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料理は男のたしなみ 幅広い世代で腕磨き 妻や孫にふるまう、一人暮らしを健康に…

2016/10/24 日本経済新聞 夕刊

男女混合で行うABCクッキングスタジオの料理教室。20~30代前半の男性の参加が多い(東京都中央区)
「男子厨房に入らず」は昔の話とばかりに、エプロンを掛け、キッチンに立つ男性が幅広い世代で増えている。定年後のシニア、子育て世代のパパ、そして20代の独身男性まで、料理の腕を磨き始めた男性たちが目指すそれぞれのゴールとは。

「包丁を持つ位置は刃と柄のつなぎ目のところ。まな板から握りこぶし一つ分離れた位置に立ちましょう」。講師の説明をメモに取りながら真剣な表情で聴くのは、東京ガスが開催する料理教室「男だけの厨房」の参加者たち。3回9000円で和洋中の料理を基礎から学ぶことができると、定年後のシニアを中心に人気を集める。

慣れた手つきで包丁を扱う都内在住の小中章義さん(68)は、定年を機に炊事ができるようになろうと教室に通い始めた。習った料理は家でつくり妻にふるまう。得意料理はメンチカツ。「孫が喜んで食べてくれるとうれしい」と笑顔を見せる。

25年前から男性向け料理教室を始めたベターホーム協会(東京・渋谷)は、全国で94クラスを開く。当初の参加数は年350人ほどだったが今年は6000人を超えた。

ベターホーム協会の男性向け料理教室。「男性だけだと気が楽」と参加するシニアが多い(東京都渋谷区)

家庭料理を学ぶ「かあさんの味」コースに通う白石喜彦さん(71)は、68歳で定年退職後に料理を学び始めたが「家ではあまりしない」と苦笑い。「一度作ろうとしたら、準備などで3時間かかった。一人でやるのは大変」。それでも「何もしたことがないよりはいい」と話す。

料理をする男性が増えている。東京ガス都市生活研究所の調査(2014年)では、料理を「主に担当する」「時々または一部手伝う」と答えた男性は55.8%。20年前より16.3ポイント増えた。20~60代のすべての年代で、「ほとんどやらない」は半数を切った。

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「20代からシニア層まで、料理を積極的に楽しみたいという男性の裾野はかなり広がっている」と話すのは「料理ができる男は無敵である」の著者で料理研究家の福本陽子さん。10年から川崎市で男性向けの料理教室「メンズ・キッチン」を月1回開く。30人の定員は予約受け付け開始直後に満席になる人気ぶりだ。

パスタマシンをつかった「男のパスタ」や恵方巻きなど、エンターテインメント性や季節のイベントを意識したメニューが特徴だ。

「そんなに難しくないけれど、人に振るまうのに自慢できるようなレシピが多い」と5年前から通う横浜市の会社経営、小泉正人さん(40)。5歳と3歳の子どもの大好物のピザは、生地からつくり魚焼きグリルで焼きあげる。

先月は子どもの友達家族を招きチキン南蛮やローストポークでもてなした。「男性が料理をするようになると日々食事をつくる妻に感謝の気持ちがうまれ、家族のコミュニケーションも深まる」(福本さん)。家族に喜んでもらいたいと料理を学ぶ子育て世代は多いという。

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20~30代の独身男性の料理熱も高まっている。健康・節約志向を背景に、自炊できるようになりたいと教室で学ぶ人が増えているのだ。ABCクッキングスタジオ(東京・千代田)は、14年4月から全国で男性会員の受け入れを始めた。

1万2000人の男性会員のうち約7割が20~30代前半。「就職など生活の変化をきっかけに、生きるためのスキルとして料理を学びたいという独身男性が多い」(広報)。結婚を控えたカップルが一緒に習いにくる例も少なくないという。

家庭科男女共修世代にあたり、男女混合レッスンに抵抗がないのも特徴だ。都内に住む会社員男性(31)は昨年10月から通い始めた。今は実家暮らしだが「いずれ一人暮らしをしたときに、食べたいものを作れるようになりたい」と話す。

15年の国勢調査抽出速報集計結果によると、男性の生涯未婚率が過去最高の22.8%に達した。一方で、高齢化で夫が妻の介護を担うケースや単身で老後を過ごす男性も増える。料理を覚えることで「健康への意識が高まるだけでなく、いざというときの備えになる」と東京ガス「食」情報センターの工藤裕子所長は話す。

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■女性が求める結婚相手→家事・育児の能力

バブル期と今を比べると、料理をする若い男性が増える一方、女性は料理をする機会が減っていることがニッセイ基礎研究所の久我尚子主任研究員の分析で分かった。

総務省の「全国消費実態調査」から30歳未満の単身世帯の働く男女の支出を調べた。1989年に月3万1000円だった男性の外食費は、2014年に実質増減率で半分程度に減少。油脂・調味料や肉類、穀類、野菜への支出が増えた。

女性では調理食品や飲料の支出が増える一方、ほとんどの食材で支出が減少。外食費も28%減った。「節約・健康志向により家で食事をする人が増えた。忙しく働く女性が増加し、総菜などを買ってすませることが増えたため、女性の料理機会が減ったのでは」と久我さんは指摘する。

料理の男女差が縮まる中、結婚相手の条件として「家事・育児の能力」を重視する人は、男女とも「人柄」に次いで2位。割合は男性46.2%、女性57.7%で、女性のほうが10ポイント以上も高い(15年出生動向基本調査)。女性の活躍の場が広がり共働きが増える中、男性に家事・育児能力を求める傾向は今後ますます強まりそうだ。

(女性面編集長 佐藤珠希)

[日本経済新聞夕刊2016年10月24日付]

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