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B・ディラン氏がノーベル文学賞 「近代の分裂」癒合

米文学者 佐藤良明

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考えてみれば、ボブ・ディランは、最高の文学的栄誉に輝いて当然のことを成し遂げている。

1960年代の混迷期に出現した彼は、言葉によって若者たちを導き、文化の流れを変えた。詩心のある世界の若者は、彼に触発され、ギターをもって自作の歌を歌い出したし、すでに歌っていた(ビートルズらを含む)者たちは、詞を真剣に考え始めた。創作することが、ディランとともに魅力を増し、魅力という力が社会を動かすようになった。

分かれる評価

19世紀の詩人ホイットマンのように、ディランは強烈な自我を歌い、演じた。「風に吹かれて」や「時代は変わる」等のメッセージ・ソングでフォーク界の寵児(ちょうじ)になったのは20歳そこそこでの話。ロックに転向すると共にシュルレアリスムの影響ゆたかな詩文をまき散らし、かと思うとロック純粋派も裏切って、カントリー音楽に接近した。

だがディランの奔放な動きの跡を後世からふり返ってみると、それまで対立していたものが癒合されていることに気づく。田舎の音楽と都市の音楽が、伝統の言葉と前衛の言葉が、民衆の文化とエリートの文化が、近代における分裂を乗りこえてつながり合う過程を見ていくと、流れの先頭に、いつもディランがいるのだ。

その業績が「ノーベル文学賞もの」かどうか、評価は分かれるだろう。それは「文学的秀逸さ」というものが、音楽の場合よりもっと純粋に、エリートの閉域に閉じこもる傾向を保ってきたためである。そして、言ってしまえば、その閉じこもりの象徴がノーベル文学賞選考委員会だったからだ。

戦後のアメリカで、この閉域を打ち破る文学運動を主導したのが、詩人アレン・ギンズバーグである。彼は文学の力の根源を、声と身体に引き戻すことで、詩的コミュニケーションの直接性を取り戻し、「ビート」と呼ばれる新時代の文学的魅力を創造した。その流れを、メディアを利用して、最大限に推し進めた立役者がディランだ、ともいえる。その結果、ディランの影響は、「孤高の詩人」たちよりも、ギターを抱えた素人・玄人の唄歌いの間にむしろ広がっている。そこに文学の理想を見るか、それとも衰退を見てとるのか。

そもそもノーベルは文学賞を「理想的な方向で最も傑出した」文学的業績に対して与えるようにと遺言した。過去の受賞者のリストには、「理想的」の解釈をめぐって、歴代のスウェーデン・アカデミーが揺らぎ続けてきた跡が記されている。

大衆へのアピールという方向に揺れた時代もあった。30年にアメリカから選ばれたシンクレア・ルイスは、風刺に長(た)けた人気作家。同じくパール・バックも広い読者層に感動を与えるタイプの作家である。

このところの選考委員会を縛ってきたのは、非西欧圏、およびメディアの注目から外れたところからの逸材発掘という「理想」である。その影響なのか、21世紀になってからは、クッツェーやバルガス・リョサのような有名作家の受賞はむしろ稀(まれ)になった。アメリカに限定すると、40年前のソール・ベロー(彼もユダヤ系だが)を最後に、国内生まれの英語で書く作家としては黒人女性のトニ・モリソンが受賞しただけ。その間に、世界の書店の書棚におけるアメリカ作家のシェアはずいぶん増えていると思えるだけに、スウェーデン・アカデミーの反アメリカ・反ポップ的傾向が取りざたされてきた。

文学は変わった

問題はきっと、非常に大きい。iPS細胞が人類に貢献するのと同じ意味で、優れた文学が人類全体を導くことができるとは、すでに信じられていないようなのだ。

ディランの予言通りに時代は変わり、大学の文学部は、詩や小説に加え、映画、ポピュラー音楽、ファッション等を対象とした文化研究の場に移行しつつある。

流れはもはや止められまい。ここ数年ノーベル賞の主要候補として取り沙汰される村上春樹もまた、ディランの登場と同時並行的に現れた文化潮流の中で、新しい文学を開拓してきたひとりである。音楽、映画、フィクション全般にわたる、アメリカ起源の、グローバルなテイストに訴える作品を彼は磨き上げてきた。

■一種の無血革命

現代の私たちにとって「文学」もまた、すでに商業文化の外側に位置するものではなくなっている。文学の文脈が変わったのであって、その変化を生み出す中心にディランがいた。そのディランを、過去数十年、むしろ反商業的スタンスを強めてきたノーベル文学賞が顕彰してしまったのだ。一種の無血革命が起こったのだといえる。

フォーク純粋派をロックのビートで染めた男が、そのざらついた声で純文学を染め、文学もまたポップな帝国の中にあるという、資本主義先進国の常識を、改めて世界に印象づけたのが今回の出来事である。往年の若者たちの革命が半世紀を経て、ストックホルムでその総仕上げの儀式を行う。そこでスポットを浴びるのも、やはりディランというわけだ。

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