外貨投資

為替にチャレンジ

米ドル相場の先行きは 円高は18年ごろ終息か SMBC信託銀行 投資調査部 シニアFXマーケットアナリスト 二宮圭子

2016/10/13

 私が外国為替(外為)に携わって、かれこれ30年近くがたちます。外資系金融機関に勤めている以上は外為に関わる業務に就きたい、という希望がかない、ある日テラー(窓口業務)からインターバンクディーラーへ異動する機会を与えられました。

 外貨やトラベラーズチェックの販売・換金、海外送金の手続きをする窓口業務はたいていの場合、資金の出し手と受け手のいずれかが円になります。しかし、インターバンクディーラーは銀行間市場で米ドルをはじめ、ユーロや豪ドルなど多通貨間の為替取引を行うため、出し手も受け手も円とは限りません。例えば豪ドルがニュージーランド(NZ)ドルに対して強いかそれとも弱いか、瞬時の判断を求められる職種なので、1米ドル=100円がある時点と比べて円高なのか円安なのかは理解していても、駆け出しの頃は1豪ドル=1.06NZドルといったなじみの薄い通貨ペアの為替レートとトレンドを把握するのに苦労し、先輩ディーラーに大目玉を頂戴したこともありました。

 昨今、日本の個人投資家の為替取引は円を介さないユーロ/ポンドやポンド/豪ドルなど多種多様で、その機動力と柔軟性には目を見張るものがあります。ドルは基軸通貨として相場をけん引するのが常ですが、時としてドル以外の先進国や資源国、新興国通貨をきっかけに新たなトレンドが形成されることもあります。外貨投資はご自身の運用目的や期間に見合ったものであることが前提ですが、その時々の市場環境に合わせた通貨の選択も重要です。こうしたなかで、外貨←→外貨の運用も有効な手立てとなるでしょう。この回では2016年を振り返り、来年の為替相場を米ドルを中心に展望したいと思います。

■16年の相場を振り返ると

 16年の金融市場は波乱の幕開けでした。米連邦準備理事会(FRB)が15年12月に9年半ぶりの利上げを決定したため、米ドル高のトレンドが継続するかと思いきや、人民元安と原油安を背景にリスクオフの円買いが先行したのです。しかし、日銀が16年1月末の会合でマイナス金利を導入すると円売りが加速し、ドル/円は121円70銭付近までドル高・円安になりました。ただ、世界的な低インフレを背景に米国の景気回復ペースは速まらず、市場の利上げ観測が徐々に後退し、米ドルは上値の重い展開が続きました。

 一方、英国は6月に実施した国民投票で欧州連合(EU)からの離脱を選択、想定外の結果にマーケットはポンド売り一色に。金融市場が混乱に陥るなか、日経平均株価は1万5000円割れ、ドル/円は一時99円付近まで急落しました。その後、日本では7月10日の参院選で自公民が圧勝し、政府の大型経済対策への期待が投資家心理の改善につながったことで円安が進行、ドル/円は107円台半ばまで反発しました。ただ、FRBと日銀の政策運営に対する不透明感がくすぶり、その後はおおむね99円台半ばを下値に、上値を切り下げる形で上下を繰り返しました。

 相場には上昇、下降、横ばいの3つのトレンドがありますが、年初来のドル/円はチャートパターン上、典型的な三角持ち合い相場を形成しました(図表1)。方向感のないトレンドはこの間のドル円相場が横ばいであったと判断されますが、11月8日投開票の米大統領選挙を目前に控えて、ドル/円は5週間ぶりに104円台を回復。地合いはドル高・円安に振れて、上昇基調に向かいつつあります。

■相場をリードするメーン・ドライバーを知る

 16年のここまでの為替相場を総括すると、円安→円高→米ドル安→ユーロ高→米ドル高→ポンド安→米ドル高→円安、といった具合に、相場を揺り動かすきっかけとなる通貨が目まぐるしく変わっています。従ってトレンドの転換をいち早く予測するうえで、相場を先導するメーン・ドライバー(通貨)を認識しておくことが重要だと思います。一言で「円高・ドル安」といっても、それがドル安の影響によるものなのか、逆に円高の影響によるものかによってトレンドの勢いや長さは別であり、メーン・ドライバーの把握はそれを知ることにつながるからです。

 12年12月、第2次安倍政権が打ち出した経済政策、いわゆるアベノミクスへの期待に伴い円売りが加速し、ドル/円は11年10月に付けた史上最安値75円32銭で大底を付ける形となりました。1995年以来の長期ドル高・円安トレンドが継続したのは、FRBのバーナンキ前議長が2013年5月に量的緩和第3弾(QE3)の規模を縮小する可能性を示唆したことによる米ドル買いもさることながら、円安主導でドル/円を押し上げたことは言うまでもありません。ただFRBの利上げ観測がいかに高くても、円安要因が薄れるか、もしくは円高要因が浮上すれば米ドルの上昇は阻まれ、相場の流れを円高に変えることにもなりかねません。

 実際、15年6月初め、日銀の黒田総裁が衆院財務金融委員会で「実質実効為替レートでは、かなり円安の水準になっており、さらに円安に振れることはありそうにない」と述べたことをきっかけに円の買い戻しが加速。中国人民銀行が事実上、人民元を切り下げたことも相場を後押しし、ドル/円は15年8月下旬にかけて125円86銭の高値から116円18銭まで、7%超も下落しました。

■米大統領選後は再び米ドル安へ

 今大統領選で民主党が3期連続で政権を担えば、通商政策に大きな変化はみられず、緩やかな経済成長が続くと思われます。一方、共和党が政権を奪回すればトランプ候補の政策提言が実行されることで、短期的には景気が上向く可能性もあります。しかし、北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉と見直しを公約に掲げるなど国際貿易を含む強硬な政策には不確実性を伴うほか、トランプ候補の移民政策には一貫性がみられず、経済成長に不可欠な米国の労働力に不透明感が広がるでしょう。そうなれば景気減速への懸念がくすぶり、FRBが利上げのペースをさらに緩めるか、もしくは逆に緩和姿勢に戻るとの見方が浮上するかもしれません。

 両党は財政赤字の拡大を容認すると思しき公約を掲げていますが、国際通貨基金(IMF)の予測によれば、米国の経常赤字は来年も対GDPで3%近くまで拡大する見通しです。経常(貿易)と財政の「双子の赤字」が顕在化すれば、中長期的には米ドル安基調となる公算が大きいでしょう。

■ドル円は18年をメドに底入れか

 20年に開催される東京オリンピックまであと4年。IMFのデータに基づけば、オリンピック当該国の経済成長は開催年の前々年から前年にかけてピークを迎えるケースが多いようです(図表2)。

 仮に、日銀が2%の「物価安定の目標」を17年半ばをメドに達成すれば、金融政策の正常化を求めて量的緩和の規模縮小、いわゆるテーパリングが18年以降に始まる可能性もあります。主要中銀の低金利政策に伴う過剰流動性相場が解消されれば、市場のリスクオン・オフムードに左右されず、ファンダメンタルズに則した本来の相場が展開されることになるでしょう。オリンピックに向けて日本の景気が拡大基調を強めれば18年をメドに、円高はピークをつけてドル/円は底入れ感を強めていくかもしれません。

二宮 圭子(にのみや・けいこ) SMBC信託銀行 投資調査部 シニアFXマーケットアナリスト。シティバンク銀行入行後、法人金融部門・外国為替部にてインターバンク・ディーラー業務に従事。現在はSMBC信託銀行のシニアFXマーケットアナリストとして、為替市場の調査・分析および個人投資家向け情報提供を担当。主にテクニカル分析を得意とする。日経CNBCなどで為替情報を発信中。

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