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村上春樹を旅する 芦屋からギリシャの島まで

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NIKKEI STYLE

村上春樹氏は旅をする小説家だ。スコットランドでウイスキーを飲み、香川でうどんを食べ、熊本や福島の被災地に飛ぶ。ヨーロッパやアメリカに長期滞在したこともある。主人公が旅をする小説も多く、作品と旅は深く結びついている。「そう、ある日突然、僕はどうしても長い旅に出たくなったのだ。それは旅に出る理由としては理想的であるように僕には思える。シンプルで、説得力を持っている」(「遠い太鼓」)。村上春樹氏の小説を片手に、その世界をめぐる旅に出てみよう。

◆    ◆    ◆

芦屋(兵庫県)~もう猿はいない 「風の歌を聴け」

 海から山に向かって伸びた惨めなほど細長い町だ。川とテニス・コート、ゴルフ・コース、ずらりと並んだ広い屋敷、壁そして壁、幾つかの小綺麗なレストラン、ブティック、古い図書館、月見草の繁った野原、猿の檻のある公園、街はいつも同じだった。(「風の歌を聴け」1979年)

村上春樹氏のデビュー作「風の歌を聴け」の時代設定は1970年。大学生の主人公が故郷でひと夏を過ごす物語だ。小説に具体的な地名は出てこないが、村上氏が少年時代を過ごした芦屋をモデルにしていることは間違いない。芦屋は富裕層が多く住む静かな高級住宅街で、瀟洒(しょうしゃ)なギャラリーやカフェがさりげなく立ち交じる。山側から海にむかって、阪急、JR、阪神の3本の鉄道が走っている。

阪神電鉄打出駅から北に数分歩くと「猿の檻(おり)のある公園」、打出公園に至る。大学生の「僕」と友人は泥酔して車を運転し、公園の垣根を突き破って、檻の中の猿をひどく怒らせる。打出公園に猿の檻はまだある。ただし、猿はもういない。芦屋市役所によると「以前はタイワンザルのほかにクジャクやインコもいました。しかし2003年に猿が、10年にクジャクが死に、それ以来檻は空です」(公園緑地課)。檻があることをのぞけば、滑り台などの遊具がある普通の公園だ。時折、近所の子供たちの歓声が響く。

小説に「人口は7万と少し。この数字は5年後にも殆ど変わることはあるまい」と書かれた芦屋市の人口は現在約9万人強。1995年の阪神・淡路大震災による被害を乗り越えて、増加基調が続いている。

早稲田・目白台(東京) お屋敷跡の高台 「ノルウェイの森」

 その寮は都内の見晴しの良い高台にあった。敷地は広く、まわりを高いコンクリートの塀に囲まれていた。門をくぐると正面には巨大なけやきの木がそびえ立っている。樹齢は少くとも百五十年ということだった。(「ノルウェイの森」1987年)

「100パーセントの恋愛小説」というキャッチコピーで1987年に出版された「ノルウェイの森」は爆発的なヒットとなった。描写から主人公が通うのは早稲田大学で、村上氏自身が住んだことのある目白台にある寮がモデルであることが分かる。

都電荒川線の終点・早稲田駅から、ところどころに印刷会社の交じる静かな住宅地を歩く。神田川を越え、車が通れない狭い「胸突坂」をのぼる。日本や東洋の古美術品の収集で有名な永青文庫や公園のある緑の多い目白台の高台だ。

「高台の学生寮」は今もこの一角にある。正面の門から大きなけやきが見えるが、奥の建物までは分からないほど敷地は広い。永青文庫を含めた一帯はかつての熊本藩主・細川家の屋敷跡で、寮内には旧細川侯爵邸(不定期に一般公開)が残る。小説の中で寮は毎朝国歌とともに国旗を掲揚する「うさんくさい寮」として描かれる。寮から出てきた男子学生に声をかけると、「いや、国旗は掲げていませんよ」と苦笑された。

札幌市(北海道)~バブルへの疾走 「ダンス・ダンス・ダンス」

 ホテルはすぐにみつかった。それは二十六階建ての巨大なビルディングに変貌を遂げていた。(中略)そんなものを誰が見落とすだろう? 入り口の大理石の柱にはいるかのレリーフがうめこまれ、その下にはこう書かれていた。
 「ドルフィン・ホテル」と。(「ダンス・ダンス・ダンス」1988年)

北海道に謎の「羊」を探しに行く物語「羊をめぐる冒険」から数年。再び北海道を訪れた「僕」はかつて宿泊した古びた「いるかホテル」が近代的な高層ホテル「ドルフィン・ホテル」に建て替わっているのを知って驚く。時は1983年。日本はバブル景気の前夜に差し掛かっていた。ホテル建設の背景には何やら不透明な土地取引と巨額マネーの気配がしている。

「ドルフィン・ホテル」は架空のホテルだが、80年代の札幌は実際に大型ホテルの開業が相次いだ。例えば市の北部の川のほとりに建つ「ガトーキングダム・サッポロ」。86年に「札幌テルメ」の名称でプールや温浴を備えたレジャー施設として開業し、その後ホテルを併設した。総事業費は400億円を超えたといわれる。

だが北海道の地域経済を支えた北海道拓殖銀行(拓銀)が97年に経営破綻。拓銀が支えてきた札幌テルメも98年に運営会社などが破産宣告を受け、施設は閉鎖された。巨大施設はその後、山梨県の菓子メーカー「シャトレーゼ」が再オープンさせ、今は札幌市内の子どもたちの遊び場としてにぎわいを取り戻している。

最近の札幌では再びホテルの供給不足が課題になってきた。1年を通じて外国人観光客が多く、宿泊料が跳ね上がることもある。札幌からやや離れたニセコや千歳などでは、外国人観光客を当て込んだ新たな宿泊施設の建設が続いている。

ギリシャの島~乾いた山と白い家 「スプートニクの恋人」

 目を細めて、窓の外を過ぎていく眩しいロードスの町並みを眺めていた。空には雲ひとつなく、雨の予感もなかった。太陽が家々の石壁を焼いていた。節くれだった木々はほこりをかぶり、人々は樹木の蔭や、張りだしたテントの下に腰をおろして、言葉少なに世界を眺めていた。(「スプートニクの恋人」1999年)

「スプートニクの恋人」で主人公は失踪した友人を探しにギリシャに渡る。まずはロードス島に。次いでフェリーで近くの小さな島に。小さな島の名前は物語に出てこないが、ロードス島に近く、村上氏がかつて滞在したことがある「ハルキ島」がモデルなのかもしれない。

ロードス島はエーゲ海東部の大きな島で、トルコ(アナトリア半島)の南側に浮かぶ。アテネから飛行機で約1時間の距離だ。中心都市ロードス市は聖ヨハネ騎士団が築いた「騎士団長の館」を中核に、巨大な門や分厚い壁に守られている。中世、オスマン帝国との間で激しい攻防の舞台となったことがうかがえる。旧市街は石畳に覆われた細い道がくねくねと続く。大型の車は通れない場所も多く、スクーターが市内交通の手段として活躍している。多くの観光客が訪れ、レストランやカフェ、ホテルもたくさんある。

だが一歩ロードス市を出ると、乾いた山がちな風景が広がる。茶色い斜面にはわずかなオリーブやブドウの木があり、小さな町が点在する。家々の壁は白い。物語の中で主人公が渡った「小さな島」も、観光客のあまり来ない、かといって産業らしい産業も乏しい場所だ。

経済危機後にギリシャの観光客は一時大きく落ち込んだが、足元では回復傾向にある。欧州人のバカンス先として有力なトルコやエジプトへの訪問客が政情不安から低迷しており、その影響を受けた面もある。

千倉(千葉県南房総市)~朝ごはんがうまい 「1Q84」

朝早く起きて海岸を散歩し、漁港で漁船の出入りを眺め、それから旅館に戻って朝食をとった。出てくるものは毎日判で押したように同じ、鯵の干物と卵焼きと、四つ切りにしたトマト、味付けのり、シジミの味噌汁とご飯だったが、なぜかいつもうまかった。(「1Q84」2009年)

「1Q84」の主人公の男性の父親は、千倉の療養所に長期入院している。主人公は父親を見舞いに行き、千倉の漁港近くの簡易旅館にしばらくの間滞在する。海水浴のシーズンからはずれていて、観光客は少ない。

房総半島の南端近くにある千倉は温暖な土地で、1~3月の花のシーズンは海沿いにポピーやキンセンカなどの見事な花畑が広がる。ただし主人公が宿泊したような簡易旅館や昔ながらの民宿は「後継者難で最近はだんだん減ってきている」(南房総市観光プロモーション課)という。主人公は特急と普通列車を乗り継いで千倉に行くが、最近は自動車道が整備され、東京周辺から車で日帰りする人が多い。

フィンランド~マリメッコやノキア 「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」

 「フィンランドにいったい何があるんだ?」と上司は尋ねた。
 「シベリウス、アキ・カウリスマキの映画、マリメッコ、ノキア、ムーミン」とつくるは思いついたことを並べた。
 上司は首を振った。どれにも興味がなさそうだった。(「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」2013年)

物語の後半で主人公は古い知人に会いに、フィンランドに向かう。初めての海外旅行先がヘルシンキ。今では東京(成田)、大阪、名古屋、福岡から直行便が飛び、約9時間半でヘルシンキに到着する。乗り継ぎ便の利便性も高く、欧州各地への玄関口として人気が高まっている。

小説で描かれているように、首都ヘルシンキは静かでコンパクトな町だ。人口は約60万人、日本でいえば鹿児島市くらいの規模。ヘルシンキ大聖堂やマーケット広場といった主要な観光ポイントをほとんど歩いて回れる。市電が発達しているし、マーケット広場前の港からはフェリーで世界遺産の要塞があるスオメリンナ島にも15分ほどで行くことができる。

主人公はヘルシンキから約100キロ離れたハメーンリンナという町に向かう。シベリウスの生家と湖畔の城がある。ヘルシンキから足を延ばせば「森と湖の国」を実感することができるはずだ。

最近ならフィンランドに何がある、と問われれば携帯電話事業をマイクロソフトに売却したノキアに代わって、スマホゲーム開発のIT(情報技術)ベンチャーを挙げる人もいるだろう。物語にはフィンランドの食器ブランド、アラビアの名前もちらりと出てくる。シンプルで現代的な北欧食器を土産にするのもいいかもしれない。

ヘルシンキの夏は遅くまで明るい日差しがあるが、秋は1日ごとに暮れるのが早くなる。冬には港にも氷が押し寄せるようになる。

(高)

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