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芸術の秋に新たな出合いも

立川吉笑

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NIKKEI STYLE

毎週日曜日にリレー連載させていただいている立川談笑一門のまくら投げ企画。秋ということもあってか、師匠からいただいた今回のテーマは「芸術」。あまりない引き出しを開けてみましょう。

芸術。

そう聞くだけでかっこよく感じるし、オシャレに感じるし、知的に感じるし。やっぱり昔からぼんやり憧れているけれど、実際は友達に勧められたらたまに美術館に行くくらいで、あまり通っていないジャンルです。

持ってる図録は3人分だけ。デュシャンとマグリットと牧野邦夫さん。

デュシャンとマグリットはめちゃくちゃ有名だし興味がある人も多いと思うけど、牧野邦夫さんはもしかしたらあまり知られていない画家なのかもしれません。そもそも僕は芸術の世界についてほとんど知らないから、牧野邦夫さんが有名なのかそうじゃないのかすら判断しかねるのですが、例えば「デュシャン」とググったら25万件がヒット、「マグリット」だったら100万件がヒットするにもかかわらず「牧野邦夫」とググっても1万2千件しかヒットしない結果から考えると、少なくとも2人に比べると知名度は低そうです。

今回はそんな牧野邦夫さんについて紹介させていただきます。

2013年に催された練馬区立美術館での「牧野邦夫-写実の精髄-展」で僕は初めて牧野邦夫さんのことを知りました。

若いころの作品はとにかく写実的で、素人の僕から見てもずば抜けた技術を習得されている方なのだろうと感じました。それが年を経るごとに、少しずつ幻想的な要素が写実的な絵の中に介入するようになってきて、やがては現実と幻想が入り交じった作品が目立つようになってきます。

この連載でもたまにそういった書き方をしますが、僕は幻想的なモノに強く引かれる傾向があって、落語でもそういう表現をやっていきたいと常々思っています。だからこそ、圧倒的な描写力でもって、あり得ない幻想世界に現実味を感じさせる牧野邦夫さんのことが一気に好きになりました。

所々に配置されたキャプションを読んでいくと、牧野さんはストイックにひたすら作品制作に没頭されていたことが分かりました。

「一日12時間以上描かなければ歴史に残る画家にはなれない」

という恩師の教えを生涯守ったらしく、これは落語家として非常に耳が痛いです。

また、50歳のころから描き始めた「未完成の塔」と名付けられた見るからに大作と分かる作品は、五層ある塔を10年ごとに一層ずつ仕上げる計画、つまりは90歳代になってようやく完成させられるくらいの長期的なスパンで日々制作にいそしまれていたようです。これも落語家として非常に耳が痛いです。

「自分も牧野さんくらいの熱量で落語に取り組まなくちゃいけないなぁ」

とヒリヒリ感じさせられながら、後半の展示ゾーンにやってきました。そこに置かれていた牧野邦夫さんの手紙を読んで僕は完全にこの画家のとりこになりました。

便せんにしては大きい、スケッチブックのようなものに書かれた癖のある字を少しずつ読んでいくと、どうやらそれはレンブラントに宛てて書かれた手紙のようでした。

レンブラントといえば僕でも「夜警」という作品を知っているくらいに有名な画家です。牧野邦夫さんはレンブラントのことをめちゃくちゃ尊敬されていたらしく、そのレンブラントさんに

「展覧会が終わってからというもの制作が思うように進んでいません。全ては自分の怠惰によるものです。自分が情けないです。すみません」

といった反省文みたいな手紙を出されているようでした。

ストイックな牧野さんでもやっぱり思うように作品制作に取り組めないこともあるんだな、などと思いながら手紙を読み進めているうちに、ふとした違和感を持ちました。

その違和感はレンブラントからの返信を読んでいる最中に確信へと変わりました。

レンブラントから牧野さんに宛てられた返信には

「キミには心底がっかりしたよ。そんなことなら画家なんか辞めてしまえ」

というような厳しい言葉が、日本語で書かれていました。日本語で?

「え? レンブラントが日本語で返事を? あれっ?」

もしかして……と思って調べると、そもそも牧野さんは1925年生まれ。それに対してレンブラントは1669年に亡くなっていることが分かりました。牧野さんが生まれるずっとずっと前に、レンブラントは亡くなっていたのです。二人は生きている時代が全然違うのです。

それなのにレンブラントが好き過ぎた牧野さんはレンブラントに宛てて届くはずもない手紙を書いて、さらにはレンブラントからの返信すらも自分で書いて、という一人文通を何度もやっていたようなのです。完全にヤバい人です。

垣間見えたそんなエキセントリックな一面も含めて、僕は牧野邦夫さんのことが大好きになりました。この人、面白い!

そんな牧野邦夫さんの「牧野邦夫-写実の精髄-展」を僕に教えてくださったのは、かねてよりお世話になっている放送作家の倉本美津留さんです。

好きなモノは好きと言わなくちゃ気が済まない倉本さんは、僕以外にも大勢の方にこの展覧会のことを勧められたようで、練馬区立美術館では明らかに倉本さんに教えられて来られたと思えるお笑い芸人さんや歌手の方とたくさんすれ違いました。

作品を一通り見終えた僕は感激しながら倉本さんに、どうやって牧野邦夫さんを知ったのか聞いてみました。

すると返ってきた答えは、ずいぶん前に表参道の喫茶店でお茶をしていたらその店に飾ってあった一枚の絵にものすごく引かれて、作者は誰か気になって調べたところそれが牧野邦夫さんだったとのことでした。

家に帰って倉本さんはすぐに牧野さんの情報を集めようとされたけど、以前催された展覧会の図録が一冊出版されているくらいで詳しい情報はほとんど手に入らなかったそうです。

それでも以来ずっと頭の片隅に「牧野邦夫」という名前を記憶されていた倉本さんは、だからこそ二十数年ぶりに東京で開催される展覧会の情報も見事キャッチされたのでした。

喫茶店に何気なく飾られた一枚の絵を見落とさず、また気になったものについてはとことん深堀りしていく倉本さんの姿勢は見習いたいと思っています。

芸術の秋。

美術館に出かけることも良いでしょうが、普段目にしているあれこれに改めて感心を寄せてみてはいかがでしょうか? そこにはもしかしたら新しい出合いが潜んでいるのかもしれません。

(次回、10月23日は立川談笑さんの予定です)

立川吉笑(たてかわ・きっしょう) 本名、人羅真樹(ひとら・まさき)。1984年6月27日生まれ、京都市出身。180cm76kg。京都教育大学教育学部数学科教育専攻中退。2010年11月、立川談笑に入門。12年04月、二ツ目に昇進。出囃子は東京節(パイのパイのパイ)。立川談笑一門会やユーロライブ(東京・渋谷)での落語会のほか、『デザインあ』(NHKEテレ)のコーナー「たぬき師匠」でレギュラーを務めたり、水道橋博士のメルマ旬報で「立川吉笑の『現在落語論』」を連載したり、多彩な才能を発揮する。ホームページは、http://tatekawakisshou.com/

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