配偶者控除、働く女性「廃止を」8割日経ウーマノミクス・プロジェクト会員調査

2016/10/22

年収103万円以下の配偶者を持つ人が、所得から38万円を控除できるため所得税の軽減につながる「配偶者控除」。女性の働く意欲をそいでいるなどの批判は根強い。日経ウーマノミクス・プロジェクトの女性会員に行った調査では、廃止に向けた制度見直しに「賛成」と答えた人は79.7%。「反対」の8.5%を大幅に上回った。

「ゆがんだ制度、活力奪う」

政府・与党は当初、2017年度の税制改正で配偶者控除の廃止を検討していたが、方針を転換。今後数年掛けて議論するとし、適用対象となる配偶者の年収を103万円から引き上げる一方、世帯主の年収に制限を設ける案を検討するという。

廃止に向けて見直すことを賛成する理由(複数回答)として最も多かったのは「税負担が生じないよう就業調整するなど、女性の働き方に影響を与えているから」(62.4%)。自由回答では「女性を専業主婦や低賃金のパート就労、就労抑制に誘導していると思う」「働かない方が得というゆがんだ制度は、社会の活力を奪う」など、女性の社会進出の前に立ちはだかる壁の存在に批判的な声が多かった。

いわゆる「103万円の壁」に対し「女性が多いパートやアルバイトの賃金、労働時間を『扶養内で働けるように』と雇用主が決めている例が多いと思う」との指摘もあった。「女性の働く意欲低下につながる」(39.4%)、「政府が掲げる『女性活躍推進』と矛盾する」(34.1%)と受け止めている女性は少なくない。

大和総研金融調査部の是枝俊悟研究員によると、従業員向けの配偶者手当の支給基準が配偶者控除の水準である「年収103万円」に連動する企業が全体の約4割、手当制度を持つ企業の6割弱に達する。夫の勤務先から手当を受給するために年収を抑えて働くパート主婦は多く、就業調整をさらに後押ししている。是枝氏は「政府が制度見直しを議論することで、企業が自社制度を見直す契機になり得る」と指摘する。

「子育て支援に割り振って」

次いで回答が多かったのは「共働き世帯が専業主婦世帯の数を上回る今の時代に合わない」(60.9%)、「専業主婦世帯を優遇する制度だから」(57.1%)。いずれも専業主婦やパート世帯と、共働き世帯の間で生じる税負担のアンバランスを指摘している。

「会社員の私は専業主婦と同じように家事や子育てをし、労働して税金を払っているので不公平」「子育て支援などに振り分けた方が良い」などの反発が目立った。

配偶者控除は課税対象額を減らす「所得控除」のため所得税率が高い高所得世帯ほど減税額が多くなる。「高い水準の年収の夫がいる世帯に控除は不要」との声もあった。

一方、廃止に向けて制度を見直すことに反対する理由(複数回答)として最も多かったのは「保育園不足や介護などで働きたくても働けない人がいる」(83.3%)で、「専業主婦世帯の増税につながる」(66.7%)が続いた。

年収130万円未満(10月以降は一部で106万円未満)の会社員などの妻が社会保険料を負担しなくて済む今の制度についても聞いたところ「見直した方が良い」が65.9%に達した。「どうしても働けない事情や低収入の場合を除き、税金や社会保険料は等しく負担すべきだと思う」など応分の負担を求める意見が目立った。

配偶者控除の廃止見送りとともに浮上した控除対象になる年収制限を150万円程度に緩和する案について、中央大学の森信茂樹教授は「政府は勤労を阻害する制度を直していくべきで収入が一定水準を超えると負担増で手取りが減ってしまう『壁』を残すのは、国際的な潮流にも逆行している」と批判する。

安倍政権が後押ししているはずの働く女性たちから、圧倒的な賛同を得ている配偶者控除の見直し。「女性の社会進出を阻み、男女不平等が前提の制度と感じる」――。この声にどう答えていくのだろうか。

(南優子)

■調査概要 日経ウーマノミクス・プロジェクトの女性会員を対象にサイト上で9月13~25日まで実施、回答は780件。正社員・公務員が77.4%、契約・派遣社員とパート・アルバイトがともに6.5%、個人事業主が5.0%。世代別では40歳代が39.5%、30歳代が39.1%、50歳代が15.8%だった。

水無田気流さんに聞く

みなした・きりう 詩人、社会学者。国学院大学経済学部教授。専攻は文化社会学・ジェンダー論。本紙連載「男女ギャップを斬る」を執筆。1970年生まれ、1児の母

――配偶者控除廃止の議論が立ち消えになりました。

やっぱり、という印象だ。1961年にできた配偶者控除制度が前提とする専業主婦家庭は減り続けている。社会の構造が変わったなら制度も変えるべきだ。配偶者控除を維持することは女性の働き方や待遇改善の足かせになる。

――具体的には。

配偶者控除やそれに基づく企業の配偶者手当は「世帯単位での就労」、つまり夫が主たる稼ぎ手で妻は補助的な働き手だという慣行につながる。妻は控除の範囲内で夫の手取りを減らさない程度に働くことが望ましいとされ、結果、働くのに夫の許可がいる女性のあり方を規定してしまう。

上限引き上げ、単に鳥かごが大きく

――控除適用の上限を引き上げる案が検討されています。

制度そのものを見直さなければ、女性が働くことや自活することの価値を見いだしづらく、待遇が低い労働を余儀なくされる現状は変わらない。上限を引き上げてすまそうとするのは、単に鳥かごを大きくするようなものだ。

――パート主婦からは先々への不安の声もあがります。

家事や育児、介護を一人で抱えながらパートをする女性には、危ういバランスの中でようやく保っている均衡が悪化すると危惧する人が少なくないのでは。多くの女性が今の暮らしを時間的にも経済的にも綱渡りだと感じている。それは社会の問題だが、女性の「個人の問題」へと矮小(わいしょう)化されている。男性の働き方に柔軟性がなく、家庭責任が女性にのしかかっている。働き方改革だけでなく、暮らし方改革が必要だ。

「キャリア女性対専業主婦」の構図に落とし込まれ、本質が見えなくなることも問題だ。女性にはそれぞれの立場で、自分の生きづらさの正体と、それをもたらす社会的な構造は何かを考えてほしい。

――これからの社会にはどんな制度が必要と考えますか。

育児や介護で長時間働けない人にケアタイム保障や控除制度を設けるべきだ。独身で介護にあたる男女も増えてくる。性別や既婚・未婚を問わず、個人の働き方・暮らし方の多様性を前提とし、個々の生活実態に即した保障や控除を与える必要がある。

〔日本経済新聞朝刊2016年10月22日付〕