映画『デスノート』 続編が10年ぶりに作られた理由
デスノートの力で世界平和を目指し"キラ"と呼ばれた夜神月とそれを阻止しようとした世界屈指の名探偵L。「正義」を懸けた天才2人の死闘を描いた映画から10年。その続編映画が、10月29日から全国公開された。
このノートに名前を書かれた人間は死ぬ――。原作・大場つぐみ×マンガ・小畑健のタッグにより『週刊少年ジャンプ』(集英社)で連載されたマンガ『DEATH NOTE』。その完結直後から展開された映画とアニメはブームともいうべき反響を生み、『デスノート』は誰もがその物語を知る作品になった。
再始動は2015年。春にミュージカル、夏にはテレビドラマを放送。映画の続編制作決定の一報が流れると、SNSを中心に瞬く間に話題を独占し、関心の高さを浮き彫りにした。新作映画では前作から"10年後"の物語が描かれる。
10年後、6冊のデスノートを巡る戦いを描く
2部作で興行収入80億円の大ヒットを記録した前作の正統的続編かつ、オリジナルストーリーで描く映画『デスノートLight up the NEW world』(ワーナー・ブラザース映画配給)。監督には、マンガ原作の『GANTZ』シリーズ(11年)や『アイアムアヒーロー』(16年)の実写映画化を成功に導いたヒットメーカー・佐藤信介を迎え制作された。
そもそもなぜ今『デスノート』なのか。前作から引き続き今作でも企画・製作を主導する日本テレビの佐藤貴博プロデューサーも、「06年の映画2部作と08年の番外編で我々も『デスノート』は終わったつもりでした」と口にする。しかし、11年に日テレ×佐藤監督で制作した『GANTZ』シリーズの成功を受け、「次は佐藤監督でオリジナルかつエンタテインメント大作を、という話になり『デスノート』が思い浮かんだ」(佐藤プロデューサー)のだとか。
前作から10周年のタイミング
企画の浮上は12年末、13年頭には原作側の集英社にオファー。同社のライツ事業部の稲生晋之氏は、「映画は映画で完結しているし、主人公はどうするかなど疑問はありました。しかし日テレさんは前作で実績も十分ですし、プロットも確認し、日テレさんにお任せしよう」とゴーサインを出した。16年に映画化10周年を迎えることも後押しとなり、続編制作は本格的に始動する。
では、具体的にどう作っていったのか。「もう一度作り直すことは全く考えておらず、ルールや10年前に起こった事実は変えずに月とLのその後の物語を描く」(佐藤プロデューサー)のが大前提。「1歩目からゼロベース」(佐藤監督)で始まったというアイデア出しの作業は1年ほど続いたのだとか。
「"紡ぎ上げていく"作業がしたくて、様々なアイデアを脚本の真野(勝成)さんたちと持ち寄って、いいところをピックアップしていったんです。そこで最初に真野さんから出たアイデアが『人間界で同時に存在していいのは6冊まで』という6冊ルールだった。実は彼はデスノートおたくで、ルールを熟知していて。最初の映画は1冊から2冊へ、今回6冊(全て)が出てくることで、封印=エンディングが目指せると」(佐藤監督)。
この"6冊ルール"は原作本編では触れられていないが、新設定ではなく、コミックス9巻74話の後にさらりと登場していた、いわば裏設定のひとつ。「もともと大場先生も使うつもりはなく、『これが来たか! 大変じゃない?』と(笑)。今後、もし続きを書くようなことがあっても使うつもりはないということでOKが出ました」(集英社編集担当・片山達彦氏)。
そして、6冊のノートを巡る三つ巴の戦いを軸にストーリーの骨格が積み上げられていき、「初めから構想はあった」(佐藤監督、以下同)という結末へ向けて、物語のピースは埋められていった。
三つ巴の死闘を演じる3人には、デスノートを追う刑事・三島役に東出昌大、Lの後継者・竜崎役に池松壮亮、そして月の信奉者・紫苑役には菅田将暉がキャスティング。
「3人からはプレッシャーより『やりたい!』という熱意や意気込みを感じて。竜崎は等身大とは遠くフィクション性が高いし、三島は理想を求める豪快さがあるなど、未知のキャラクターを作ることは難しかった。だが紫苑の衣装とかそれぞれアイデアもどんどん出してくれて、熱かったですね」と撮影時を振り返りつつ、「前作は月とLの天才同士のぶつかり合い。今回は三つ巴にすることで、ノートによって善も悪も思惑も引っ掻き回される人間の愚かさ──(死神)リュークが『人間って面白!』とよく言っていますが、そんな判然としないところも映画として描き出したかった」と続けた。
さらに、佐藤監督、佐藤プロデューサーともどうしても描きたかったのが、10年後の弥海砂(戸田恵梨香)の姿だ。最初は出演を固辞していた戸田だが、現場ではセリフを目で表現するなど、その姿はまさに海砂そのものだったという。リュークとともに前作と今作をつなぐミッシングリンクの役割も果たす彼女の登場は、長年のファンならずとも気になるはずだ。
16年の社会状況を反映
映像表現は、「金子(修介)監督のスタイルをリスペクトしながら、前作のマネにならないようにしました。現代ならではの、リアルでソリッドなテイストを目指した」と佐藤監督。リュークのデザイン一新もその一端だ。
「どんなものにしたかったかと言うと、スーパーリアリズムの死神です。映像の光の中に浮かび上がり、グーッと近づいたらにおいがし、また触りたくなるような質感が出せればと。愛しくて、かわいくて、でも最後はゾッとする…。前作ともドラマとも違う表現です」
この10年で進化したCG技術とアナログの融合で、大掛かりで派手なアクションシーンも満載。頭脳バトルも白熱する、真にエンタテインメントな大作が完成した。
「原作や前作は日本にたまたま落ちてきた1冊のデスノートが事件を起こす、という物語。今回は東京を客観視し、"世界の中の日本"という見え方に。ネット社会の今だからできる『デスノート』になっていると思います」
(日経エンタテインメント!平島綾子、ライター 山内涼子)
[日経エンタテインメント! 2016年11月号の記事を再構成]
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