利用者から「若いのに何でタクシー運転手になっちゃったの」といわれることもたびたびある。営業所の同僚のなかでも、タクシードライバーは「最後につく仕事」と考える人はまだ多いという。

「逆に若いドライバーを街にあふれさせたい。『なんでタクシー運転手なの』と聞かれたら、『業界を変えたいからです』と街の至るところで若いドライバーが伝え続ければ、きっと変わると思う」と広村さんは熱を込める。

人材採用課の柴田幸範さん(26)も業界変革を強く意識する一人だ。早稲田大学を卒業後、ドライバーとして入社してからこの仕事の魅力を知り、偏見と実態のギャップを埋めようと人材採用課に異動した。

「タクシー業界の課題は高齢化です。配車サービス大手の米ウーバーが上陸して、自家用車を使って有償で人を運ぶ『ライドシェア』も脅威です。我々はとても苦しい時期だと思う。でも我々には、歴史のある会社だからこその運転の技術や、接客のノウハウもある。2020年の東京五輪では、その力が生かされるはず。ずっとこの会社で働き続けたい」という。

新卒で入社した若いドライバーたちは、サービス向上への意欲も高い。「古い価値観を変えなければ」と口をそろえる。横柄な接客や、道を学ばないことによるクレームが、タクシー全体のイメージを落とす、というのだ。「クレームが多い人は決まっているし、まったくトラブルのない人もいる。まずお客様が乗車したら、目を見てあいさつして急ぎかどうかなど、ニーズが何か尋ねる。まず、個人の接客スキルを上げることが重要だ」と前述の松山さんは指摘する。

バンドマンとしての夢

静岡大卒の安田聡太さんは「ドライバー兼バンドマン」

ドライバーのなかには、他に夢や目標がある人もいる。シフトで時間の調整ができ、かつ正社員の待遇が保証されているからだ。13年に静岡大学工学部を卒業後、新卒で入社した安田聡太さん(29)は、「将来はミュージシャンとして生きていきたい」という夢をかなえるため、両立できる職業を探していたときにタクシードライバーに出合った。会社説明会で「音楽をやりたい」と現場にいた国際自動車の社員に話したところ、「その夢を応援します」といわれたことが入社を決めた理由だ。

出勤日はライブのある日を優先して決めている。仲間と組むバンド活動と、一人での弾き語り、あわせて月5、6本のライブ活動をこなす日々だ。将来は音楽で食べていきたい、とも思う一方で、社会人としてのマナーや人を見る目が養えたこともいい経験だという。「ビジネスマンなら急いでいたり、お年寄りは体が悪いからゆっくり走ってほしい、と思っていたりする。人を観察する癖がつきました」。安田さんは、自分の働き方や生き方を見て「タクシー業界のイメージが変わった」という人が一人でも増えたらうれしい、と話す。

ウーバーと戦えるか

16年現在、国際自動車に大卒で入社したドライバーはすでに400人を超える。国際自動車に入社したドライバーのなかには、「四年制大学まで出したのに、タクシードライバーなんて」と親に泣かれた、という人も珍しくない。しかし、新卒のタクシードライバーの採用に力を入れているのは、国際自動車だけではない。競合である日本交通も、17年卒の新卒で150人の採用することを発表した。入社当初は、ドライバーとしての勤務だ。大和自動車交通も16年に初めて新卒者を5人採用、17年は6倍の30人を目指している。

若手ドライバーたちは「待遇の良さ」「人間関係」、そして「業界を自分の手で変えられる」というやりがいを口にする。国際自動車の西川洋志社長は採用の現場に携わる若手に対し、「君たちが国際自動車とタクシー業界を下支えする」と激励した。ウーバーなど、競合サービスとどう戦っていくのか。未来は偏見なき若い世代の「プロ意識」にかかっている。

(松本千恵)

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