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投資の方程式から導く若者の働き方(藤野英人) レオス・キャピタルワークス社長兼最高投資責任者

2016/10/18

「投資でも成果を出すには時間が重要な要素になる。ただ、時間で差がつかないと、教育など質の勝負になる」

大手広告会社に昨年入社した女性社員が過労のため自殺した問題を受けて、東京労働局の特別対策班が調査に入ったという報道がありました。若い人が亡くなるのは理由のいかんにかかわらず、残念です。それが長時間労働が原因であるならばなおさらです。

■成果を出すために「時間」は重要な要素

仕事をするときにはどうしても「時間」という要素が出てきます。1日は誰にでも平等に24時間与えられています。睡眠も必要だし、食事の時間も必要だし、物理的に24時間以上仕事をすることはできません。

このコラムで何度か「投資の結果=考え方×熱意×能力×時間×資金×回数×運×愛」という、私が考える投資の方程式を紹介させていただきましたが、成果を出すためには時間は重要な要素であるのは間違いありません。今回も明治大学で16年間教壇に立つファンドマネジャーとして、若者の教育や働き方について私見を述べたいと思います。

まず、残業を減らすために以下のような法律をつくったと仮定します。1日の労働時間は8時間プラス残業2時間までで、それ以上会社が残業を課した場合は1時間あたり正規時給の3倍の残業代を払うという内容です。

そうなれば、どんなにブラックな会社でも残業させればさせるほどコストがかかるので必ず残業時間を抑制していくでしょう。その場合、逆に長時間働きたいと思う人も会社が制止するので残業はできなくなります。

仕事で結果を出すのに時間で差がつかなくなれば、投資の方程式から導けるように、その人の考え方、能力、運などの質の部分が重要になります。そこでは教育環境や学歴が大きな要素となるでしょう。要するに、時間が一定であれば、生産性や付加価値の差のみが結果の差になるということになります。

人間は平等であるべきだし、命の重みも平等です。しかし、実際に同じ人間は誰一人いません。性別の差はあるし、体力や知力などの差もあります。どんなに優秀な遺伝子であっても、例えばシリアで爆撃に毎日さらされている環境では、まともに勉強はできません。より安全な日本でも、父親が理由なく子供に暴力を振るうような家庭ではどんなに潜在的に優秀な人でもそれを顕在化させるのは難しいでしょう。

人としての基本的な能力がほぼ一緒であっても、両親に手厚く教育を施されて愛情深く育てられた人と、毎日殴られて罵声を浴びせられた人とでは学力や学歴に差がついてしまうのは当然なわけです。さて、これが本当に平等な社会といえるのでしょうか。

学歴が芳しくなくても潜在的な能力がある人は、ある意味、社会に出て量でカバーするという戦略があります。要するに、質を量(時間)でカバーすることで、かなり多くのことは挽回可能なわけです。

■仕事の量に規制がかかると格差が固定される

仕事の量に厳しい規制がかかると、結果的に格差がより固定されるかもしれません。たまたま親の年収が高く、健康な肉体で生まれた子供とそうでない子供との格差が、なかなか挽回しにくい社会になるかもしれません。

おそらく格差是正のかなり少ないチャンスは、起業してサラリーマンの枠組みとは外れて、24時間365日働く世界観の中で存分に力を発揮することでしょう。実際に今までもそうやって一発逆転を果たした人たちはたくさんいます。私が知る限り、ベンチャー企業の経営者で親が裕福な家庭に育った人はむしろ少数派です。

では、労働時間に制限がかかっている世界の中で格差を是正するにはどうしたらいいのでしょう。ひとつは親の年収によらない教育機会の提供ですが、それを除くと結局、累進課税の強化しかないのだろうと思い始めています。健康で親に殴られることもなく安心して高い教育を受けることができ、幸いにして競争に勝つ機会に恵まれた運のいい人たちは、その力を存分に発揮して、存分に稼げばいいのです。

■恵まれた人たちが社会にお金を還元するシステムを

一方、そうした恵まれた人たちは一定以上稼いだお金を、そうでなかった人たちに還元するのです。たとえば、年収が2000万円を超えたら税率は5割、5000万円を超えたら7割にするのです。そうすれば、格差を相当縮めることができるように思います。

ただ、稼げる人のやる気をそぐのはよくないという意見も理解できます。一生懸命稼いでも多くが税金で持っていかれたらやる気を失うし、うんと稼げる人のやる気をそぐのは、社会的には損失も大きいわけです。そのためには、一定の納税額によって特別な勲章を与えるなどの名誉を付与することもひとつの方法だと思います。納税額の大きい人が尊敬される、というインセンティブはとても強力です。

さらにたとえば、年収2000万円を超える人は、超過部分の3分の1まで住宅・車の購入費や交際費、映画やコンサートや観劇費用を控除できるようにするのはどうでしょう。税制上のインセンティブを与えることで、消費を促進するのです。

長時間労働を規制する一方で、稼げる人はよく税金を払い、たくさん消費して、尊敬される――。このような枠組みの社会が割と良いのではないかと思います。

プロのポートフォリオは運用に精通したプロが独自の視点で個人投資家に語りかけるコラムです。原則火曜日掲載で、レオス・キャピタルワークス社長兼最高投資責任者(CIO)の藤野英人氏と楽天証券経済研究所所長兼チーフ・ストラテジストの窪田真之氏が交代で執筆します。
藤野 英人(ふじの・ひでと) レオス・キャピタルワークス社長兼最高投資責任者(CIO)。1966年生まれ。早稲田大学法学部卒。90年野村投資顧問(現野村アセットマネジメント)に入社。96年ジャーディンフレミング投資顧問(現JPモルガン・アセット・マネジメント)に入社。「JF中小型オープン」は1年間の上昇率219%を記録。驚異的なパフォーマンスを上げ、「カリスマファンドマネジャー」と呼ばれた。2000年ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントに入社。03年レオス・キャピタルワークス創業。CIOに就任。09年取締役、15年10月社長就任。明治大学非常勤講師なども務める。著書に「投資家が『お金』よりも大切にしていること」(星海社)など多数。

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