この秋のファッションシーンでは、小さく折り畳んで収納できる(=パッカブル)アイテムの発売が例年にも増して目立っている。パッカブル製品の一番のメリットは持ち運びしやすい点で、カバンに常備しておいて必要なときに使えることから、旅行や出張などの外出時に重宝する。今回はビジネススタイルにも似合う高機能パッカブルアウターを取り上げる。アウトドアでの使用を前提に生まれたパッカブルアウターだが、最近は街での利用を想定したモデルが増えている。実際、「折りたたみ傘を目指した」というメーカーもあるほどだ。
薄く収納できてブリーフケースに入れやすい
パッカブルアウターはレインコートに限らず、専用ポーチやアウター本体のポケットに小さく折り畳んで収納できる作りになっているアウターのこと。その最大のメリットは、なんといってもコンパクトに持ち運びができる点だ。
そもそもパッカブルアウターはアウトドア由来のプロダクト。登山などは荷物を軽量かつコンパクトにすること、そして悪天候による体温低下を防ぐことが重要なため、付属の専用ポーチに小さく収納できる防水・防風アウターが開発された。機能を追求したアウトドア用品は日常生活においても便利なものが多く、パッカブルアウターもその一つとして注目を集めている。
「アウトドアの用途に限らず、都会で生活する上でパッカブルのものをお求めの方が増えているようです。アウトドアをより身近に取り入れるライフスタイルが根付き始め、“アウトドアブランドならパッカブルのものがある”とお考えになる方が増えたのかもしれません」(ゴールドウイン/ザ・ノース・フェイス プレス 杉田歩氏)
近年はキャンプや野外フェスなどを楽しむ人が増え、これまでよりアウトドアが一般化している。こういった広がりを背景に、アウトドア用品についても多くの人が知識を持つようになってきた。アウトドア用品にはパッカブル仕様のアイテムも多いため、“パッカブル製品を買うならアウトドアブランドで探せばいい”と考える人が増えているようだ。
この人気を受けて、ザ・ノース・フェイスでは昨年から都市生活における利便性の高い日常着を提案するUNLIMITED COLLECTIONをスタート。防水やパッカブルといったアウトドアの必須機能を取り入れたアイテムを、タウンユース向けのデザインで展開している。
昨今、このようにライフスタイルカテゴリーの商品を拡充しているアウトドアブランドは多い。高い機能を持つウエアをアウトドア用途に限定せず、日常生活に取り入れやすいデザインで展開し、幅広い購買層にアプローチする傾向が見られる。これまでのアウトドアモデルとは異なり、ビジネススタイルにも似合う黒をベースとした落ち着いたアウターが続々登場。アウトドア由来の高機能ウエアを、さまざまなシーンに活用することが可能となった。
また、今年の傾向として「手のひらサイズからブリーフケースに入るものまで、サイズのバリエーションが豊富になりました」(杉田氏)。アウトドア用のパッカブルアウターはリュックに入れることを想定しているため、かなり小さく収納できるが丸く厚みがあった。しかしタウンユースモデルは、サイズこそやや大きいものの薄く収納できる作りでブリーフケースに忍ばせやすい。このような設計もビジネスシーンでの使用を考慮したものと思われる。
今回はそんなビジネスで使えるパッカブルアウターをピックアップした。アウトドアブランドの高機能モデルや、人気セレクトショップの汎用性の高いアウターを紹介しよう。
ザ・ノース・フェイス/折りたたみ傘の代用を目指して製作
ザ・ノース・フェイスから展開されている「パックライトコート」は、雨風をしのぐレインウェアの機能を持ちながら、雨の日以外にも着用できる自由度の高いデザインが特徴。光沢のある一般的なレインウェアとは異なり、マットでドライな風合いのため旅行やビジネスシーンの着こなしにフィットする。
「感覚的には、雨の日も晴れの日もカバンに忍ばせられる折りたたみ傘を目指しました」(ゴールドウイン/ザ・ノース・フェイス MD 大坪岳人氏)
2.5層構造のゴアテックス パックライトを使用し、高い防水性と軽量・コンパクトさを実現している。専用ポーチに小さく収納でき、天候や場所に左右されずいつでもどこでも取り出せる。
デザインに関してもタウンユースを意識し、ステッチを表に出さず、ボタンホールもレーザー裁断するなど、できるだけフラットでミニマルに仕立てている。補強が必要な部分以外は接着仕様にすることで、縫い目の肌への干渉も軽減している。
「まだ発売したばかりですが、紅葉トレッキングから国内旅行までシーンを選ばず着用できる点が評価されています。台風の影響もあり、9月末の販売開始からすでに欠品する店舗もあります」(大坪氏)
アウトドアシーンでも使える優れた防水性を持ちながら、街でも違和感なく着用できるシンプルなデザイン。そしてバッグに常備できるパッカブル仕様ということで、30~50代まで幅広い年齢層に支持されているそうだ。
ポーター×ナナミカ/ポーター製ガーメントポーチがセットに
“トラベルとユーティリティー”をテーマにアウトドアの機能性を持つウエアを展開するナナミカと、かのポーターがコラボレーション。海外での評価も高い両ブランドが手を組んだ。
今回紹介するアウターは10月7日に発売されたばかり。JR品川駅構内のポーターのコンセプトショップ、PORTER STANDで開催されている『nanamica TRUNK SHOW』に伴い製作されたもので、ナナミカの定番であるステンカラーコートと、それを機能的に収納するポーターのガーメントポーチがセットになっている。
ステンカラーコートには、ナナミカが2017年春夏に新素材としてリリースするナイロンゴアテックスファブリックを使用。品のあるルックスと優れた防水性を両立するとともに、非常に軽くコンパクトな収納を可能にしている。また「コートの裏面にはポーターを印象付けるオレンジカラーのデザインエレメントが施されています。フォルムも細かい部分を修正したオリジナル仕様です」(吉田カバン 広報部)とのこと。
付属のポーチはメーンファスナーのセンターに留め具とナイロンテープを配し、スナック菓子の袋を開けるようなワンアクションで簡単にファスナーを開けることができる点が面白い。フロント面がメッシュ地のため、空気が外に逃げるのでパッキングもスムーズ。デザイン性も高く、コート以外の荷物を入れて使うのもいいだろう。
このアイテムはPORTER STANDのほか、吉田カバンの直営店であるクラチカヨシダ3店舗(表参道、丸の内、大阪)と、ナナミカの直営3店舗で発売されている。
ビーミング by ビームス/使い勝手抜群のお得な5WAYアウター
ベーシックかつクリーンで洗練されたカジュアルスタイルを提案するビーミング by ビームスからは、5WAYのパッカブルアウターが登場。取り外し可能なフードが付いたステンカラーコートと、ダウンベストのライナーがセットになっており、5通りの着こなしができる。
コートの素材にははっ水・防風・透湿性に優れたディクロス マウリを採用。機能性とファッション性を追求して開発された素材のため、スーツにも難なく合わせられる上品さを持つ。
インナーベストには、注目度上昇中の河田フェザー社製のフレンチダックダウンを使用。非常に軽く、保温性も抜群。取り外して単品での着用も可能で、休日はパーカなどに合わせてカジュアルな着こなしにも活用できる。
そしてパッキングシステムも特徴的。ポーチは付属しておらず、なんとコートのフードにすべて収納できる作りになっているのだ。薄手で軽量なうえシワにも強い特性を生かし、ライニングベストを付けたままフードに収納できるパッカブル仕様。うっかりポーチを忘れて出かけるということがないので、旅行や出張などに重宝する。
この商品の主な購買層は「30~35歳の方です」(ビームス プレス)とのこと。ビジネスにもカジュアルにも使える品のあるデザインと汎用性の高さに加え、2万円台というお値打ち感も若い世代から支持されている理由だろう。
パッカブルとは思えないデザインと機能が魅力
以上、注目のパッカブルアウターを3つ紹介した。いずれも水に強く、ザ・ノース・フェイスとナナミカの商品はカッパとして使えるほど高い防水性を誇る。また、ビーミングに関してはパッカブルアウターとは思えない使い勝手の良さを持ち、それぞれビジネスにしっかり対応できる品のあるデザインだったこともわかったはずだ。従来のパッカブルアウターとは異なり普段使いできるため、パッカブル仕様であることを抜きにしても重宝することは間違いない。
このような高機能パッカブルアウターをビジネスバッグに常備しておけば、急な悪天候に右往左往することもないだろう。防水モデルを折りたたみ傘の代わりにバッグに忍ばせておくのも手。日中は暖かく、朝晩の冷え込みが厳しいこの時期こそ、パッカブルアウターが大いに役立つ。秋に買うアウターはパッカブルモデルが正解だ。
第1回 仕事で好印象「シワにならないジャケット」が売れている
第2回 かばんに常備で傘代わり 人気のたためるアウター3選
第3回 かばんに入れて持ち運べる「パッカブルなバッグ」
(ライター 津田昌宏)