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個人型DC、課税に差が出る受け取り方

2016/10/23

 来年1月から加入対象者が大幅に拡大する個人型確定拠出年金(DC)。掛け金を預貯金や投資信託などで運用し、成績次第で老後の年金が変わる。掛け金の拠出時、運用時、受給時それぞれに税制優遇があり老後資金づくりには最優先で使いたい制度だ。ただし勤務先からの退職金などが多いと、個人型DCの受給時に大きな税金がかかる場合があることはほとんど知られていない。お得な受給方法を考えた。

 個人型DCは2001年の導入で、現在は企業年金のない会社員や自営業者などが対象。60歳以上の人が受給している。来年から企業年金のある会社員や公務員、主婦なども使えるようになる。

 掛け金は全額所得控除される。例えば所得税・住民税の合計税率が20%の会社員が、年27万6000円(企業年金のない会社員の上限額)を拠出すると、20%分の5万5200円が節税になる(復興税は考慮せず)。運用期間中も運用益は非課税なので、複利で大きく増やしやすい。

 拠出時と運用時の税優遇は大きく仕組みも分かりやすいが、複雑なのが受給時だ。金融機関にもよるが受給方法は一時金、年金、一時金と年金の併用からいずれかを選ぶ。一時金なら退職所得控除の対象(図A)。加入年数が20年までは年40万円、21年目以降は年70万円が控除される。つまり35年加入していると1850万円まで非課税で受け取れる。一方、年金での受け取りを選べば公的年金等控除の対象だ。64歳までは年70万円、65歳以降は年120万円まで税金がかからない。

■もらう時期ずらす

 要注意なのは「退職所得控除も公的年金等控除も個人型DCだけの独立した枠ではなく、退職金や公的年金と基本的には同じ枠で計算すること」(税理士の柴原一氏)。例えば会社の退職金(35年勤続)2200万円と個人型DC(20年加入)の資産600万円の例で考える。両方を同じ60歳でもらうとき、退職所得控除の計算年数は会社の勤続年数と個人型DCの加入期間の長い方を使う。この場合は35年なので1850万円だ。

 一方、収入は退職金と個人型DCの資産を合算して考えるので2800万円。退職所得控除を950万円超過する。退職所得は計算上半分にしてくれる仕組みなので475万円になる。表Bで475万円に対する所得税を計算すると、52万2500円(税率20%をかけて計算上の控除額42万7500円を差し引く)。住民税は一律10%で47万5000円なので、計99万7500円だ。

 大企業の会社員や公務員など退職金が多い人は、このように個人型DCの資産が退職所得控除の枠を超え、受給時に税金がかかりやすい。

 ファイナンシャルプランナー(FP)の深田晶恵氏は「個人型DCの受給を退職金をもらう時期とずらすと、税金を圧縮できることがある」と話す。個人型DCは60歳で受け取る必要はなく、70歳まで運用を継続できる。先ほどのケースで、退職金を60歳で、個人型DCは65歳で受給するとどうなるか(グラフC)。

 「退職金を個人型DC受給前の15年以内に受け取っていると、個人型DCの退職所得控除の計算期間のうち退職金との重複期間は差し引かれる」(深田氏)。重複期間は20年なので、個人型DCの退職所得控除の20年分はちょうどなくなってしまう。

 しかし所得税は累進税率だ。60歳で一度にもらうのに比べ、60歳と65歳で退職所得が分割され金額が小さくなるので税率が下がり、住民税も加えた税の総額は76万5000円に減る。

■「一時金が有利」

 一時金でなく年金でもらう選択肢もあるが、控除枠も公的年金と共通だ。例えば65歳以降は年120万円まで非課税で受け取れるが、厚生年金のある会社員や公務員は公的年金でこの枠を通常使ってしまい、個人型DCの年金受け取り分は課税対象になることが多い。所得税・住民税がかかるだけでなく、毎年の所得が増えると健康保険料や介護保険料なども上がりやすい。

 柴原氏は「一時金なら控除枠の超過分も退職所得の計算では半分になるので、基本的には一時金が有利なことが多い」と話す。もちろん公的年金が少ない場合などは、年金での受け取りも一案だ。

 さらに税金を減らすには「公的年金の受け取り開始前の空白期間に個人型DCの一部を年金でもらい、残りを一時金でもらうのが有効」とFPの福島えみ子氏は話す。男性なら現在の50歳代半ば以降は公的年金の受給は65歳からなので、64歳までの控除枠年70万円がそのまま残る。例えば個人型DCをこの5年間で年に70万円ずつ計350万円非課税でもらい、残りを65歳で一時金でもらえば税金の総額は45万円に減る。

 ただしこれらはあくまで一例で、人により有利な受給方法は異なる。税理士や税務署に相談して慎重に考えよう。(編集委員 田村正之)

■中小や自営業者 積極的な活用を
 退職金や公的年金が少なくなりがちな中小企業の従業員や自営業者は控除枠が多く残っているため、個人型DC受給時も税金がかからないことが多い。個人型DCを使う有利さが特に大きく、同時に必要性も高い。積極的な活用が急務だ。
 一方、受給時に課税されやすい大企業の社員や公務員も、総合的にみると個人型DCはやはり有利だ。一般に現役時代の税率が高いので、拠出時の節税効果が大きい。受給時も退職所得は収入の2分の1で計算するほか「年金でもらう場合も現役時代より税率が下がっていることが多いので、拠出時の節税額に比べ受給時は税負担を抑えやすい」(税理士の服部誠氏)。

[日本経済新聞朝刊2016年10月19日付]

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