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14回目となる国内航空宇宙産業の展示会「2016年国際航空宇宙展(JA2016)」が12日、東京ビッグサイト(東京・江東)で開幕した。今回は31カ国・地域から過去最大の792社・団体が参加。初日には三菱重工業の大宮英明会長が「日本の航空宇宙産業~半世紀ぶりの国産旅客機を開発して」と題して、子会社の三菱航空機(愛知県豊山町)が開発を進める国産初のジェット旅客機「MRJ」の進捗状況などについて講演した。

大宮会長は冒頭、自らが技術者として開発に携わった「CCV(運動性能向上)研究機」が1983年に初飛行した際のビデオを上映し、機体の電子制御に失敗したことに触れて「物理法則は決してだませない。この飛行試験以来、ものづくりは真摯であることが一番大切であると思い続けている」と強調。MRJについては、「私たちは50年ぶりの国産旅客機の開発を必ずや成功させる」と力を込め、航空宇宙部門出身者としての思い入れをにじませた。

国際航空宇宙展の自社ブースで来賓にあいさつする三菱重工の大宮英明会長(右)

国際航空宇宙展の自社ブースで来賓にあいさつする三菱重工の大宮英明会長(右)

MRJは座席数70~90席、航続距離約1800~3700キロメートル。国内線や近中距離の国際線などでの運航を想定する「リージョナル機」だ。米プラット&ホイットニー(P&W)の最新鋭エンジンを採用するなどして、従来機に比べて燃費性能を2割向上したのが特徴。2015年11月に初飛行した。

初号機を導入するANAホールディングスをはじめ、日本航空や米スカイウエストなど、これまでに約430機(キャンセル可能なオプションなどを除く確定分は約230機)の受注を獲得。大宮会長は「開発中にこれだけ多くの受注を得ており、日本の技術と当社への期待の高さを感じている」とする。

リージョナル機は世界で今後20年間に約5000機の需要が見込まれる。このうち、MRJに相当する70~90座席級の需要は3500機程度と見られており、三菱航空機の堀口幸範副社長は「まずは1000機以上を目標として、このクラスで40%以上のシェアを狙いたい」と話す。

成長市場であることに加え、MRJの部品点数は1機あたり100万点と、自動車の約30倍に上るだけに、「航空機産業は製造業の頂点に位置する付加価値の非常に高い産業」(大宮会長)として、大きな波及効果が期待されている。

ただし、開発は遅れている。ANAがMRJ導入を決めた08年当時は13年の就航をめざしていた。しかし、設計の見直しなどをたびたび迫られ、これまでに4回、納期延長を繰り返してきた。初号機引き渡しは18年半ばを予定するが、5回目の延長もささやかれ、引き渡しが19年以降にずれ込む可能性も指摘される。

MRJの開発費はすでに当初計画の2倍を超える3000億円規模に上るという。開発が遅れればそれだけコストが膨らみ、1機47億円ともされる価格に上積みされることになる。

リージョナル機の大手、ブラジルのエンブラエルもMRJと同じクラスの新型機を開発中。MRJと同じタイプのP&W製最新鋭エンジンを搭載するため、高い燃費性能というMRJの優位性も色あせかねない。

MRJは従来機にはない快適な客室空間をめざした(国際航空展で展示された実物大模型)

MRJは従来機にはない快適な客室空間をめざした(国際航空展で展示された実物大模型)

こうした開発遅延による影響について、三菱航空機の堀口副社長は「既存顧客ともコンタクトをしっかり取っており、大きな問題はない。新規顧客開拓についても、同様に大きな影響は出ていない」と話す。

実は三菱重工が民間ジェット機に挑戦するのはMRJが初めてではない。1978年に初飛行した国産初のビジネスジェット機「MU300」(海外名「ダイヤモンド」)を開発した実績を持つ。

MU300はその性能が高く評価され、一時は100機を超える受注を獲得した。しかし、商業運航に必要な米連邦航空局(FAA)からの「型式証明」の取得に手間取ったほか、米国の景気後退の影響などで発注取り消しが相次ぎ、88年に米社に製造権を全面譲渡。事業としては失敗に終わった。

このMU300の型式証明取得に必要なデータづくりに携わったのが若き日の大宮会長であり、米国での審査の対応にあたったのが、やはり航空宇宙部門出身の元会長、西岡喬氏だった。西岡氏は社長時代、MRJ開発の出発点となった経済産業省が推進する国産ジェット旅客機の研究開発プロジェクトへの参加を決めた他ならぬその人だ。

MU300はその後、米空軍の練習機に採用されるなどして、これまでに三菱重工分も含めて900機あまりが生産されたという。優れた性能はビジネスの成功を約束してくれるわけではない――。MRJはMU300=ダイヤモンドの失敗を他山の石とできるだろうか。

(平片均也)

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