バリュー(割安)株投資で高い運用利回りを上げて有名になった米国の投資家、ウォーレン・バフェット氏の若い頃の言葉を紹介する著作を原書で読みました。「Warren Buffett’s Ground Rules(ウォーレン・バフェットのグラウンド・ルール)」(Jeremy C. Miller著)です。
バフェット氏が投資家向けに書いた手紙が紹介されています。私が25年間のファンドマネジャー時代にやってきたバリュー株投資に通じる極意が、若き日のバフェット氏によって熱く語られており、感動しました。
私が強く共感した言葉を、私なりの日本語訳で2つ紹介します。
(1)「企業の本源的価値がわかっていれば、それを生かして有利にトレードできる。株価が本源的価値と比較して、ばかばかしいほど安い水準まで売られたときに買うことで、利益が得られる」
(2)「最近、新時代の投資哲学を語る人が増えた。その哲学によると、木々が空まで伸びるように上昇し続ける株が出てくるという。そんな哲学に乗って割高株を高値づかみするくらいなら、過度に保守的といわれてもペナルティーを科せられた方がましだ」
バフェット氏がいう「本源的価値」とは会社が長期にわたって稼ぎ出すキャッシュフローなどを基にはじき出すもので、バリューを重視して運用してきた私は、「そうだ、そうだ」と納得しました。今の日本株で、企業の本源的価値を割り込んでいる株はあるでしょうか? 私は、「TOPIX(東証株価指数)コア30」に、とても割安な銘柄が多いと思っています。
TOPIXコア30とは、東証1部上場の時価総額上位30銘柄を中心に構成する指数です。まさに、日本を代表する巨大企業の集まりです。それが割安とは何を意味するのか。
今年、日本株は年初から急落しました。外国人投資家が大型株を中心に日本株の下値をたたくように売ったからです。一方、小型株は外国人があまり保有していないことから、大型株ほどには大きく下がりませんでした。その結果、今は大型株ほど予想株価収益率(PER)や予想配当利回りで見て、割安で魅力的な銘柄が多くなっています。例えば、予想配当利回りは三井住友フィナンシャルグループが4%台、日本たばこ産業や三菱UFJフィナンシャル・グループが3%台、トヨタ自動車や日立製作所が2%台です。
私は、今は運用の最前線からは退きましたが、もしファンドマネジャーをやっていたら、TOPIXコア30の組み入れ比率を高めたくなる局面だと思います。
時々マネー誌で、「もしバフェ」銘柄の企画を見ます。「もしバフェットが日本株ファンドマネジャーだったら」買うだろう銘柄を探す企画です。私は、TOPIXコア30にその候補が多いと思っています。
一方、バフェットが最も買いたくないのは、どのような銘柄でしょうか? 今の日本株市場でいえば、東証マザーズに上場しているバイオ株など、いわゆる「テーマ株」ではないかと私は想像します。まったく利益が出ていないのに、夢だけで数百億円の時価総額の銘柄が多数あります。
金融とIT(情報技術)を融合した「フィンテック」の関連株といわれる銘柄にも、かなり割高な株があります。「これからバイオ新時代が始まる」「これからフィンテック時代が始まる」という熱気から、利益や純資産(自己資本)とは無関係に、株価はどこまでも上がるという幻想にとらわれてしまいがちです。
ただし、後から振り返ると、「あれはバブルだった」といわれることも多いものです。1999年にITバブル相場がありました。IT革命が起こるという熱気から、IT関連株が利益に関係なくどこまでも買われました。ところが、それはバブルでした。
IT革命は本物で、ITによって世界は革命的に変わりました。それ自体は正しかったのですが、利益がほとんど出ていないIT関連株をどこまでも買い上げていくのは、間違いでした。
今、人々がバイオやフィンテックに興奮するのは、当然かと思います。バイオやフィンテックで、人間の技術は劇的な進化を遂げようとしているからです。ただ、利益も出ていないのに、どこまでも買われている株に、私は不安を感じます。
いつの世でも、新時代の投資哲学を語る人は現れます。バフェット氏が本の中で語っているのは、70年代前半のアメリカ株のバブルで、株価が割高になってもいつまでも上昇し続けた「ニフティ・フィフティ(素晴らしい50銘柄)」のことでした。大型優良株とはいえ、一部の銘柄は説明のできない水準まで買い上げられました。
地味で堅実な銘柄がたたき売られて、利益の出ていない夢だけの銘柄がどこまでも買われていることは、10年前も20年前もありました。そして、10年後も20年後も、何回でも繰り返すことでしょう。短期売買のデイトレーディングではなく、長期投資を考えるなら、不人気な銘柄から堅実経営の有望株を探す方法は有効だと思います。