離婚は夫婦の関係が完全に壊れる前に
紫原明子さんインタビュー(前編)
ネットで育った新しい世代の書き手として、「セックスレス」や「ママ友問題」、さらには「お母さんの恋愛」といったテーマに切り込み、『cakes』をはじめ多くのウェブ媒体で活躍するエッセイストの紫原明子さん。起業家の家入一真さんとの結婚、そして怒涛の離婚を経て、現在は14歳の息子と10歳の娘を育てながら執筆活動やウェブメディアのコンサルティング業などを精力的にこなすシングルマザーでもあります。2016年6月には初の著書となる『家族無計画』(朝日出版社)を出版、そこでは仕事と子育ての狭間で「新しい家族の在り方」を模索する紫原さんの姿が浮かび上がります。
紫原さんが考える「息苦しくない家族のカタチ」ってどのようなものなのでしょう。「賢い離婚の仕方」から「アラサーの就活」「シングルママの恋愛」まで、日経DUAL羽生祥子編集長が伺いました。
――18歳で起業家の家入一真さんとご結婚されて、19歳で第一子を出産、現在33歳の紫原さん。もう中2と小学校高学年になるお子さんがいるんですもんね。ご著書『家族無計画』を読んで「若干33歳なのに、もう50歳女性くらいの経験を積んでいる」と恐れ入りました(笑)。今回は主に、「離婚のリアルとノウハウ」を教えてください。家入さんと離婚されたのは31歳のときですね。周囲にはシングルマザーになって「せいせいした」というママ友が多いのですが、紫原さんの場合は、100%カラッとしているわけではなくて、もう一度チャンスがあれば、再婚を「勝ちゲーム」にしてのし上がりたいという思いもおありのようで…。そんな思いがシングルマザーにはあるのかと正直驚きました。
女性って、子どもがいなくても楽しんでいる人が勝ちとか、逆に子どもがいても不幸なら負けというように、結局、心持ち次第のところで張り合っていますよね。それは離婚についても同じで、せいせいした部分はありますが、一方で社会的に失敗だと思う人も多くて。もともと一緒にやっていこうと思って連れ添ったのに、やっていけなくなったわけだから。それに対する風当たりを感じることもあるので、精神的に弱った時などに、私のこういうところがよくなかったのかなぁとひとりで反省会を開いてしまうみたいなところがあるんです。
あとは、誰かと距離を縮めようとしたときに、ここでグイッといき過ぎちゃうとダメかなぁとか、失敗から学ばなきゃという思いで自分を制してしまったり。ふとしたときに、離婚を失敗だと思っている自分に気づくことがある。ただ、昔のほうが苦しかったので、今のほうがすっきりしているとは思います。
離婚は公正証書をとってから
――本当は離婚したいなぁと思っているんだけど、ダブルインカムだから何とか生活が回っているため一歩踏み出せずにいる人に、紫原さんからかけてあげたい言葉はありますか。
公正証書をとるなど、養育費をちゃんと支払ってもらえる環境をつくって離婚したほうがいいと思います。
――いきなりリアルで具体的ですね(笑)。
ええ、大事なことですから(笑)。本『りこんのこども』(マガジンハウス)を執筆するに当たって、両親の離婚を経験した小学生から高校生までの6組の子どもとその親に話を聞いたんです。そうすると養育費をもらっていないお母さんが本当に多くて。
これは問題ですよね。飢えて苦しむ人が目の前にいるわけではないので、払わなくてよければ払わない元夫が多い。離婚後も結局、「お金をください」「あげます」みたいな生臭いやり取りだけは残るんです。それが子どもを育てる親の務めといわれれば、そうなのかもしれませんが、仲介してくれる業者が必要だと思っています。
『りこんのこども』に登場するある子は、幼稚園のときに七夕の短冊に「パパがおうちにきますように」って書いたんですね。パパが来たら、ママが今ほど働かなくてよくなるらしいって。
――子どもって本当に健気ですね。泣けてきます。
その子はお母さんが仕事をいくつも掛け持ちしているので、一週間のうち平日はお母さんと全く会えない生活なんです。だから、お母さんが少しでも働かなくてよくなるように、パパが来ますようにと書いた。
それくらい、お母さん一人で子どもを育てていくのは大変。だから、夫婦の関係性を完全に断つ前に離婚したほうがいい。養育費含め、その後のやり取りはずっと続くし、子どもたちのお父さんである以上、関係は切れませんからね。私は両親の問題と子どもの問題は分けて考えたいなと思っています。
――離婚と子育てを分けて考えるのが大事ということは、私も非常に同感です。「親としての役割」と「夫婦としての役割」は違うという考え方。欧米の離婚スタイルでは一般的と聞きますが、日本では混同しがちです。夫婦の関係が壊れる=子育ては母が一身に背負う、となってしまう。マチュア(成熟した関係)じゃない。
そうそう。私は、(夫としての関係は終わったけれども)、子どもからお父さんを取るのはかわいそうだという思いから、元夫と子どもの関係は大切にしてもらいたいと思っています。
賢い離婚の仕方って?
――さてそのお父さん、紫原さんの元・旦那様は普通のサラリーマンと違って有名起業家だから、ガンガン稼いで生活も刺激的なエネルギーあふれる人。さぞかし華のある生活だったんじゃないですか。
そうですね。多いときは月ン百万円の収入で、それとは別に億単位の株を持っていたので、お金ってそんなにすぐなくならないと思っていました。でも、なくなるんです(笑)。
離婚するに当たって、弁護士さんに相談したら「いや、お金はどこかにあるはずだ。だいたいそういうやつは隠してるから」って言うんですよ(笑)。これもぜひ書いておいてほしいんですが、相手が資産を隠している可能性があります(笑)。個人情報保護法によって、相手の隠し口座を発見するのがどんどん難しくなってきている。だから、離婚しようと思ってすぐ行動に移すのは負けで、どこにどの口座を持っているなどある程度把握して、自分の中でその後の生活設計を立ててから、切り出さないとダメですよね。私の場合はノープランでそこに挑んでしまったうえ、そうこうしているうちに夫が失踪、別々に暮らし始めたとき、別宅の存在や何百万円の明細書なんかが次々と出てきたという…。
――紫原さんが一番傷ついた彼の裏切りは、浮気ですか? それとも、お金?
ん~、夫が外で見せる顔と家の中で見せる顔が全然違っていたことですかね。家族の中と外で同じ顔を見せなくていいと思う人もいると思いますし、いろんな関係性があっていいと思うんですけど、私と夫の場合はもともと全部見せ合っていたのに、途中から夫が家の中と外の顔を切り替えるようになった。私が見えない外の顔がどんどん大きくなって、その人はキャバクラに2000万円使ったり、女グセが悪くて有名になってしまっていた。家族に全く見せない顔をいつの間にか持っていたということが、一番の裏切りだったのかなぁと思います。
"息苦しくない家族のカタチ"を模索したい
――気になるのがお子さんのことです。子どもたちはパパとママが離婚して「寂しい」と言ったりしましたか。
『りこんのこども』を書くに当たって、子どもたちに聞いたことがあります。本の中に「寂しいと思う暇がなかった」という一節があるんですが、それをチラッと見た下の娘が「あ、そうそう、私もそうだった」って言ったんですよ。離婚の前後って生活のスタイルも変わるし、何かとバタバタしているし、うちの場合は特に人の出入りも多かったりしたので。どこまで本音かは分かりませんが。
子どもたちは家族のなかでも生きているけど家の外でも生きていて、そうした社会で培われた価値観も半分くらい持っている。そこに私が画期的なやり方はこれだと持ち込んでも、戸惑いはあると思うので、例えば離婚するとか再婚するというような家族の形が変わることについては、自然な流れがいいかなぁと思っています。こういう生き方もあるよというのを提示して、子どもたちの代で自分なりにアレンジしやすくなっていたらいいなぁと。家族を築くということはライフワーク的にやっていきたいなと思っています。
――家族を築くことがライフワーク、ですか。新発想! もしかしたらウチにも取り入れるといいかも、まだ離婚してませんが(笑)。
まだ自分のなかでもいろんな葛藤はありますが、新しい、もっと息苦しくない家族のカタチを模索していきたいですね。
(ライター 毛谷村真木)
[日経DUAL 2016年9月15日付記事を再構成]
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