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バイオリニスト三浦文彰 『真田丸』テーマ演奏を語る

2016/10/15

バイオリニストの三浦文彰さん(23)がNHK大河ドラマ「真田丸」のメーンテーマ曲を弾いている。2009年に世界最難関といわれる独ハノーファー国際コンクールにおいて史上最年少16歳で優勝を果たし、国内外での活躍が目覚ましい。リハーサルの合間に「真田丸」からシューベルト、バッハまで、バイオリンの音楽について聞いた。

「最初に譜面を見たときに、バイオリン協奏曲みたいな格好いい曲なんだろうなと思った」。三浦さんは「真田丸」のオープニングを担うメーンテーマ曲についてこう話し始めた。作曲は服部隆之さん。「真田三代」の三代目、信繁(幸村)のドラマにふさわしく、祖父の服部良一、父の服部克久に続く3代目の作曲家だ。大河ドラマにしては珍しいバイオリン協奏曲ふうの音楽になっている。「協奏曲のように書くつもりだったと服部先生から聞いた」と言う。ただ、協奏曲はオーケストラから始まるのが普通であり、冒頭からいきなりバイオリン独奏が登場するのは異例ではある。

バイオリン協奏曲ふうの「真田丸」

「真田丸」やバッハについて語るバイオリニストの三浦文彰さん(右)。聞き手は池上輝彦(9月28日、東京・銀座のヤマハホール)=撮影 大川原健

「(服部隆之さんから)土臭さがほしいと言われ、どう具体的に音にしていこうかと考えた」。戦国時代の大河ドラマでは、大編成のオーケストラが勇壮に鳴らす音楽が多い。1988年の「武田信玄」(山本直純作曲)、2007年の「風林火山」(千住明作曲)などはマーラーやチャイコフスキーの交響曲を思わせる迫力のあるヒロイックな音楽だ。「真田丸」は「ストラヴィンスキーやショスタコーヴィチなど、もう少し後の時代の作曲家の作品を思わせるところがあって、和声の進行もそんな感じがある」と話す。三浦さんが得意とするシベリウスの「バイオリン協奏曲ニ短調」も引き合いに出して、「荒々しさがある」と指摘する。

ただ、協奏曲仕立てなのでオーケストラの響きに加え、細くて鋭い独奏バイオリンの音色も縦横無尽に糸を張る。バイオリン1本による音の線が細くても、戦国武士の気概を示すためには「土臭さがほしい」ことになる。徳川家康ら大名に対し、信濃の一国衆にすぎなかった真田一族が知略と策謀を駆使して戦う。そんな様子が、下野竜也指揮NHK交響楽団のサウンドに独奏バイオリンが挑むような音楽に投影される。「録音を終えて、ドラマで流れているのも聴いて、本当に素晴らしい曲だと思った」と三浦さんは話す。

バッハの「無伴奏バイオリンのためのソナタ第3番」を弾く三浦文彰さん(9月28日、東京・銀座のヤマハホール)=撮影 伊藤義人

三浦さんは今年、長野県上田市をはじめ真田一族ゆかりの長野県各地で「真田丸」のテーマ曲を含むリサイタルを重ねる。だが10代から天才バイオリニストとして世界的に注目を集めてきただけに、欧州をはじめ海外でも多忙な演奏活動を続けている。9月28日、ヤマハホール(東京・銀座)でのリハーサルの合間にインタビューに応じた三浦さんは「時差ボケで眠くてたまらない」とこぼした。この日は翌9月29日の「三浦文彰バイオリン&ビオラ・リサイタル~江口玲とともに~オール・シューベルト・プログラム」に向けてのリハーサルだった。ビオラも弾くのかと尋ねると「ハノーファーで優勝した後、18歳ごろに始めた」と話した。

ビオラはバイオリンよりも低く、チェロよりも高い中間音域を鳴らす弦楽器。バイオリンより地味で控えめな弦楽器ともいえるが、三浦さんは「ビオラを弾けば、室内楽の演奏でも周りの音をさらによく聴けるようになる」と指摘する。「バイオリンを弾く上でも良い影響しかない。よりよい音を求めていけるようになる。オーケストラと共演するバイオリン協奏曲を弾くにも役に立つ。バイオリニストはみんなビオラをやった方がいい」と語る。

バッハの無伴奏曲に畏怖の念

「三浦文彰バイオリン&ビオラ・リサイタル~江口玲とともに~オール・シューベルト・プログラム」での三浦文彰さん(左)とピアニストの江口玲さん(9月29日、東京・銀座のヤマハホール)=(c)Ayumi Kakamu

今年は初期ドイツロマン派の作曲家シューベルトの楽曲にも力を入れ、ヤマハホールでは全曲シューベルトのプログラムを組んだ。「シューベルトの曲は弾きづらい。奏法に工夫が必要だ」と言う。「自分の納得のいく音を作るのに苦労する。曲によって(音符や指示が少なくて)譜面がけっこう真っ白なのがある。フレーズをどう作ればいいか考えさせられる」。超絶技巧のチャイコフスキーの「バイオリン協奏曲」などとは異なるシューベルトの表現の難しさに挑んでいる。

この日、三浦さんはリハーサルの前にJ.S.バッハの「無伴奏バイオリンのためのソナタ第3番ハ長調BWV1005」を弾いた。「バッハの無伴奏曲は人前ではめったに弾かない。明るい曲の方がいいですね」と言いながら、同曲第4楽章「アレグロ・アッサイ」のきらめくような、疾走感あふれる音楽を奏でた。「一度、無伴奏曲のリサイタルをしたことがあるが、とんでもなく緊張した」と話す。「バッハがいなければその後の音楽も無かった」と言うほどバッハを畏怖し尊敬しているからこその慎重さだ。「うちではいつもバッハを練習している」。バイオリンの聖典といわれるバッハの無伴奏曲への忠義を貫く姿勢から、弦楽器界の若武者のさらなる活躍ぶりが見えてきそうだ。

(映像報道部シニア・エディター 池上輝彦)

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