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投信調査隊

資産総額6兆円 ファンドラップの実態 QUICK資産運用研究所 清家 武

2016/10/12

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金融機関が個人顧客と投資一任契約を交わし、顧客に代わって投信で資産運用する「ファンドラップ」は2014年から15年にかけてヒットし、資産総額は約5倍に増加した。今年に入り資金流入の勢いは落ちたものの、総額は6兆円程度で高止まりしている。

投資信託の中長期投資と資産分散を重視し、資産管理型の営業を推進する金融機関が増えるなか、投信の「コア・サテライト戦略」が普及しつつある。

■コア資産にするケース多く

「コア・サテライト戦略」とは、ポートフォリオを組成する際に有効な考え方で、運用資産を守りの「コア(中核)資産」と攻めの「サテライト(衛星)資産」の2つに分け、効率的に運用する手法だ。

リスク・リターンが低めのコア資産をポートフォリオの中心に据えて、残りをリスク・リターンが高めのサテライト資産で運用し、安定的な成長を確保しつつ相対的に高いリターンを狙えるポートフォリオの組成を目指す。大手の金融機関はそのコア資産として、ファンドラップを据えるケースが多い。

今年6月末時点のファンドラップの残高は、野村証券、大和証券、SMBC日興証券、三井住友銀行、三井住友信託銀行の大手の金融機関5社で全体の8割を占めている。

ファンドラップは口座・運用の管理、情報開示などのシステム費用が高いため、多くの金融機関には参入障壁が高い。そのため、ファンドラップに近い運用をする「ラップ型ファンド」を採用し、コア・ファンドとして販売に注力する地域金融機関も多い。

■リスクは低め

QUICK資産運用研究所が独自に推計したファンドラップ大手のパフォーマンス(管理報酬控除前)を見ると、過去5年間の上昇率は野村証券が65%、大和証券が71%、三井住友銀行(SMBC日興証券が投資一任運用)が74%、三井住友信託銀行が30%になった。

また、価格変動リスクを示す標準偏差(月次5年)は、野村証券が8.5%、大和証券が9.4%、三井住友銀行が10.3%、三井住友信託銀行が7.0%となり、比較的リスクは小さめだ。一般のバランス型ファンドの標準偏差の平均11%と比較しても小さい。

標準偏差が10%のファンドは、平均的な年間リターンを0%と仮定した場合、年間騰落率が約68%の確率で10~-10%の範囲に収まり、約95%の確率で20~-20%の範囲に収まることを意味する。各社のファンドラップの標準偏差は10%程度であり、年間で20%下落する確率は低い。

リスクが小さい要因としては、分散投資効果によるリスクの低減に加えて、比較的リスクの小さい国内債券型ファンドへの投資比率が高いこともある。

6兆円も残高があるファンドラップだが、運用方法については一般に広く知られていない。アロケーション(配分比率の決定)、ファンド・オブ・ファンズ運用(複数のファンドに投資する運用手法)、投資先ファンドの運用など複数段階で運用を行う。

ファンドラップ大手の運用に関わる担当者に詳細を取材した。

【野村証券 投資顧問事業部長 立山浩二氏】
野村のファンドラップ・サービスは顧客との綿密な相談に基づき、顧客一人一人にあわせた「より適切な資産配分」に沿った運用を継続的に行う。基本となるリスク水準は「保守的」「やや保守的」「普通」「やや積極的」「積極的」の5段階だが、実際にはより細分化されたパターンの資産配分を提供している。
また、3カ月ごとに資産配分を見直すといった定期的なメンテナンスを行うとともに、顧客の状況の変化に応じて運用プランの見直しも行っている。
野村ファンドラップでは「バリュー・プログラム」「プレミア・プログラム」という2つのプログラムを用意している。500万円から投資できる「バリュー・プログラム」はインデックス投信を複数組み合わせて分散投資するのに対し、1000万円から投資できる「プレミア・プログラム」はアクティブ投信を複数組み合わせて分散投資する。また、「プレミア・プログラム」では為替ヘッジも可能となっている。
顧客の大切な資産を守るために「品質管理」が重要だと考えている。その品質管理の一つとして「プレミア・プログラム」では、ファンド・オブ・ファンズの運用で長年の実績がある野村ファンド・リサーチ・アンド・テクノロジーの情報を活用している。
【野村ファンド・リサーチ・アンド・テクノロジー 取締役社長 横田靖博氏】
当社はファンドの分析・評価と、それをベースとしたファンド・オブ・ファンズ運用への投資助言を行っている。
ファンドの評価には「定量評価」と「定性評価」があるが、当社では過去の運用実績を評価する「定量評価」よりも、将来への期待度を評価する「定性評価」を重視している。年間の調査件数は1300件に及び、世界中の運用会社やファンドを調査し、その中から優れたファンドを選定し、ファンド・オブ・ファンズ運用への投資助言に生かしている。
【大和証券 ラップ・ファンドビジネス部長 間宮賢氏】
当社のファンドラップで特徴的なのは、2段階のアルファ(どれだけベンチマークの収益率を上回っているのかを示す数値)をとる収益構造。1つ目は、「リターン、リスク、相関」の3要素の推計分析からもたらされるアルファ。2つ目は、「投資先ファンドの選択能力」から得られるアルファ。
「オルタナティブ(ヘッジファンド運用など、株式や債券などの伝統的な資産とは異なる資産での運用)の運用」も重要な要素だ。オルタナティブは、伝統的資産と違い、運用の技術により収益を獲得する。そのため、ファンドの目利きの差が出やすい。
契約金額3000万円以上の「ファンドラップ プレミアム」では、運用口を最大5つまで設定できる点が特徴だ。老後用の運用口、レジャー費用の運用口、相続用の運用口など用途別に分けられる。
運用口ごとの付帯サービスとして、万が一のときに円滑な相続ができるようにサポートする「相続時受取人指定サービス」や資産運用と社会貢献活動を両立する「寄附サービス」、定期的に換金できる「定期受取サービス」などがある。
【SMBC日興証券 投資顧問事業部長 佐々木知信氏】
当社の投資顧問事業部はSMBC日興証券が販売する「日興ファンドラップ」、三井住友銀行が販売する「SMBCファンドラップ」を運用している。
金融市場では株式だけでなく、国内外の債券など伝統的な資産の価格変動が大きくなっている。伝統的資産との相関が低いヘッジファンドタイプのオルタナティブ資産への投資がポイントになる。ヘッジファンド運用は悪者にされるケースが多いが、実際はリスクが小さいものも多い。
ファンドラップの運用はアロケーションに加えて、モニタリングも大事。パフォーマンスが悪いファンドの運用会社には、パフォーマンスの改善を求める。状況によっては、海外の運用会社まで訪問する。
「日興ファンドラップ」は、外国籍投信で運用していることもポイント。ファンド・オブ・ファンズの入れ替えの実務が簡便であり、税制面でも申告手続きなどの負担が少ない。
「グローバルなファンドの運用、モニタリング」や「外国籍投信の運用」、「顧客のサポート」など、きめ細かく手間をかけて運用している。

■年間3%程度のコスト

ファンドラップは、アロケーションとファンド・オブ・ファンズの運用、投資先ファンドの運用など複数段階での運用に手間をかける上、投資家ごとに口座・運用を管理したり、情報開示をしたりするなど比較的大きな事務・システム負担も発生する。

ファンドラップでは年間1.5%程度の運用管理費用にファンドの信託報酬が追加されるため、年間2%超から高い場合には3%程度のコストがかかる。

投信の短期売買をする金融機関の存在が以前から指摘されてきたが、ファンドラップでは金融機関が顧客との関係を重視し、資産分散による低リスク運用で中長期投資を推進している点は大きな変化といえる。

昨年「急速な成長」をしたファンドラップが、今後も「継続的な成長」を続けるには、顧客に対してファンドラップの仕組みとコストの説明を徹底することと、安心できる運用成績を残すことが重要となる。

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