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観光客の波がベネチアを台無しにする?

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ナショナルジオグラフィック日本版

イタリアのベネチアにとって最大の脅威といえば、かつては洪水だった。今も洪水が危険なことに変わりはないが、それよりも大きな害をもたらすのが、津波のように押し寄せる観光客だ。世界的に著名な美術史家、サルバトーレ・セッティス氏は、新著『もしベネチアが死すなら(If Venice Dies)』の中で、そう訴えている。市民は急騰する家賃に耐えられず街を逃げ出し、座礁の危険がある巨大なクルーズ船が海岸まで迫り、さらにはベネチアのテーマパークを街のすぐ外に建設しようという計画まで提案されている。

ベネチアはこの街の市民にとってのみならず、全人類にとって重要な場所だと語るセッティス氏に、その現状と課題について聞いてみた。

――あなたは観光客のことを、ベネチアを破壊する「疫病」の一部だと述べていますが、私たちはベネチアに行くべきではないのでしょうか。

ベネチアを訪れたいという人が多いということ自体は、悪いことではありません。私が異を唱えたいのは、市民でない人が街に入るために、「入場料」をとろうという動きがあることです。もしそうなったら、ベネチアはその時点でテーマパークになってしまいます。それこそが、私が最も望まない事態です。

一方でベネチアは、単なる観光用の都市ではありません。かつてのベネチアの繁栄は、この街と市民が数百年間にわたり活発な生産活動を続けていたからこそ実現できたものです。現在のベネチアで同じことができていない理由は何でしょうか。今日では、1日におよそ2.6人の市民が街を離れています。現在の人口は5万4000人で、これは過去50年間に12万人が減少した計算になります。

ベネチアの生活費は日々上昇を続けています。若い世代はアパートを借りることも買うこともできず、近郊の街へ引っ越していきます。市民がベネチアを見限れば、ここは単なる観光地となり、ベネチアの魂は失われるでしょう。

――あなたはベネチアが「忘我」の危機にさらされていると警告していますが、これについて説明していただけますか。

現在、ベネチアに迫る最も恐ろしい危機は記憶の喪失です。はるか昔、古代ギリシャで最も繁栄した都市であるアテネもその道をたどりました。アテネは完全に記憶を失い、中世になる頃には街の名も、それがどこにあったのかも忘れ去られました。市民は栄光の時代の文化も記憶も失い、ときおりビザンチウムからの旅人が「ソクラテスが教えを説いていた場所はどこだ」と尋ねても、それに答えられる者はいませんでした。

現在のベネチアで起こっている、こうした忘却を示す最たる例が、数年前に公表されたある計画で、これは潟に浮かぶ小島にベネチアの歴史を再現するテーマパークを建設しようというものです。しかしベネチアは、街自体が歴史を語っているのです。この街の歴史を伝えるために、偽物のドゥカーレ宮殿を造る必要などありません。ここには本物のドゥカーレ宮殿があるのですから。

――あなたは「私たち、生きている者たちが、日々の生活の中で美を育まなければならない」と書いています。なぜ人間にとって美が重要なのでしょうか。

美とは相対的な概念です。あなたにとって美しいものでも、私にとってはそうでないかもしれませんし、その逆もありえます。私が言う美とは抽象的なものではなく、現実に根ざした美です。たとえばベネチアや、スペインやメキシコの古都を訪れたときに私たちが感じる美は、建築や景色の調和を目にするという体験のみに根ざしたものではなく、そうした建造物の集合体が何世代にもわたって残されてきたという知識にも関わりがあります。それは体験の蓄積であり、単なる感覚的な美しさではありません。

――あなたはベネチアに定期的に入港している超大型クルーズ船を特に強く批判しています。

2012年に起きたコスタ・コンコルディア号の座礁事故は、近代イタリアにおける悲劇的な事故の一つでした。巨大クルーズ船がベネチアに入港することに私が反対する理由の一つは、こうした船がこの街を代表する有名な観光名所のすぐそばにある潟にまで押し寄せており、いずれは街の歴史に取り返しのつかないダメージをもたらす可能性があるからです。クルーズ船は今でもすでに景観の調和を損なっています。高さがドゥカーレ宮殿の2倍、全長がサンマルコ広場の2倍に及ぶ船もあります。こうした巨大な船が入港しているときにベネチアを訪れればわかりますが、その光景は不愉快きわまりないものです。

潟そのものもまた、船からの大量の排水によってひどく汚染されています。コスタ・コンコルディア号の事故の後、イタリア政府は、クルーズ船は海岸から約5キロ以内に近づいてはいけないと定めましたが、ベネチアは唯一の例外とされており、ここでは海岸から1メートルの距離まで近づくことができるのです。これはとんでもないことです。

――あなたの著書には「ベネチアは今も水の壁の中にある」とあります。ベネチアの街と潟、その外に広がる海との関係について教えてください。

ベネチアはおそらく、主要な都市の中で唯一、城壁のない街です。潟があったおかげで城壁は必要なかったのです。

潟はしかし、単にベネチアの周囲を囲む水というだけの存在ではありません。潟は生きた環境であり、そこには鳥、植物、魚が暮らしています。かつては潟に浮かぶ多くの小島が、病院、修道院、墓地、さまざまな植物や野菜の農場として使われていました。街は常に潟と相互に影響し合ってきたのです。潟を街の重要な一部であるという見方は、現在失われつつあります。これもまたベネチア市民が忘れ去ろうとしていることの一つなのです。

――米国や中国、ドバイなど、世界各地にはベネチアを模した場所が多くあります。こうした場所が本物のベネチアに及ぼす影響とはどんなものでしょうか。

おそらくはベネチアほど繰り返し模倣された都市はほかにないでしょう。またベネチアが世界にその名を知られているということは、この街がとりわけ魅力的であることの証明です。「北のベネチア」と呼ばれる街はいくつも存在しており、たとえばストックホルムもその一つです。しかしベネチアのことを「南のストックホルム」と呼ぶ人はいません(笑)。ベネチアははるか昔、ナポレオンに侵略されたときに政治的、商業的な重要性を失いました。それでも、文化的な想像力をかき立てる場所として、今もその重要性は失われていません。

ベネチアへの執着と、その建造物を模倣しようという動きが加速するきっかけとなったのは、1902年にサンマルコ広場の鐘楼が地震によって倒壊したことでした。以前と同じ場所に、同じ大きさの鐘楼が再建された後、これを模倣した鐘楼が世界各地で建てられました。トロントの元鉄道駅に建てられたものは、その中でも特に有名です。同じころ、カリフォルニア州では、ベネチアを模したベニスの町が設立されました。

このように歴史上、ベネチアがさまざまな創造力の源であったことについては、本家のベネチアを守る上で、さらなる議論が必要でしょう。ラスベガスや中国などにある模倣建築がどれだけベネチアをまねようとも、この街をまるごと模倣することは誰にもできません。それはあまりにも難しいからです。サンマルコ寺院を模した建造物は、世界中のどこにもありません。それはなぜでしょうか。複雑すぎてまねすることは不可能だからです。

――あなたはベネチアの地元当局の無能さや腐敗について厳しく批判されています。モーゼ(MOSE)計画について教えてください。

当局の腐敗を非難したのは私ではありません。私はただ、そうした問題について書かれた新聞や本を引用しただけです。モーゼとは、イタリア語で「アクア・アルタ」と呼ばれる異常な潮位の上昇から、街と潟を守るシステムのことです。

この計画はイタリア政府が認可し、資金を提供し、実行に移しました。現在も工事は続いていますが、30年以上前の技術に基づいたこのシステムがうまく稼働するのかどうかはまったくわかりません。また初期費用が20億ユーロと推定されていたにもかかわらず、現在までにすでに65億ユーロが費やされ、そのうち少なくとも20億ユーロが汚職に使われたことがわかっています。

ベネト州の前知事で後にベルルスコーニ内閣で大臣を務めたジャンカルロ・ガラン氏は、逮捕・収監されました。ベネチアの元市長で、現職のマッティオ・レンツィ首相と同じ民主党に所属していたジョルジョ・オルソーニ氏も逮捕され、辞職に追い込まれました。この大規模な汚職事件からは、ベネチアが現実に抱えているアクア・アルタなどの問題が、ときに巨額の公的資金を費やす言い訳として使われており、その金は腐敗した人間や団体に吸い上げられていることがわかります。

――あなたが本の最後で呼びかけている、ベネチアを守るための「新たな市民権協定」について、またベネチアが生き残ることがなぜそれほど重要なのかについて教えてください。

まず何より、ベネチアが失われずに残ることそれ自体に価値があります。ベネチアほど重要な街を、消えるに任せておくことはできません。ベネチアはこの街の市民のためだけでなく、人類全体のために保護されるべきなのです。これが非常に重要なポイントです。ベネチアは歴史ある都市の模範であり、街はどのように失われていくのか、その状況を明確に示す実例でもあります。将来、世界が水平に広がる街と垂直に乱立する高層ビルという均一化された印象の街ばかりになるのを避けたいなら、歴史ある街を本来の姿のまま残していくことはきわめて重要です。今から200年後の若者たちに、「長い歴史をもつ世界」という概念を理解させる手段としては、昔ながらの姿を完全に残す街ほど効果的なものはないでしょう。ベネチアを古都として保存することは、ベネチア市民にとって重要です。しかしそれと同じくらい、あるいはそれ以上に、世界にとっても大きな意味を持っているのです。

(文 Simon Worrall、訳 北村京子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2016年10月19日付]

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