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情熱の「街角サンバ」に酔う リオデジャネイロ

素顔のブラジルを歩く(上) 写真家 渋谷敦志

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NIKKEI STYLE

この夏、リオデジャネイロ五輪・パラリンピックに沸いたブラジル。どの国や地域の選手にも惜しみなく声援を送る温かい国民性に、あらためて親近感を抱いた人も多いだろう。ただ、多くの日本人にとって、ブラジルは遠い国であり、一定のイメージしかない人が多いかもしれない。学生時代からブラジルに魅せられ、20年にわたって写真を撮り続けてきた写真家の渋谷敦志(しぶや・あつし)氏に、「素顔のブラジル」の魅力を3回にわたって紹介していただく。旅の始まりはサンパウロ、そしてリオへ――。

◆       ◆       ◆

スロースターターだが本番に強い

南米で初めての開催となったリオ五輪が終わり、東京へとバトンが渡された。「後半のパラリンピックまでブラジルの温かさや寛容の精神が伝わっていた」「もっとブラジルのことが知りたくなった」。五輪に関わった知人友人からの声を聞き、我がことのようにうれしかった。

前評判は散々なものだった。スタジアムや選手村の建設は間に合うのか、市内から会場までの交通手段は、リオは銃弾が飛び交うっていうじゃないか、等々。全くの見当違いともいえず、ぼくも返答に困っていたのだが、昨年リオに行った際、カリオカ(リオっ子)の友人に「正直なところ、オリンピックは本当に大丈夫と思う?」と聞いてみると、「大丈夫、大丈夫。日本の方が準備が進んでいるのは間違いないけどね」とジョークで返された。そして、「これがブラジルの新幹線さ。時速はボルトより速い」といって、リオ市内からオリンピックの会場をつなぐバス専用レーンを案内してくれた。

確かな根拠があるわけではないけれど、一見、無計画で非効率でも、ちゃんと大一番に合わせてくるのがブラジル流、というのがぼくの見方だ。サッカーW杯だってそう。セレソン(ブラジル代表)はいつもスロースターターで、このチームで大丈夫か?と予選で不穏な空気を漂わせながら、ちゃっかり決勝に合わせて仕上げてくる。逆に予選から調子よすぎると不安になるくらい。そう。ブラジルは本番に強いのだ。

ぼくは今、写真家としてアフリカやアジアを中心に60カ国以上を回り、紛争や貧困、災害の地で生きる人びとを撮り続けているのだが、写真家人生の原点はこの愛すべきブラジルにある。

セントロ、日系人街……ありのままのブラジルに魅せられて

最初にブラジルに行ったのは1996年、20歳のときだった。大学を1年間休学し、サンパウロの法律事務所で研修生として勤務した。写真家を目指していたぼくは、週末や休暇を利用してカメラ片手にブラジル中を駆け回り、旅先で出会った人や風景を撮る中で、ブラジルの魅力や写真の楽しさを知った。大学を卒業して、写真家になってからもブラジルを繰り返し訪れ、20年の間に撮りためた作品をまとめて、この夏、写真集『回帰するブラジル』(瀬戸内人)を発刊した。リオ五輪開催に合わせ、東京と大阪で写真展を開催し、華やかな祭典のよそ行きのブラジルとは違う、普段着の飾らないブラジルを写真で紹介しようと考えたのだ。

 日本から遠く離れているせいか、ブラジルにはどうしても両極端なイメージがつきまとう。カーニバルやサッカー王国、かたやファベーラ(スラム街)に腐敗政治、最近ではジカ熱などがそうだ。それらは確かにブラジルの一面であるが、それだけじゃないよ、もっとありのままのブラジルを見て感じて!という思いで今も旅を続けている。

ブラジルの旅の始点は最大の都市・サンパウロ。やはり住んだ町だし、最も愛着ある土地で、今でも自分のことをパウリスタ(サンパウロの住民、出身者のこと)だと思っている。1996年当時、勤め先の法律事務所はセントロと呼ばれる旧市街地にあった。石畳の路地を歩きながら、好みの光と影を探す時間が好きだった。

サンパウロ美術館(MASP)などの観光地、最近ではオスカーフレイレ通り(Rua Oscar Freire)がショッピングに人気だが、時間が許せばセントロを散策してほしい。必見はマルティネッリ・ビルだ。サンジョアン大通りとリベロバダロ通りの角にある、1929年に建てられた桜色のビルだ。もう一つは、サンジョアン大通りの起点にある一番高いビルで、36階にある展望台からはサンパウロの街を一望できる。しかも入場は無料だ。法律事務所で働いていた頃、落ち込むことがあるたびにそこに登っては、「自分は何をしにブラジルまで来たんだろう」とひとり、もの思いにふけることが何度もあった。今でもブラジルを旅すると、最後に立ち寄ってここから街を眺める。

サンパウロのことを語るときに欠かせないのが、リベルダージと呼ばれる日系人街だ。いくつの夜をここで飲みながら過ごしたかわからない。たくさんの日系人との出会いも生まれた。その中には日本からの移民もいた。ブラジルへの日本移民の歴史は100年を超えるが、国際化という言葉もなかったであろう明治時代に、移民として故郷を離れてブラジルに渡り、他の様々な国から来た移民と混ざり合って、多様なブラジル世界の彩りの一色となった先人らがいた事実に、たとえ苦難の物語として語られても、ぼくはある種の憧れを抱かずにはいられなかった。

世代を重ねた日系人はいまや160万人以上。言葉も十分に話せず、海外暮らしも初めてだったぼくが、ブラジル社会で受け入れられていると実感できた背景には、移民や日系人が長い歳月をかけてブラジル社会で醸成した日本への信頼があったおかげなのだと、今はわかる。そして、自分が生まれるよりもはるか昔に、海を渡って異郷の地で生きる決意をした若者たちの遠い夢に想いをはせることができる。写真家という越境していく職業を選んだ自分の生き方に、どこか重ねているのかもしれない。順風満帆であることはまれだ。逆風にさらされながらも写真家であり続けることは、大げさと思われるかもしれないが、ぼくにとっての抵抗でもある。生きる意志をあきらめないため、人間らしくあるための。そんな生き方をしたいという情熱を、ぼくはブラジルで授かったのだ。

スラム街で巡り合ったかけがえのない瞬間

サンパウロで暮らしていたとき、一番の楽しみといえば、リオデジャネイロに行くことだった。金曜日の夜にチエテーという長距離バスターミナルを夜行バスで出発すれば、翌朝にはリオデジャネイロの太陽を拝むことができる。距離感は東京・大阪をバスで移動するようなものだ。週末をリオデジャネイロで過ごし、月曜日の早朝にサンパウロに戻って、ネクタイを締めて出勤する。そんなご機嫌な小旅行を繰り返すうちに、サンパウロは日常、リオデジャネイロは非日常という対比的な見方ができあがった。もしどこでも好きな街に住んでいいという夢のようなオファーがあればリオデジャネイロを選ぶ。今でもリオは永遠の憧れの町としてぼくの中でまぶしい。

リオといえば誰もがサンバを思い浮かべるだろう。カーニバルの豪華な衣装をまとったサンバショー、それももちろん素晴らしい。けれど、もしこれからリオに行くという人がいるなら、街角の飾らないサンバを見てほしい。金曜や週末の夜になると、カリオカらが広場に集まって、自然発生的にセッションが始まる。ギターを弾く人、パンデイロ(ブラジル風タンバリン)をたたく人、歌う人、踊る人。みんなで輪になって、即興的に盛り上がっていく。誰ひとりうるさいなんて苦情はいわない。「ブラジル人は本当に人生の楽しみ方がうまいなあ」と、ダンスが踊れないぼくは、缶ビール片手に、羨望のまなざしでシャッターを切りながら、輪に加わるのだ。

ファベーラは一般的には立ち入るのが危険とされる。でも大半のファベーラは落ち着いていて、当然そこにもごくごく当たり前の日常生活がある。友人がロシーニャというリオで最大規模のファベーラに住んでいて、リオに行くとよく訪ねる。昨年はたまたまイースターの真っ最中のタイミングで、次の日の夜に面白いイベントがあるから来いと誘われた。いくら友人と一緒とはいえ、夜間にファベーラに行くのはどうかと一瞬考えたものの、最終的には現地の友人を信じるのが世界どの場所に行っても採用するぼくの基本ルールだ。そうやってこれまでも写真を撮り、素晴らしい瞬間に巡り合ってきた。

そして今回も、とても貴重なイベントを撮影できた。丘の上にできた巨大なファベーラ全体を舞台に見立て、キリストの復活を再現した劇が行われたのだ。迫害されるキリストを追いかけ、最後に丘の上で見事に復活を果たす姿を撮影しながら、旅の最後を予感した。そして、これでようやくブラジルを写真集にまとめることができるんじゃないかと思った。カーニバルからイースターまで、キリストの軌跡を自らの心の旅と重ねながら、ぼくはブラジルで過ごした時間をもう一度振り返っていた。(次回は11月下旬に掲載予定)

渋谷敦志(しぶや・あつし) 写真家。1975年大阪府生まれ。立命館大学在学中に1年間、ブラジル・サンパウロの法律事務所で働きながら写真を本格的に撮り始める。2002年、London College of Printing(現London College of Communication, University of the Arts London)卒業。著書に『回帰するブラジル』(瀬戸内人)、『希望のダンス――エイズで親をなくしたウガンダの子どもたち』(学研教育出版)、共著に『ファインダー越しの3.11』(原書房)がある。
・個人サイト http://www.shibuyaatsushi.com/
・ネット書店 https://shibuyaatsushi.stores.jp

(中)サンバには、ほんの少し悲しみを 古都サルバドール >>

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