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プロスポーツの拡大均衡 クラブ運営の人材にこそ投資 Bリーグ大河チェアマン、インタビュー(上)

スポーツイノベイターズOnline

2016/11/7

(写真:加藤康)

野球、サッカーに続く、日本プロスポーツ界の新しい起爆剤として、各方面からも熱い視線が注がれている男子プロバスケットボールリーグ「B. LEAGUE」(以下、Bリーグ)が2016年9月22日に開幕した。

2015年9月15日に新リーグ名称を「Bリーグ」に、そして運営団体のジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ(JPBL)のチェアマンに日本バスケットボール協会(JBA)専務理事兼理事総長だった大河正明氏が就任することが発表された。銀行勤務からJリーグ事務局入りした大河氏が、再び辣腕を振るい、ゼロからつくり上げたのがこのBリーグである。その「元年」への思いと、将来のビジョンを聞いた。(聞き手は、上野直彦=スポーツライター、インタビューは2016年8月末に実施)

―― 大河さんは2015年9月15日にチェアマンに就任しましたが、Bリーグの最大の課題は何でしょうか。

大河 いろいろありますが、リーグを通してお客さんがたくさん来てくれるかどうかというのが一番の課題だと思います。それとBリーグには「代表が強くなれるリーグ」という大きな方針があります。バスケットボールの日本女子代表はリオデジャネイロ五輪で非常に活躍しましたが、男子は40年間、五輪に出場していません。Bリーグを男子の強化をうまく図る1つの武器にすることが次の課題だと思っています。

―― 観客動員の取り組みはいろいろあると思いますが、どこに力を入れていますか。

大河 やはりBリーグをどれだけ認知してもらえるかという点が大きいですね。そしてリーグを認知してもらうと同時に選手を売り出していかなければなりません。田臥(勇太)選手と五十嵐(圭)選手ぐらいしか一般的には知られていないという状況から、早くいろんな選手を覚えてもらおうと、ソーシャルメディアを中心に浸透させてきて、手応えを感じられるようになりました。そして開幕を控え、テレビや雑誌といったメディアも使い、ドーンとBリーグの認知度と選手の売り出しを図りたいです。

―― 実際に観戦してみて、やはり、会場で生の試合を見る機会を増やすことも課題と感じました。

大河 現在、B1リーグ(Bリーグ1部)に所属しているチーム同士の試合で入場者数は平均2000人くらい。そのうちの半分以上がバスケットボール経験者や、もともとバスケットボールに興味を持っている人のように思います。あれはトラベリングだとか、ファールだとかいう声が観客席からすぐ飛ぶのが目立ちますので。初めて来た人はそういうことになかなか気づきません。だから、もっともっと初めて観戦に来る人を増やしたい。

やはり、ソーシャルメディアでの情報拡散は効果が大きいと思っているので、リーグ戦が始まってからも力を入れていきます。同時に、各チームには、例えば田中大貴選手や比江島慎選手といった売り出したい選手がいます。バスケットをやっていた、やっていないに関係なく、そういった選手を見たいというお客さんが来るようになるといいですね。

―― 大河チェアマンは銀行勤務を経てJリーグ事務局に入り、各クラブの経営面の審査などで手腕を発揮してきました。Bリーグが良いスタートを切るために、特に経営面で取り組んでいる点はどこでしょうか。

大河 基本は拡大均衡にもっていきたいです。そのためには、まずクラブの収入を増やさなければなりません。リーグ運営側からクラブへの配分金は確保できるとしても、それ以外にスポンサーの協賛金や入場料による収入を増やす必要があります。そのためには、どんな試合がいつどこで開催されていて、「試合を見に来ていただくと、こんな楽しいことがあるんですよ」ということを、世の中の人に知ってもらうことが必須です。

(写真:加藤 康)

リーグの運営本体がやれることは、ソーシャルメディアを含め、テレビや新聞でBリーグを露出したり、取材を受けたりするといった「空中戦」です。一方で「地上戦」は各クラブがやらねばなりません。地上戦を実行するためには、クラブにそれなりのスタッフが必要ですよね。どちらかというと、クラブは「試合を運営して選手を集める」という取り組みに多くの経営リソースを割きがちです。

でも、実際に大切なのは協賛パートナーを集めて来る人、チケット販売の能力がある人で、クラブはそういう人材にぜひ投資してほしいと思っています。

BリーグではB1のクラブに平均5000万円程度を配分できると思うのですが、それをすぐに選手の人件費に充てるのではなく、その中の何割かはスタッフの人件費に投資しないといけません。要は、3000万円稼いで来る人、5000万円稼いでくる人を採用すれば、500万円、1000万円をスタッフの人件費に充てていいわけじゃないですか。それが拡大均衡ですよね。

今までと同じスタッフで同じことをやっていても、突然観客数が増えたり、良いことが起きたりするわけではありません。Jリーグの始まりの時のようにバブル時代であれば別ですけど。それなりの戦略を持ってクラブの経営をしてほしい。プロスポーツの商売では、やはり選手だけではなく、クラブを運営する人材にも投資すべきです。それを間違えて選手だけに投資しているとダメで、営業や広報といったスタッフに投資してほしいと伝えています。

クラブの主な収入源は協賛金と入場料です。それ以外にもスクールや物販の収入はありますが、お客さんをいかに増やし、どれだけ協賛パートナーを増やすかが大きな課題です。「じゃあ、それを誰がやるの?」と。その担い手がいなければそこは増えないです。

―― 米国のやり方にすごく近いですね。

大河 もう少し言うと、サッカーでも野球でもいいのですが、プロスポーツのビジネスの中でクラブ運営の優秀な人材がもっと増えてきて、そういう人たちの中からクラブの社長が出てきて、GM(ゼネラルマネジャー)が出て、というような世界にしなければならない。

Jリーグは、いわゆる親会社からの天下りの社長がまだ半分いるんですよ。それでは本当に大きくならない。例えば、Jリーグのトップクラブでもきちんとしたプロのスタッフをそろえれば、「100億円クラブ」になります。要するに、僕らが一番に顔を向けるべきはファンです。その次に向けなければならないのは協賛パートナーであったり、試合を放送していただいているテレビ局であったり、そういうところです。最後に親会社があれば親会社ですが、一番に親会社を見ているような経営をしたらいけないということです。

プロ野球も最近のチームは違うところがありますが、どちらかというと親会社のための広告塔としてやってきたので、そういう伝統があります。実は、Bリーグの本当の強みはクラブの社長が若いことです。親会社からの出向者もいますけど、そういう割合が圧倒的にサッカーなどに比べると少ない。そこに僕は可能性を感じています。

―― Bリーグの初年度予算はだいたいどのくらいですか。

大河 50億円前後と思います。

―― 将来的には300億円の市場になるという夢をお持ちだと聞いていますが、今の段階で大河チェアマンだからこそ分かる手応えというものはありますか。

大河 手応えというか、世の中が変わるかもしれないなと思っているのは、しっかり観戦できるスタジアムやアリーナを造って、スポーツを産業化していきましょうと話が盛り上がっているじゃないですか。国もスポーツの産業化を考え始めているというところに手応えを感じます。

バスケットボールの話でいうと、アリーナスポーツであるということと、シーズンが野球やサッカーの逆であるということに潜在能力があります。かつ国内の競技人口が非常に多い。それが結果に出てこないとおかしい、という思いはあります。

―― Jリーグで仕事をされていた時代とは、スポーツを取り巻く環境がずいぶん変わったと思いますが、Jリーグでの経験は今、どういうところに生きていますか。

大河 僕は1995~97年と、2010~15年の2回、Jリーグに在籍していたわけですが、やはりJリーグは試合を見せるという点がベースになっています。そのために試合日程を世界の大会と合わせながらどう組んでいくかや、高校や中学校の部活ではなく各クラブが自前でユースチームを持って選手を育てていくようなことは、僕はJリーグで直接担当はしていないですが、よく見てきた部分です。あとは行政との関わりであるとか、いわゆる経営基盤を安定させるとか、そういったところはずっとクラブを見てきましたので、今でも非常に役に立っています。

―― 逆に、当時と環境が違うが故に取り組み方を変えている部分はありますか。

大河 BtoC(消費者向け)ビジネスとして、顧客情報データベースの構築に着手しています。リーグの来場者であったり、オンラインでグッズを買って決済している方であったり、もっと言えば日本代表の試合やウインターカップ(全国高等学校バスケットボール選抜優勝大会)を観戦に来たりしたファンにIDを付与するのです。世の中のビジネスでは当たり前になっていますが、今までサッカーでは実現できていませんでした。

試合の放映はテレビ局にお世話になっているのですが、スポンサーのソフトバンクとのご縁ができたことによって、スポーツの視聴がテレビだけではなくスマホであったり、パソコンであったりと、多様化していくでしょう。そういった点はチャレンジングだと思います。

―― モバイル向けのインターネット配信で、どこでも試合が見られるのは相当大きなことですね。

(写真:加藤 康)

大河 スポーツ観戦はやはり生が一番ですが、外出先でも見られるのは大きな進化です。この話がなければ、英パフォームグループとJリーグとの(ライブストリーミング放映権契約)話もいつ出てきたか分からないな、という感じだったと思います。今回、ソフトバンクから声をかけていただいて、一緒にやっていこうとなったのは運命なのかもしれません。

―― Jリーグのクラブライセンス制度をBリーグにも導入しました。そのあたりもJリーグでの経験が生かされているのでしょうか。

大河 先程も「空中戦」と「地上戦」にたとえましたが、クラブは「地上戦」が強くないとダメです。各クラブのクラブライセンスは「要件が満たさなければ落とす」ことを目的にしているわけではなく、「こういう要件に合致するクラブをつくっていくことでクラブの質も上がるし、リーグ戦の質も上がりますよ」という指標を示しているわけです。競技は違ってもやるべきことはほぼ一緒ですから、そのまま役立てています。

クラブ経営者とのコミュニケーションは一番大事だと思っているので、地方にある数多くのチームにも足を運んでいます。

[スポーツイノベイターズOnline 2016年9月21日付の記事を再構成]

大河正明(おおかわ・まさあき)。1958年生まれ。1981年3月に京都大学卒業後、三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)に入行。1995年5月に日本プロサッカーリーグに出向し、総務部長。その後、同銀行に戻り、2010年10月に退行、日本プロサッカーリーグに入社。管理統括本部長などを経て、2014年1月に同リーグ常務理事。2015年5月に日本バスケットボール協会 専務理事 事務総長。同年9月にジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ 理事長
上野直彦(うえの・なおひこ) スポーツライター。兵庫県生まれ。ロンドン在住時にサッカーのプレミアリーグ化に直面しスポーツビジネスの記事を書く。女子サッカーやJリーグを長期取材している。 『Number』『AERA』『ZONE』『VOICE』などで執筆。Twitterアカウントは @Nao_Ueno

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