ通販番組のレギュラー出演を終える。長崎県出身。67歳

(シニア・エディター 木ノ内敏久)

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